ロバート・アラン・アッカーマンさん率いるthe companyの世界初演『1945(イチ・キュー・ヨン・ゴー)』の初日に伺いました。
第二次世界大戦の戦勝国アメリカの演出家が、戦敗国である日本の終戦直後を舞台化するという、チャレンジングな作品です。フィクションに浸って物語を追っている内に、今までに観た演劇作品と重なることが頭に浮かんできて、最後は「お芝居」という枠組を超えたところからメッセージが届きました。70人以上のアンサンブルは贅沢!
上演時間は約2時間20分(途中休憩15分を含む)。パンフレットによると、いつかNHKで舞台中継されるそうです!
☆11/1(土)マチネ終演後に開催される『1945』アフター茶話会で進行役を務めます。よかったらご応募くださいませ♪ 10/29(水)締切。
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≪あらすじ≫ 公式サイトより。改行を変更。
1945年秋。太平洋戦争終結直後の日本。戦災で焼けこげた商店街のアーチの下で、二人の男が遠くに見える進駐軍の兵舎を見つめながら、語り合っている。
昨日、一人の男が殺された。その男は、美しいヴェール付きの帽子で顔を覆った若妻を伴い、混沌とした終戦直後の闇市へ高級車に乗って現れた。そしてその夜、銃声が鳴り響いた──
失われた想い出、捨て去ったはずのプライド、消えない欲望、泣くように響くジャズ・トランペットの調べ。
食い違う目撃証言と人々の心の声が、闇の中で錯綜する。真実はいったいどこに隠されているのか?
≪ここまで≫
舞台装置は灰色一色の廃墟。大きな階段や壁を垂直にのぼる梯子などもあり、劇場の高さを使ったダイナミックな空間です。そこになんと70人以上の闇市の人々がうごめく!まるでオペラみたいな贅沢さです(笑)。
拳銃で撃たれた男の死体が発見された事件について、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の軍警察(MP)の前で、その事件に関わる人物が証言していきます。語る人物によって1つの出来事の違った側面が見えてくるのは、芥川龍之介著「薮の中」のスタイルですね。独白から回想シーンになり事件のことが証言にそって演じられますが、それぞれに全く違う経過・結末になるのが面白いです。犯人探しのサスペンスの味わいもあり。
前半は初日らしい硬さもあってか全体的に少々おとなしめに進んでいる印象でした。戦争直後の悲惨な日本が目の前にありますし、差別用語も多発しますので、観客が身構えてしまうのも無理はないと思います。稽古場にお邪魔していた私もどぎまぎしながら観ていました。
でも休憩をはさんで後半が始まったとたん、客席と舞台の距離が一気に縮まったんです。突然、劇場が一体になって物語とともに動き始めたような。原因ははっきりとはわからないですが、これはフィクションなんだ、エンターテインメントなんだと徐々にわかってきて、観客も一緒に楽しめるようになったからではないかと想像します。また、後半始まってすぐの展開がわくわくするものだったのも大きいんじゃないかしら。
今までアッカーマンさんが演出されてきた海外作品と比べると、今作は洗練よりも荒削りであることを狙っているように感じました。私は直接的に政治的な主張をする演劇(や映画など)がそんなに得意ではありません。でも、80人もの若い日本人キャストとアメリカ人演出家が、今、必死でこのテーマに取り組んで作品を発表したことに大きく心を動かされましたし、現在マイブームのこの本に書かれていることとばっちり重なって、グッサリと、衝撃を受けました。特に、当事者たちが生々しく語る長い独白から、生き残ってしまった無念、生きるために自分や他人に嘘をつく苦しみなど、今の日本では耳にすることがないかもしれない切実さが伝わってきました。
ずしんと届いたメッセージは長い煩悶を経て生まれてきたものだと感じました。その意見に賛成か反対かに関わらず、1945年以来現在にいたるまで日本が歩んできた道と、今と、この先に見えてくる日本の将来について長期的な視点を持って考える、そんなきっかけを与える刺激的な作品になったことが非常に意義深いと思います。
≪東京、新潟≫
出演:Jun Tyler 呂美 高橋和也 瀬川亮 松浦佐知子 松本晶 谷昌樹 吉田昌美 酒井和哉 廣畑達也 川辺邦弘 三嶋義信 宮光真理子 斉藤直樹 山本亨 中村ゆり 矢内文章 パク・ソヒ 有希九美 深貝大輔 倉本朋幸 Jacob Sandelin 園部まりあ タリン 猪瀬早紀子 吉田真理 加藤華子 柴田淳 額田麻椰 守美樹 巖大介 石原身知子 水谷友子 菅原達也 尾崎舞 中井奈々子 堀川炎 土山紘史 飯田元子 Zinzy 永栄正顕 松井美宣 中尾裕美 藤田千穂 渡辺文香 日高恵 古谷佳也 ヒザイミズキ 青山みその 及川千春 山脇ゆい 本郷剛史 神藤恭平 大倉マヤ 五百蔵久子 日下諭 露敏 山崎和代 兼多利明 伊東沙保 岡田あがさ 小出奈央 髙橋来花 竹内さやか 塚田弥与以 山崎えり 渡辺直子 寿寿 永井輝久 中島広隆 中村伝 宮下泰幸 伊藤公一 下垣隼一 松田愛子 水沢昭彦 岡田さやか 吉岡亜紀子 カトウシンスケ
原作:芥川龍之介「薮の中」 脚本・演出:ロバート・アラン・アッカーマン 脚本・演出補:薛珠麗 美術:今村力 照明:沢田祐二 音響:高橋巌 衣裳:朝倉摂 ヘア&メイク:鎌田直樹 舞台監督:小川亘 アーティスティック・プロデューサー:玉塚充 制作:斉藤努 稽古場進行:三浦瞳 票券:西川悦代 宣伝:吉田プロモーション 牛山晃一 二宮大 プロデューサー:伊藤達哉 [宣伝美術staff]アートディレクション&デザイン:隆 俊作(5fret) 撮影:taro スタイリング:神波憲人 ヘアメイク:イオギユミ 制作:二宮大(Gene & Fred) 企画:the company 製作:ゴーチ・ブラザーズ
【発売日】2008/09/06 S席(1階&2階最前列)7,000円 A席(2階2・3列)6,000円 B席(3階)5,000円
http://www.thecompany-t.com/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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