チェルフィッチュの岡田利規さんが安部公房戯曲『友達』を演出。主催者公式サイトで「世田谷パブリックシアターでなければ実現し得ないプロダクション」と言い切る、自信満々の企画です。そりゃそうですよね、出演者の面々も凄すぎる(笑)。
期待と不安半々で伺った初日ですが・・・すっごーーーーく、かっこ良かった!!装置、照明、音楽、衣裳も洗練!そして、濃すぎるキャスト全員がセクシー!ドイツ演劇みたいだなって思いました(そんなに世界の演劇を観ているわけじゃないですが)。
でも2時間20分休憩なしは、私には少々つらい目でした。だって目が離せなくって緊張しっぱなしなんだもの、そりゃ勝手に疲れますよね(苦笑)。
安部公房「友達」は個人的に苦手な戯曲だったんですが(だって怖いから・・・)、大好きになっちゃいました。原作本↓がロビーで販売中!ありがたいですね。
⇒ステージウェブに岡田利規さんの動画インタビューあり!
⇒シアターガイドの特集
⇒CoRich舞台芸術!『友達』
※開演前に当日パンフレットを読んだ方がいいかもしれません。読まなくても全く問題ないと思いますが。
ここからネタバレします。思い出せることを箇条書きで。
ピンク、緑、オレンジの照明がぱらぱらと客席を照らしていて、クールなヴォーカルありの音楽が流れている。その演出の延長上に開幕。なんとも言えない、いえ、ぐうの音も出ない恍惚の居心地。完全に心を持っていかれた。
木製の板で出来たステージに、金属製のパイプを簡単に組んで部屋に見立てた装置。住人は牛(の着ぐるみを着た小林十市さん・笑)。そこに9人の招かれざる他人がぞろぞろと侵入してくる。でもドアから入るわけじゃない。てくてくとステージのど真ん中を歩いてくる。部屋は“枠”でしかなかった。個人の存在の曖昧さにつながった。ぼやける境界線。動物のテリトリーを当然のごとく侵し、地球を汚染する人間にも見えてくる。住人(小林十市)が「モーッ!」と叫んだときは思わず吹き出してしまった(笑)。
役者さんがぎらぎらした表情で客席に話しかけるスタイルで(これがドイツっぽいと思った)、演じているのかいないのかの線引きが曖昧で、目が離せない。我がもの顔で個人のプライバシーを蹂躙するやからは、ものすごく自由。楽しげに這い回る老人(麿赤兒)、むやみに体操(倒立・客席を走る)する父(若松武史)。体が激しく動くことで、「個人の部屋」が「複数人の部屋」へとぬるりと変化する。とうとう占領されてしまった。
何かと「多数決で決めよう」という提案をする侵略者たち。多数の暴力。「実質的な損害、不利益がないなら動かない」ので、警察も大家も役に立たない(大家にスポットライトが当たるのが可笑しい!)。倫理観の欠如、地域社会の崩壊などが見て取れる。住人が少々ぼんやりさん(激怒したり、困って叫んだりしない性格)であることで、この状況がフィクションだと思えたのがとても良かった。おかげで「怖い!」と思わずに風刺だと受け取りやすくなった。さらに、「この孤独な住人は、見ず知らずとはいえ大人数の家族の一員になった方が幸せなんじゃないか」とさえ思えた。
母(木野花)がお金を管理するというルールを無理やり住人にも押し付ける。搾取しても共有財産にすることは善だという横暴。長男(今井朋彦)がスリをしたエピソードがじっくり、たっぷり描かれる。正義が金で買われ、嘘が本当になり、金はなし崩し的にめぐりめぐって、バラ撒かれていく。
夜。次男(加藤啓)がビールを飲んでる間に照明が変わる。黄色い光で人物・物体がモノクロになる。横長ベンチを2脚置いて、家族らがにっこりと客席に微笑みかけながら座っている、静止。そこにはらはらと落ち葉が数枚落ちた。その瞬間、ここは公園だとわかる。あまりの洗練にシビれる!
住人の婚約者(塩田倫)がベンチに座ったまま徐々に体を斜めに傾けはじめる。舞台空間が斜めになる!スリの長男(今井朋彦)が上手ドアから婚約者と同じ方向に体を斜めにして登場して、さらに斜め!婚約者はなぜか足でステップを踏みながらしゃべっている。首をカクカクと回し、ハンモックに入れられた住人(婚約している相手)とはほとんど顔を合わせない。このシーンはちょっと退屈でした。
美しい長女(剱持たまき)が住人と逃亡を企てたと次女(ともさと衣)が告発。住人は「逃げようと言ったのは、しがみつきたいという気持ちを逆に表現した」と言う。でも父(若松武史)は住人を檻(おり)に入れる決断を下す。原作では言い訳がましいセリフとして書かれている印象ですが、小林さんの演技は本当にうっかりしてたという雰囲気。逃げる気持ちは全然なかった(最初はあったけど、消えてなくなった)ように見えました。住人は自分(自己・アイデンティティー)を捨てたから、檻に入れられたんじゃないかな・・・と想像。the company『1945』での高橋和也さんのセリフ「それでも俺たちは従った」を思い出した。
住人は毛布にくるまって、檻の中に入って犬になる。檻をつつんだ毛布に小林さんが犬になって吠える動画を映写。これまたクールだな~。結局は食事を持ってきた次女(ともさと衣)に毒入りミルクを飲まされて死亡。なぜ次女は住人を殺したのか。殺人後にやってきた次男(加藤啓)の「またやってしまったのか」というセリフで、次女がよく人殺しをすることがわかるけど、でもなぜ?
次女「さからいさえしなければ、私たちなんて、ただの世間にしかすぎなかったのに…」
つまり、世間にさからった者は殺されるということか。“友達”という言葉の幅広さに息苦しくなる。
戯曲の指定どおり、父が上演当日の新聞を読む。スポーツ新聞だった。若松さんは何度か読むのに詰っていたから、おそらくその場でのほぼ即興なんだと思う。小室哲哉さんの記事に胸が傷む。これも世間の集団暴力。「みんなと同じ意見じゃないヤツなんて、いらない」という声が聞こえる。
マイクを持ってセリフを言うシーンは、その演出意図はわからないけど、私は好き。生の声にメディアが入ることで、空気が変わるからかしら。ともさと衣さんの歌がとても良い。『友達のブルース』の“糸がちぎれた首飾り”という歌詞も。
戯曲のオープニングがエンディングに変更されていて、ループするイメージにもなった。
役者さんは皆セクシー。男性にはうっとり。女性だけど木野花さんにホレてしまいそうになった。
歌声も、ちょっぴり上げる足のかかとも素敵だったともさと衣さんのブログで写真発見。ピナって何?!
新世代の旗手・岡田利規×安部公房『友達』
出演:小林十市/麿赤兒/若松武史/木野花/今井朋彦/剱持たまき/加藤啓/ともさと衣/柄本時生/呉キリコ/塩田倫/泉陽二/麻生絵里子/有山尚宏
脚本:安部公房 演出:岡田利規 美術:堀尾幸男 照明:大野道乃 音響:市来邦比古 衣裳:半田悦子 演出助手:大澤遊 『友達のブルース』作詩:安部公房 作曲:猪俣猛 技術監督:熊谷明人 プロダクションマネージャー:山本園子 舞台監督:福田純平 舞台監督助手:橋本加奈子 音響操作:徳久礼子 衣裳スーパーバイザー:阿部朱美 衣裳製作:SePT衣裳部 衣裳部:森映 宣伝美術:グッドデザインカンパニー 法務アドバイザー:福井建策 営業:鶴岡智恵子 吉兼恵利 広報:宮村恵子 和久井彩 票券:金子久美子(ぷれいす) 制作進行:相見真紀 制作:大下玲美 プロデューサー:楫屋一之 [主催] 財団法人せたがや文化財団 [企画・制作] 世田谷パブリックシアター
【発売日】2008/09/14 一般5,000円 TSSS2,500円 友の会会員割引 4,500円 世田谷区民割引 4,700円
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2008/11/post_127.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
便利な無料メルマガも発行しております。