30代の若手気鋭作家の書き下ろし戯曲を有名演出家が演出する、新国立劇場の“シリーズ・同時代”。
3作品連続公演の第三弾(⇒第一弾、第二弾)『まほろば』の稽古場にお邪魔しました。『まほろば』はモダンスイマーズの蓬莱竜太さんの脚本で、演出は栗山民也さんです。
出演者6人が全員女性で、年齢幅はなんと12歳から80歳!6人が並んでいるだけで壮観ですよ~。
⇒CoRich舞台芸術!『まほろば』
新国立劇場の稽古場レポートは『CLEANSKINS/きれいな肌』に続いて2度目です。リハーサル室Cには原寸大の装置が建て込まれていて、スタッフさん(舞台監督、音響、照明、演出部等)も大勢。
黒沢「マオ(黒沢さんが演じる11歳の少女)ってどんな子かな~。」
栗山「素直な子だよ。(セリフを)いやみで言うことがないよね。」
黒沢さんは現在12歳。ミュージカルやストレート・プレイの大舞台で活躍されている子役ですが、“子役”と呼ぶのを躊躇するほど自立した女優さんです。
お稽古は16:00ぴったりから開始。女性の高い声がぽつり、ぽつりと優しくこぼれて、とても静かで穏やかなムードです。でもピリっとした緊張感は『CLEANSKINS』と同じ。返し稽古(部分を抜き出して繰り返し稽古すること)を数回はさみ、稽古終了の21:00までに第1幕から第4幕までの全てを拝見することができました。
稽古場写真↓左から:秋山菜津子/中村たつ/三田和代
『まほろば』は長崎県のとある旧家の居間に集まった女たちのお話。夏祭りの一夜を描きます。
栗山「こんな“現代劇”、(演出するのは)初めてだよ。本当にそのままの“現代”でしょ。『CLEANSKINS』も現代劇だったけど、あれは舞台がアイルランドだったからね。」
今を生きる日本の女たちが本音でぶつかり、悩み、人生の大きな選択をします。登場人物の視点が4世代に渡るので、数十年の間に日本の家族がどのように変化してきたのかが、自然とわかってくるんですよね。
蓬莱さんの作品は座談会(パンフレットに掲載)でもお話しましたが、秘密が明かされていくのがとっても面白いんです。『まほろば』では現代口語の短いセリフから、驚くべきタイミングで、ほろっと大切な意味がこぼれ出てきます。そして笑いがいっぱい!リラックスして、新鮮な気持ちになって、前向きに“家族”を見つめることができました。
蓬莱脚本に栗山演出という組み合わせは、企画を聞いた時からぴったりだなと思っていましたが、全部を通して拝見したところ、まさに「“当たり”が出た!」という感覚でしたね。
栗山「(蓬莱さんは)若いのにうまいよね。若いのにっていうのは失礼かもしれないけど。」
栗山「この作家はしつこい。しつこいっていうのは執拗という意味でね。誰かに何かを問うシーンで、問いかけるセリフが4つか5つ続くんだ。だから『・・・』(問われた方がだまっている無言)の間に温度を上げていかないと。」
写真↓はフィードバック中の舞台面。出演者に加えて演出家、演出助手、方言指導者、プロンプターが集まります。
栗山さんの稽古場では、怒号が飛ぶようなことはありません。議論もほとんど起こりません。栗山さんも出演者の皆さんも、言葉数がとても少ないんです。短い言葉に意思とその背景などがすべて盛り込まれ、身体とその周囲の空気も含めてコミュニケーションを取られているように思います。だから密度が高くて、温かい。
栗山「どこかでお母さんを意識しながら(演技をしてください)。それぞれの動きを覚えるのではなく、関係を、状況を、距離感を、常に意識して。」
栗山「(その演技は)無意識に娘に責任を負わせる感じで。人間は一緒に住んでいる者に対してとても残酷なもの。(距離や関係が)ちょっと離れると、とたんに丁寧になるんだよね。」
栗山「声は出ているけど、それぞれ(の声)の行き先が、開いて刺さっていない。大きな声にするだけじゃなくて。魂に刺さないと。言われた方はその言葉を受け止めて、もっと怒りが大きくなっていく。」
栗山「そこはマクベスの独白みたいにやってみようか。ちょっとおおげさなんだけど(笑)。実はこのドラマで、独白はここしかないんだよね。」
フィードバックの時間は、全員が演出家の一言ひとことに、全身を耳にしたように集中しています。言葉の雫が一滴ずつ澄んだ水面に落ちて、きれいな波紋となって稽古場全体に広がっていくよう。出演者やスタッフからの質問や提案は、ひとつずつ慎重に、空間に浸透させるように決断されていきます。
例えば、今作品の登場人物は基本的に長崎弁を話します。でも、会話によっては標準語が混ざることもあり、出演者と演出家、方言指導者が相談して、セリフの語尾の一文字までこだわって、脚本に変更が加えられます。
栗山「ここで方言を使うことで、方言の香りを一瞬ふわっと膨らませたい。」
稽古場写真↓左から:中村たつ/前田亜季/黒沢ともよ/魏涼子/三田和代/秋山菜津子
演出の指示を聞いていて感じたのは、言葉も言葉にならない声も含めて、音を大切にしていること。どんな些細な音(声)にも敏感で、指摘がとても細かいんです。栗山さんには、お芝居全体が音楽のように聴こえているのだろうと思います。
栗山「ビニール袋を床に置くとき、(カシャっと)音を出しちゃってください。」
栗山「ハーイと言いながら、ちょっと髪を整えて身支度をしてみて。」
栗山「セリフの前に“ところで”という架空のセリフがある感じで。そこだけパっと時間が変わる。」
どんな芸術でもそうなのかもしれませんが、創作過程はとても地味です。舞台本番ではあんなに華やかな、夢のような世界を見せてくださいますが、それを生み出す現場は静かで、飾り気ゼロで、常に真剣勝負。人生を、人間を学ぶ“道場”みたい。
そんな中から生まれる『まほろば』は、笑いが絶えない身近な日常のすったもんだを描きながら、女たちの切実な思いが徐々に積み重なっていく、生命のドラマです。これから約1週間のお稽古でさらに厚み、深みが増していくことでしょう。7/14(月)の初日の夜に、稽古場ではまだ出会えなかったクライマックスを目撃したいと思います。
★本番の会場ロビーで販売されるパンフレットに、私が参加させていただいた座談会の記事(第3回)が掲載されます。シリーズ3作のミニ戯曲本(各400円で大好評!)もありますので、ぜひお手にとってご覧ください。
新国立劇場演劇『まほろば』07/14-21新国立劇場 小劇場
小劇場3作品連続公演 シリーズ・同時代Vol.3
出演:秋山菜津子 中村たつ 魏涼子 前田亜季 黒沢ともよ 三田和代
脚本:蓬莱竜太 演出:栗山民也 美術:松井るみ 照明:服部基 音響:秦大介 衣裳:宇野善子 ヘアメイク:佐藤裕子 方言指導:種口りつ子 演出助手:保科耕一 舞台監督:米倉幸雄 照明オペレーション:田中弘子 音響オペレーション:福沢裕之 演出部:川原清徳 藤本典江 プロンプ:大杉良 美術助手:望月麻衣 制作助手:上栗陽子 制作担当:茂木令子
【発売日】2008/04/26 A席5,250円 B席3,150円 Z席1,500円 『シリーズ・同時代3作品 特別割引通し券』14,250円(ボックスオフィスのみ)
http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000041_play.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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