タニノクロウさんが作・演出される庭劇団ペニノの新作です。テーマは「教育」とのことでしたが、学校教育に限ったことではなかったですね。パンフレットに「観劇の手引き」が挟み込まれていますので、読んでからご覧になってください。
上演時間は約1時間45分。初日は開場25分遅れ、開演15分遅れでしたが、上演時間が短かったので気になりませんでした。ペニノ新作へのわくわく感が増して、かえって良かったかも(笑)。
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子供が五感で受け取った情報はどのように蓄積されるのか、つまり子供はどうやって成長するのか。デフォルメされたある家庭の中で、その実験を観ているようでした。
いつもながらの凝った装置で、転換するごとに気を引き締めて凝視しちゃいました。時々、具象に近い西洋絵画を見ているような心持ちになりました。絵画の解釈で「奥に描かれた鏡は~~を表している」とか、よく言われますよね。舞台に現れる人物や大道具、小道具をじっくり眺めて、そのシーンに込められた意味を探して楽しみました。
下記は私個人の感想・解釈です。この作品が本当のところ何を表していたのかは、私にははっきりとはわかりませんでした。
ここからネタバレします。
「観劇の手引き」によると主人公の少年を演じるラヴェルヌ拓海くんは、演劇経験のない小学生。2年前にフランスから日本に来たばかりなので、日本語の読み書きは勉強中だそうです。
冒頭は黒スーツに身を包んだ大人たちが紙とペンを手にして相談している中、タニノさんご自身が登場し、少年につきそって何やら指示をしている様子。「観劇の手引き」にあるように、拓海くんの教育プログラムのための「擬似家族」の演技が始まります。
1限目『社会のじかん「大人とふれあおう」』、2限目『家庭科のじかん「食べ物を大切にしよう」』、3限目『体育のじかん「心と身体をきたえよう」』、4限目『道徳のじかん「自由な心をもとう」』というように、学校の時間割のようにシーンが進みます。
古きよき昭和の平凡な生活風景が、シーンが進むごとに変化していきます。父(久保井研)は妻を犬として扱い始め、若い愛人を囲い込み、非道徳的な行為がどんどん行われて家庭が崩壊していくのは、少々グロテスクだし胸が傷みます。でも7歳の少年にとっては、赤ウィンナの妖精(マメ山田)との戯れも、屋根裏に勝手に住み着いたババア(瀬口タエコ)との戦いも、犬になった母親への餌やりも、夏休みの絵日記の題材となる楽しい思い出なんですね。
大人には見えないはずの赤ウィンナを、父親役の久保井さんがはっきりと認識しており、最後のシーンでは花が咲き誇るはしごに登る少年を、黒スーツの久保井さん1人が見つめていました。もしかしたらこの世界は、久保井さん演じる男の幼少時代の回想だったのかも?
子供の目から見た世界は、子供の想像力によって彩られた秘密の花園。大人になってからそれを眺めると、本当は草さえ生えない荒野だったことに気づいてしまいます。父と母と一緒に線香花火で遊んだ、本当に幸せだった出来事が挟まれているのがせつないですよね。いつも肌身離さず持っていた水鉄砲を、少年がはしごの緑の茂みの中に置く演技は、子供時代との決別を意味しているように見えました。
庭劇団ペニノ16th
出演:久保井研(唐組)/飯田一期/五十嵐操/熊谷美香/ラヴェルヌ拓海/瀬口タエコ/マメ山田/タニノクロウ
脚本・演出:タニノクロウ 構成:タニノクロウ 玉置潤一郎 山口有紀子 吉野明 舞台監督:矢島健 美術:田中敏恵 映像:玉置潤一郎 照明:今西理恵(LEPUS) 音響:中村嘉宏 特殊メイク:井上悠 演出助手:森隼人(無頼我~BURAIGA~) 宣伝美術:タニノクロウ デザイン:高市由香里 WEB:定岡由子 写真撮影:田中亜紀 制作:對馬静子 企画制作:庭劇団ペニノ
【発売日】2008/07/04 全席指定 一般3800円・学生2,500円(要学生証・劇団のみ取扱い)*未就学児童入場不可。
http://www.niwagekidan.org
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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