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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2008年09月11日

王立フランドル劇場(KVS)&トランスカンカナル『森の奥』09/09-13こまばアゴラ劇場(キスフェス2)

 メルマガ2008年9月号でご紹介しておりました、青年団こまばアゴラ劇場国際演劇月間「キスフェス」の2作品目です。

 ベルギーからやってきたKVSトランスカンカナルが平田オリザさんの新作『森の奥』を上演します。そもそも彼らが平田さんに執筆依頼した戯曲なんですね(⇒こちらのトーク参照)。フラマン語・ワロン語上演・日本語&英語字幕付。上演時間は約1時間40分。

 ものすごく洗練された大人の知的な会話劇でした。人間(動物)の知性と野生が同時に存在する瞬間を肌で感じたときの興奮ったら!リーディングを先に観ていたのでさらに理解が深まりました。

 ステファン・オリヴィエさん、フェスティバルディレクター多田淳之介さん、そしてゲストに岡田利規さん(チェルフィッチュ)が出演するポスト・パフォーマンス・トークを目当てにこの日に行きました。

 ★こまばアゴラ劇場には持ち込めなかった、オリジナルの装置の写真がロビーに展示されています。ぜひご覧ください。めっちゃクールです。

 ⇒ベルギー公演時のプロモーション映像
 ⇒CoRich舞台芸術!『森の奥
 レビューをアップしました(2008/09/21)。

 静かな演劇。目の前でその人そのものが自然に生きているような感覚。役者さんがこういう存在感でいてくれると、ある1人に過剰に感情移入するのではなく、複数の人間が生み出すコミュニケーション、つまり人と人と間に生まれる肉眼では見えないものに注意を払って、味わうができるように思います。

 ここからネタバレします。 

 自閉症の5歳の息子を持つ心理学者は、自閉症のボノボをたくさん作って実験・研究をしたいと望んでいます。でも、ボノボは人間の祖先である類人猿から派生した動物であり、それはつまり人間と同じであると考える研究者もいます。では、人間とサルの境い目ってどこなのか?
 「DNAで比較すると人間とサルはほぼ同じ生き物だけれど、心理学的にはかけ離れている」等の、科学者たちのセリフに注意深く耳を傾け、目の前にいる役者と自分自身(=人間)について当てはめて考えを巡らせました。

 終盤のシーンで心理学者が突然、猿に変身します。あの凶暴なぎらぎらした目!豊かな毛が生える胸元!野獣を目前にした(と、とっさに感じた)恐怖と、そこに居るのは役者(人間)であるという事実を同時に認識して、頭がクラクラしました。

 ボノボの研究者(女)と言語学者(男)の夫婦が同じ職場で働いています。妻は、オスロで6歳の娘が肺炎をこじらせて死んだことを、その時、娘と一緒に居た夫のせいだと思っています。彼女の方は、ジャングルでチンパンジーを追うことに没頭していたのですが(その時起こった事件のせいで、彼女はボノボ研究へと移らされます)。

 夫は同僚に「彼女(妻)はいつも僕に怒っている」と言い、妻は「サル(ボノボだったかゴリラだったか忘れました)のメスは、恨みを持ったら絶対に許さない」と言います。ちょっとした口ゲンカをした男の研究者たちが、すぐに仲直りするシーンがその間に挟まれており、巧みな構成だと思いました。
 人間もサルも、男は自由に行動して発散するから許すことができるけれど、女は周りに気を使って我慢をするから、「許さない」ということになるんですね。妻役の女優さんがにっこり、さらりと「メスは許さない」と言っていた、あの顔が忘れられません。

 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
出演:ステファン・オリヴィエ 多田淳之介 ゲスト:岡田利規(チェルフィッチュ) 通訳:サラ・ヤンセン

 岡田さんは「作品が観客にウケているかどうかよりも、上演されている場所(国)で、どのように受け止められているのかに興味がある。」とおっしゃっていたように思います。

 私のような演劇ヲタク(笑)には「この濃密さがたまらない!」と嬉しくなる内容でしたが、一般の方には意味がわからなかったんじゃないかな・・・。
 通訳のサラさんの柔らかな日本語がすごいです。ロジックだけで話していないんです。体ごと日本になったみたいな感じ。やっぱり語学の才能が豊かな人っているんだなーっ!

出演:ベルナルド・ブルーズ、ミゲル・デクレール、ギイ・デルムル、ステファン・オリヴィエ、ウィリー・トーマス、ミック・フェルディン
作:平田オリザ 演出:王立フランドル劇場(KVS)&トランスカンカナル ドラマツルギー、オランダ語・英語翻訳:サラ・ヤンセン フランス語翻訳:ローズマリー・マキノ・フェイヨール 美術:バート・ルイパード&レオ・デ・ニィジ 照明:ハリー・コール 衣装:ティスサ・ストリペンズ ツアーマネージャー ニコル・プティ セリーヌ・ロンション 製作:ベルギー王立劇場&トランスカンカナル
【発売日】2008/07/19 予約・当日共=3,000円 KISSセット券=8,000円(電話予約のみ)(日時指定・全席自由・整理番号付)◎フラマン語・ワロン語上演/日本語字幕付
※ポストパフォーマンストーク【9月10日(水)19:30】ステファン・オリヴィエ×多田淳之介 ゲスト:岡田利規(チェルフィッチュ)
http://www.komaba-agora.com/line_up/2008_09/kvs.html
http://www.kvs.be
http://www.transquinquennal.be


※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2008年09月11日 12:27 | TrackBack (0)