REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2008年08月23日

サンプル『家族の肖像』08/22-31アトリエヘリコプター

 松井周さんが作・演出されるサンプル。初日に伺いました。
 現代日本人の日常の断片がぬるぬる、ずるずると重なり、接合して、世界は混濁する。そんな印象の約1時間50分。いっぱい考えて、感じて、全身で鑑賞。刺激的で官能的な体験でした。

 特殊な客席になっています。公式サイトより引用↓。
 『本公演は客席の構造上、開演後の入場が難しくなっています。時間に余裕をもってお越しくださいませ。また、スカート・ヒール以外の動き易いお召し物がお勧めです。』
 
 ⇒CoRich舞台芸術!『家族の肖像

 松井さんは私たちが生きる上で行っているコミュニケーションについて、とてもシビアな視点をお持ちだと思いました。冷静で、緻密。賛成・反対などの個人の意思を前面に出すことなく、“サンプル(sample)”を並べていくんですね。その並べ方に松井さんの視点が投影されています。
 
 観客は現代人の生態についての例証を高見から見物して、徐々に登場人物(=サンプル)に共感をおぼえたりする内に、自分もそのサンプルたちの隣に並んでいることに気づきます。共犯関係を結んだような、SMの両方を同時体験するような、快・不快が同時に起こり、小さな罪悪感もともなう、ぬめぬめした肌触り。
 この作品全体についての感想をひとことで言うと、「アメーバ」でした。

 オーディションで選ばれた役者さんも、サンプル・青年団の役者さんとの差を感じさせることなく、作品の中に溶け合うように存在していました。松井さんは俳優の導き手としても有能な方なのかもしれないと思いました。

 ここからネタバレします。

 ごみが散乱する舞台を四方から客席が囲みます。客席はすべて2階にあり、観客は舞台を上から覗き込む状態で鑑賞します。

 売れ残りの弁当が床を這うように次々と他の人の手に渡ります。人も食べ物もゴミも、何もかもが平面に並べられた空虚なイメージ。ただただ平坦で、だだっ広い、不毛の荒野。
 決して交わりあうことがない下等生物同士が、むやみに合体しようとぶつかり合っているよう。でも衝突したらサっと身を引いて、逆ギレして孤立します。その浅はかな行為の繰り返し。

 スーパーの店長(古屋隆太)が万引き娘(野津あおい)に、「俺をののしれ!」と命令のような懇願をするのが私のNo.1萌えポイント(笑)。

 フランス語教師(辻美奈子)が出すことがないラブレターを歌ったり読み上げたりするのが可笑しい。最後にその手紙をスーパーの店員(村上聡一)に勝手に託して、それが引きこもりの息子(古舘寛治)の手に渡ったところで暗転・終幕しました。
 ぐるりと一周回ったような感触があり、あなぐらの舞台を上から見下ろして、食物連鎖、輪廻転生、無駄の無限サイクルなどを想像しました。胎内の生ぬるい濁水の中にごぼごぼと溺れながら沈んでいくような、息苦しさと悦びが混ざった恍惚の闇でした。

 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫ メモしたことの覚え書き程度です。
 出演:松井周

 松井「タイトルは“家族の肖像”ですが、家族とは程遠いものを重ねるように作りました。いくつもレイヤーを重ねるような。それが重なっていくと、まるで家族であるかのように錯覚することもあるのではないか。」
 松井「役者が不思議な動きをしながら登場するシーンは、“体を引き裂いて歩く”という演出をしています。」

 松井「俳優と個人との切り替えはどこでもいい。キャラになりきるのではなく、俳優個人(俳優の身体)と地続きではないかと考えている。それが自分は好き。」
 松井「“(役が)憑依する”ということもあると思う。“役作り”もあるでしょう。でも僕はそれにコスプレを感じる。言ってみれば社会的役割もコスプレだと思うんです。」

 松井「(舞台は)圧縮している場所で人がうごめいているイメージ。ひとつの場所なのか、それが重なっているのか、バラバラなのか。ごちゃまぜの鍋の中のような。上から眺めるのは、圧縮して上から押さえつけるイメージです。」

出演:辻美奈子(サンプル・青年団)、 古舘寛治(サンプル・青年団)、古屋隆太(サンプル・青年団)、羽場睦子、木引優子(青年団)、江原大介、岡部たかし、中川鳶、成田亜佑美、西田麻耶(五反田団)、 野津あおい、村上聡一(中野成樹+フランケンズ)
脚本・演出:松井周 舞台美術=杉山至+鴉屋 照明=西本彩 音響=野村政之 衣裳=小松陽佳留(une chrysantheme) 舞台監督=小林智 ドラマターグ・演出助手=野村政之 宣伝美術=京 宣伝写真=momoko japan 記録写真=青木司 記録映像=深田晃司 制作補佐=有田真代(背番号零) 制作=三好佐智子 企画・製作=サンプル・(有)quinada
【発売日】2008/06/22 整理番号付(全席自由) 前売り2,500円 当日2,800円
http://www.samplenet.org/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 2008年08月23日 12:16 | TrackBack (0)