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REVIEW

2008年08月13日

グリング『ピース-短編集のような・・・』07/30-08/11ザ・スズナリ

 青木豪さんが作・演出されるグリングの短編集。ゆるやかに全体がつながっており、1つの作品として味わえる構造になっていました。

 青木さんが他の公演に書き下ろした脚本の、グリング版が観られて良かったです。上演時間は失念。おそらく2時間弱かと。

 ⇒CoRich舞台芸術!『ピース-短編集のような・・・

 ≪あらすじ≫ チラシより。
 そこは基地の町だ。
 といって米英の問題を起こすわけでもなく、
 人々はそこでピースな日々を過ごしている。
 ある日曜日。
 夫婦は友人夫婦とバーベキューに出かけた。夫は友人の妻に惹かれていた。
 原子力船入港に反対する女は、近所か疎ましがられていた。
 不動産屋の若い社員は、マンションが売れなくて困っていた。
 下半身不随になったには、介護する弟夫婦とうまくいかなくなっていた。
 入港半からデモ見物に出かけた男は、来るはずのない女を待っていた。
 五つピースからなる、平和そうに見える日曜日の話。 青木豪
 ≪ここまで≫ 

 ごく普通の市民の何気ない生活風景・・・のようですが、普段は表面に見えてこないどろどろした部分が、日常会話のふとした隙間からひょいっと顔を出します。そのどろどろがトコトンどろどろなところが良いです。私にはリアルに映ります。

 白い壁に囲まれた装置は可動式になっています。ところどころ動きのぎこちなさが気になるところもあり。短編集とはいえ、できれば全体が1つの世界として受け止められたら、なお良かったんじゃないかと思いました。これは好みによると思いますが。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 蝶々と呼ばれる昆虫の9割が蛾というのは、ちょっと衝撃。私は蝶々も蛾も苦手ですが、どちらかというと蛾の方が出会いたくない昆虫です。人間も9割が蛾のように疎ましい存在なのかもしれないですよね。「所詮おいら蛾だよ」という気持ちと「蛾だけど蛾なりにがんばってるよ」という気持ちが混ざります。大量発生した蛾のりん粉をウェットティッシュで拭く演技が何度も出てきます。私も周りを汚して迷惑をかけて生きているな~と思いました。

0.「Episode 0」
 病院の喫煙コーナーで、導入。

1.「花火の約束」
 バーベキューにやって来た既婚の2カップル(中野英樹&星野園美、二階堂智&佐藤真弓)。長年の夫婦(家族)生活から生まれるひずみ。不妊の問題は深刻ですよね。
 友達同士なのにひどいよな~と思いながらも、こんなもんだよとすんなり受け入れている自分がいました。大人になったのか、何かをあきらめたのか・・・自分の変化を見つめることになりました。

2.「僕の好きな先生」
 不動産屋の社長(林和義)が、息子の担任だった先生(萩原利映)のことを本当に好きなのかどうかが、少々わかりづらかった気がします。それが良いのかもしれませんが。

3.「朝顔」(Oi-SCALE『オムニバス of OiOi vol.2』への書き下ろし)。
 まさか車椅子の兄が弟の妻を本当に刺すとは思わなくて・・・戦慄。エレベーターの中で兄が垂れ流した尿を掃除していたという設定も、容赦ない。

4.「北向きの女」(パルコ『LOVE 30 vol.2~女と男の物語~』への書き下ろし) 
 このお話が一番好きでした。パルコ版があっさりし過ぎな気がしていたので、どす黒さ、痛さに納得。
 不動産屋の社長と不倫関係だった女(鬼頭典子)は「(人生において)自分は本気になったことがなかった」と、元部下の後輩(黒川薫)に告白することになります。女があまりに情けなくて、かっこ悪くて、その痛々しさが胸にしみて涙が出てきました。ラストの打ち上げ花火を見つめる2人の姿に、ある種の救いようがない状況に陥った時こそが、人間が変わるチャンスなんじゃないかと思えました。

5.「ピース」
 英語の“ピース”にはpiece、peaceの両方の意味があるんですね。そしてカメラを向けられた時にするピース・サインでもある。
 元女教師(萩原利映)がお腹の子供に託す「誰も殺さない、誰にも殺されない、普通に生まれて普通に死ぬ人間に」という願いは、ほんの数年前だったら奥ゆかしい願望だと思ったかもしれません。でも今は、「せめてそうあって欲しい」と強く願う気持ちがよくわかります。

出演:中野英樹 黒川薫 萩原利映 杉山文雄 佐藤真弓(猫のホテル) 鬼頭典子(文学座) 星野園美 遠藤隆太 二階堂智 林和義
脚本・演出:青木豪 照明:清水利恭 照明オペレーター:葛生英之 美術:田中敏恵 舞台監督:筒井昭善 効果:青木タクヘイ 音楽:DubRIN'=峯岸信太郎 映像制作:岸建太郎(黒子ダイル) 服部剛 市川愛名 演出助手:松倉良子 演出部:伊倉真理恵 栗原由佳 宣伝美術:高橋歩 宣伝写真:中西隆良 記録映像:トリックスターフィルム 舞台写真:鏡田伸幸 制作:菊池八恵 制作助手:かなざわさち 高橋絵梨佳 制作協力:嶌津信勝 企画制作・主催:グリング
【発売日】2008/06/28 特割3,300円 7/30(水) 7/31(木) 19:30 のみ 前売3,800円 当日4,300円(全席指定/税込)
http://www.gring.info/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2008年08月13日 16:24 | TrackBack (0)