故・向田邦子の短編小説集『思い出トランプ』を、ONEOR8の田村孝裕さんが1つの物語へと脚本化し、演出されます。主演はデビュー10周年を迎えて今回初舞台を踏む田中麗奈さん。
上演時間は約1時間50分。カーテンコールが2回。観客の私も勝手に心温まってしまった、良い初日でした。
⇒田中麗奈さんにインタビューさせていただきました。
⇒原作本のご紹介
⇒CoRich舞台芸術!『思い出トランプ』
≪あらすじ≫
英子(田中麗奈)は6歳の息子をもつ主婦。姑(根岸季衣)と夫(野本光一郎)と子供との4人暮らしだが、ある事故をきっかけに実家へと帰ることになる。実家では、急な病気で弱気になっている父(山口良一)と、今も昔も変わらずマイペースで元気な母(阿知波悟美)が暮らしており、英子の姉(和田ひろこ)がよく出入りしている。家族ぐるみで付き合いのある今里夫妻(八十田勇一&宮地雅子)の間には、近ごろすきま風が吹いているらしい。
≪ここまで≫
円形劇場の中央部分と、客席のおよそ4分の1が舞台として使用されていました(形としては前方後円墳のような)。主な演技スペースはたたみの部屋、台所、洋間の3つ。その中央にすべてをつなぐ廊下があり、周囲には家の縁側と庭があります。壁や戸は枠だけで透けていますので、見通しがとても良いです。
『思い出トランプ』の中から「大根の月」「だらだら坂」「花の名前」「かわうそ」の4作品が主に取り上げられているそうです(Weeklyぴあ10/16号より)。よくもこんなに上手く組み合わさったものだと感心しきり。微笑ましいギャグも挟みつつ、たわいない日常会話から人々の心の揺れを丁寧に描きます。装置のトリックに驚かされたり、じっくり考える時間も持てました。充実の観劇でした。
原作を読んだ時の第一の感想が「この本は・・・怖いっ!」だったので(笑)、もっと怖くてもいいんじゃないかと思うシーンがチラホラありました。例えばもっと怒る演技があってもいいんじゃないか、とか。個人的な感覚ですけどね。
ここからネタバレします。
冒頭から驚かされました。まさか英子の息子・健太(恩田隆一)が登場するとは思ってもみませんでしたから。健太は無事に大人になり(人差し指の先はありませんが)、妻(冨田直美)もいます。祖母(つまり英子の姑)の通夜から始まり、健太の回想として「大根の月」のエピソード(英子の話)が始まったのは、非常にスムーズな導入でした。“昭和の昔話”というパッケージを外側から楽しむのではなく、観客は現在の視点のままで物語に入り込んで味わうことができました。30歳の健太が6歳の健太を演じるのも効果的でした。
異なるエピソードで場所を共有する演出は、舞台ならではの楽しみです。ひとつの部屋が、使う人によって違う空間になります。別のシーンに出ているはずの役者さんが、廊下で自然にすれ違うのはスリリング。姑同士がたたみの居間でにらみ合うシーンは、英子の嫁ぎ先なのか実家なのかがしばらくわからなくて、どきどきしました(衣装をよく見たらわかりました)。
英子の母が手土産の芋ようかん(ですよね?)を、渡さずに持ち帰ってしまったのには笑いました。
登場人物全員が舞台に同時に出て、音楽に合わせて演技をしながら歩き回るシーンは良いアクセントになりました。バラバラと動き回っていた人々が突然静止し、一人ずつにスポットライトが当たるのもリズミカル。群像劇として観る準備もできました。
主役の英子を演じられた田中麗奈さんは、そこに本当に存在することを大事にされているように感じました。小さな背中から怒りや悲しみが伝わってきたのが良かったです。
今里の妻(宮地雅子)がすごくセクシー!宮地さんのエレガントな大人の色香は、舞台では初めて拝見したかも。
今里の愛人つわ子(中島愛子)が着ていた、だらりと無防備に胸元が開いたV襟のニットには、泥臭さ漂うエロスがあり、つわ子が暴れる度に可笑しいやら悲しいやら。
ラストは現在の通夜のシーンでした。昼の(大根の)月は空に浮かんでおり、英子は「一番大切で、一番おぞましい」健太のもとに戻ったという、オリジナルの結末になっていました。健太が「子供を作ろうと思う」という決意をしたことで、時代は変わっても“家族(血族)”は未来へと続いていくという、時間の広がりを感じられました。
出演:田中麗奈 根岸季衣 八十田勇一 宮地雅子 弘中麻紀 中島愛子 野本光一郎 恩田隆一 和田ひろこ 冨田直美 阿知波悟美 山口良一
原作:向田邦子(新潮社刊) 脚本・演出:田村孝裕(ONEOR8) 舞台美術:香坂奈奈 音響:今西工 照明:伊藤孝(ART CORE design)衣裳:遠藤百合子 ヘアメイク:山本成栄 舞台監督:村岡晋 演出助手:城野健 照明操作:西山真由美 音響操作:飯嶋智 演出部:高嶋伶奈(らくだエ務店) 伊藤俊輔(ONEOR8) 熊木進 衣裳部:福田千亜紀 大道具製作:夢工房 小道具:高津映画装飾 美術協力:C-COM舞台装置 J.Flower Market 植吉 運搬:帯瀬運送 宣伝美術:美香(Pri-graphics) 宣伝美術協力:檜本マリコ 印刷:多田印刷 舞台写真:山本圭二 制作助手:斉藤友紀子 制作補:安元千恵 制作:岡本愛子 プロデューサ一:高田雅士 椎名浩子 エグゼクティププロデューサー:志茂聰明 松田誠 特別協力:向田和子 企画協力:Bunko 企画・制作:ONEOR8 主催:こどもの城青山円形劇場 ネルケプランニング
【発売日】2008/09/13 前売5,500円、当日6,000円(全席指定・税込)
http://www.oneor8.com
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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