劇作家のみで構成された劇団の本公演です。リーディング形式で6日間に7作品が上演されます(⇒過去レビュー)。
新国立劇場演劇研修所一期生の卒業公演『リハーサルルーム』のもとになった、篠原久美子さんの『ゴルゴダメール』を拝見。演出は劇団フライングステージの関根信一さんです。一期生も数名出演しています。上演時間は約2時間15分(休憩なし)。
⇒CoRich舞台芸術!『劇読みVOL.2』
≪あらすじ≫
健常者と障害を持つ人(アスペルガー症候群)が一緒に作る、市民劇の稽古場。
≪ここまで≫
リーディングが苦手な私ですが、どっぷり劇の世界に入り込んで楽しめました。小さな劇場で出演者が12人というのはなかなか複雑ですが、劇中劇のスタイルをわかりやすく演出してくれていて、照明も音響も優しくて良かったです。役者さんが舞台に歩いて登場する時から演じる役になりきっていたことも、作品世界へのスムーズな導入になっていました。
「健常者と障害を持つ人」「アスペルガー症候群」というキーワードから、強く主張したり、説明的に情報発信をする演劇を想像されるかもしれませんが、そればかりに重点が置かれているわけではありませんでした。人間が寂しさ、悲しさに打ち震え、必死でか細い手を誰かへと伸ばそうとしている姿を見て、今いちど、私たちの罪について考えました。
もちろん、アスペルガー症候群について知ることができたのは非常にありがたいことでした。わかりやすいQ&A形式で知ることができるのも、演劇の魅力ですよね。
ここからネタバレします。
アスペルガー症候群の人たちが「空気を読む」ことができないエピソードが出てきます。でも健常者だって「空気を読む」ことができているわけではない。そんなシーンが時にはシリアスに、またはコミカルに展開されていきます。
「はじめに光あれ」と神が言ったのなら、本当の初めにあったのは暗闇で、そして言葉ができてから、光ができたことになります。なんと美しい指摘。アスペルガー症候群の順平(山本悠生)のセリフです。
アスペルガー症候群の秋菜(内田亜希子)が演出助手の優希(小泉真希)に「キリストの右の頬を打ったのは誰なのですか?」と、電子メールでたずねます。タイトルになっているゴルゴダの丘は、イエス・キリストが処刑された場所。全人類の罪をせおって死んだイエスを思いながら、2人は本当の罪人は殴った方がなのか、殴られた方なのかを考えます。自分たちが受けている虐待(家族からや彼氏から)について、気づかない内に周囲の人を傷つけている自らの暴力について。
右の頬を打って、左も打って。なぐって蹴って。最終的に人類は神の子を、はりつけにして処刑してしまいました。犠牲って何なのでしょうか。誰かの代わりに罪を背負う(罰を受けて罪をつぐなう)ことなんて出来るのでしょうか。そんなことは出来ないんじゃないのかな。誰もが皆かけがえがない一人なのだから、代わりなんていないですよね。同時に誰もが絶対的に孤独だということになるんだけれど。その孤独を一緒に寂しがって、体でも心でも触れ合えた一瞬をいとおしんで生きていけたら。そうすれば少しでも自分の罪に自覚的になれるんじゃないかしら。そんな風に考えました。
『リハーサルルーム』のようにもともと15人だった登場人物を、この公演のために12人に減らしたようですね。「あの役とあの役がまざって、この役になってるな~」などとヲタクな楽しみをしつつ(笑)、でもそのせいで役によってはキャラクターに一貫性がないようにも感じました。最後に登場人物のほぼ全員が喪服で登場するのは、しめっぽさが過剰なんじゃないかとも思いました(劇中劇の主人公アリサに花を手向けるシーン)。本格的な上演を観てみたいです。
出演(アイウエオ順):内田亜希子 岡野真那美 桑島貴洋 小泉真希 谷口正浩 椿留美子 手塚美南子(天然工房) 浜野隆之(下井草演劇研究舎) 三原秀俊 山本悠生 矢原将宗(THEATRE MOMENTS) 上原英司 坂本鈴
作:篠原久美子 演出:関根信一(劇団フライングステージ) 舞台監督=木村篤(SEVENTH FIELD) 音響=菊池弘二、前田有希子(青年劇場) 照明=瀬戸あずさ 衣装・小道具=青年劇場 制作=劇団制作社 宣伝デザイン=長谷川智史(circle design) 主催・企画・製作=劇団劇作家
全席自由:2,000円 全日程フリーパス:4,000円
http://www.gekisakka.net/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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