赤堀雅秋さんが作・演出されるTHE SHAMPOO HATの劇団新作公演です。シアタートラムへは初進出ですね。
一体どうなるのか(どうするのか)と思ったら、あんなことに!爆笑してからほろりと涙しました。上演時間は約2時間10分。
⇒CoRich舞台芸術!『立川ドライブ』
≪あらすじ≫
東京都立川市。しがない巡査の松田(赤堀雅秋)はキャバレーのホステス・さやかちゃん(坂井真紀)にぞっこん。
≪ここまで≫
巡査とホステスを中心に、東京のちょっと郊外に暮らす人々の日常生活の断片を描きます。一見とても平凡な、というか平凡すぎてちょっと退屈に感じちゃうぐらいの会話がこつこつ積み上げられていきます。でも、これがじわじわと効いて来るんです。
登場するのは自分が盲信する“普通”を振りかざす、ちょっと困った人々。それって私たちそのものなんだと思います。役者さんは「あ、こういう人いるいる!」と思わず苦笑してしまうぐらいリアルに、そして滑稽に見えてくるように演じられていました。街中でじーっと人間観察をするように楽しみました。
何が“普通”なのか“幸せ”なのかよくわからなくなってきた現代人にとって、なぜか今も広く流布している“ごく普通のささやかな幸せ”は、肩や頭にのしかかってくる絶望的な重荷になりかねません。
また、無限に生み出され続けている“モノ”およびその“価格”“効能(モノが与えてくれる幸せ)”についても、冷静に考えました。
ここからネタバレします。
同じ料理教室に通っている女友達同士でも、金銭感覚はまるで違います。190円のプリンは高いのか、700円のプリンは安いのか。プラズマディスプレイのテレビ、食洗機、高級ブランドの服飾品などの具体的な価格がセリフに出てくる度に、むずむずと湧き上がってくる違和感を覚えました。
プリンの話をしてるのにセックスの話題を持ち込むあたりに、現代人の節操のなさがよく現れていると思いました。何でもかんでも同じ階層に持ってきて話してしまう人、いますよね。それって年功序列、家族などの社会的な仕組みが崩れてきていることが原因のひとつなんじゃないかしら。また、インターネットと携帯の発達が個人をもっと独立・孤立させていっていることも関係している気がします。・・・などと勝手に想像を膨らませて考えました。あ、テレビゲームと現実が混ざってきてるというような話題もありましたね。
腹部が血に染まった男女(巡査とさやか)の死体が転がっている場面で開幕。舞台左右手前のディスプレイに269日前、201日前、135日前・・・と文字が出て、徐々に幕開けの死のシーンへと向かっていく構成でした。
松田は興信所調査員(日比大介)にさやかの身辺を調べさせます(興信所の調査料は68万円)。松田のストーカー行為は徐々にエスカレートし、さやか(本名:工藤洋子)は追い詰められていきます。
洋子の心無いメールの返事に逆上して、松田は彼女の家に向かいます。松田が洋子の家に入る前に、松田が洋子に送った携帯メールの文章が書かれた白い垂れ幕が、天井からばっさばっさと開いて降りてきます。
「好きです好きです好きです」「今どこにいるの?」「結婚してください」「ドルチェ・アンド・ガッパーナ」(バがパになってるのがポイント)
あまりに可笑しくて、わははと声を出して笑ってしまいました。でも次の瞬間には、なぜか涙が溢れてきました。モノが進化してバカみたいに便利になってきた世の中で、なぜこんな簡単なことが出来ないんだろう。自分の幸せとは何なのか、どうすれば自分が幸せになれるのか、わからなくなってきているのだと思います。
襲ってくる文字におびえる洋子は、幕を引きずりおろしながら床に転んで這いずり回ります。ちゃぶ台にはコンビニのおでんと缶チューハイ。彼氏(野中隆光)が出て行った後なのでしょう。興信所調査員いわく“普通すぎる女”である洋子のありのままの姿がありました。
松田は洋子を銃で撃ち殺してしまいます。そして自分もすぐに自殺。面白いのは洋子が全然逃げないことです。撃たれるとわかっていても、松田の正面に居続けます。・・・なぜなのかはわからないけど、逃げないことを疑問には思いませんでした。私は勝手に納得できていました。
「立川ドライブ」はおそらく2人の関係が一番幸せだった瞬間のことだと思います。松田が客ではなく巡査として洋子と接し、洋子の家の近くまでパトカーに乗って短いドライブをしました。洋子は初めてパトカーの助手席に乗って特別な気分を味わえたでしょうし、その時は仕事ではなくプライベートで松田自身と楽しい時間を過ごしたはずです。
第22回公演。
出演:児玉貴志、坂井真紀、藤原利映、野中隆光、日比大介、多門勝、黒田大輔、滝沢恵、吉牟田眞奈、梨木智香、長尾長幸、赤堀雅秋
脚本・演出:赤堀雅秋 舞台監督:大津留千博 照明:杉本公亮 音響:田上篤志(atSound) 舞台美術:福田暢秀 舞台製作:F.A.T STUDIO 衣装:平野里子 ヘアメイク:栗原由佳 宣伝美術:斉藤いづみ 舞台写真:引地信彦 WEB製作:野澤智久 舞台収録:原口貴光(帝斗創造) 演出助手:熊坂貢児 制作助手:谷慎 岩堀美紀 制作:HOT LIPS 武田亜樹 提携:世田谷パブリックシアター 企画製作:HOT LIPS
【発売日】2008/04/20 一般3,800円/当日4,000円
http://www.shampoohat.com/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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