松井周さんが作・演出されるサンプルの新作です。前作『家族の肖像』が第53回岸田國士戯曲賞の最終候補作品に選出されています⇒結果発表は1/26(月)。
初日は笑いが山ほど起こっていましたが、誰もが同時に笑うようなわかりやすいネタが仕込まれているわけではありません。観客それぞれが個人的にツボに入ったところで吹き出してしまったり、あまりに意外すぎて思わず笑い出してしまうタイプの、難易度高いめ(?)のナンセンス・コメディー。皮肉が利きすぎた(笑)、半狂乱の宴は刺激的でした。上演時間は約1時間40分。
松井さんはフェスティバル/トーキョーにも参加されます⇒『火の顔』
⇒CoRich舞台芸術!『伝記』
≪あらすじ≫
浅倉健(古舘寛治)は亡き父が残した地下シェルターで、妹・好子(辻美奈子)とともに父の伝記を作ろうとしている。
≪あらすじ≫
劇場に入ると左側が客席、右側が舞台。細長く間口が広いステージです。白と黒のボーダー柄の壁にちらほらと貼り付けられた意味不明の数字も効いた、かっこいい美術にまずうっとり。
生きている人間が死んだ誰かについて語る言葉は、必ずしも過去の真実を伝えるわけではありません。さらにそれが複数の視点から語られる場合は、自ずと矛盾が起こってきます。この世界に確かなことなど何もないのだと見せつけられた末、最後に残ったのは目の前で動き、熱くなっている人間の体だった、というのが最終的な感想でした。
とにかく私は思いっきりいっぱい笑いました。意外なところも不謹慎な(?)ところも。
申瑞季さん演じるマダムKに悩殺されました(笑)。
ここからネタバレします。
亡き父親の愛人(羽場睦子)とその息子(吉田亮)が伝記に自分たちのことも書き加えるよう要求してきたため、健と好子は困り果てます。さらに朝倉シェルターの職員3人(金子岳憲、石澤彩美、三橋良平)が、どんなことであろうと事実はすべて伝記として掲載するべきだと主張するため、伝記製作現場は混乱を極めます。
死者の知られざる歴史が暴かれる様は、まるでたまねぎを剥くように、最後にはもとにあった形さえ見えなくなってしまうほど。死者の肖像画(この場合は「伝記」)は目に見える形で残りますが、後から何層にも違う色で塗り替えられて、過去の真実を伝えるものにはなりません。塗り替えた人間たちの恥部が暴露され、彼らもまたいつかは死ぬと考えると、この世には確かなものなどないのだと、あきれるほどに実感させられます。美談と醜聞が同じように並べられ、世界がだだっ広い平面に見えてきて、でも、目の前には役者が床に垂直に立っている。だからカーテンコールが最大のハイライトだったのかも。
キャッチボールや取っ組み合いなど、舞台上で予測不可能なことが起こるようにした演出は、それだけでちょっとスリリング。車椅子に乗った愛人の失禁も強烈。最も効果が高かったのは、粉まみれになった健と次女(中村真生)のカーテンコールだったと思う(笑)。バランスボールって、誰が乗ってもセクシーに見えるのはなぜなんだろう。インナーマッスルが緊張してるから?(笑)
青年団『東京ノート』のように、劇場備え付けのエレベーターと2階部分が効果的に使われていました。2階部分はお立ち台みたいでもあった(笑)。
≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
出演:松井周・前田司郎
前田さんのトークは毎度ながら、すごくわかりやすくて面白いです。エンターティナーだな~と思います。前田さんの質問に正直に答える松井さんも面白い(笑)。
「戯曲のセリフを必ずしゃべらなければならないという点で、役者は戯曲の下に居る」のかどうか、という話題がありましたが、私は「どのようにしゃべるのかは役者によって決まるから、役者が戯曲の下であるわけじゃないよな~」と考えました。この作品においては、おそらく可笑しさを生み出すことが目的で書かれたわけではないセリフが、爆笑(失笑?)を起こすものになっていたり、意外な動きによってセリフの意味が完全に消え去っていたりするシーンが多かったんですよね。
ただ、終演後に他の観客の方が「戯曲が上か役者が上かというのはあまり重要な議論ではない。最終的にはすべて演出家が決めるのだから」とおっしゃっていて、「なるほど、それはそうかもしれない」と思いました。でも、観客の目の前に居るのは役者だと考えると、結局は舞台は役者のものなんじゃないかとも思います。今作は特に、役者がその場で行うことに重点が置かれた演出だったように感じました。
出演:辻美奈子、古舘寛治(以上サンプル・青年団)、羽場睦子, 申瑞季(青年団)、中村真生(青年団), 石澤彩美、吉田亮、三橋良平(乞局)、金子岳憲(ハイバイ)、黒田大輔(THE SHAMPOO HAT)
脚本・演出=松井周 舞台美術=杉山至+鴉屋 照明=西本彩 衣装=小松陽佳留(une chrysantheme) 舞台監督=小林智 ドラマターグ・演出助手=野村政之 宣伝美術=京 宣伝写真=momoko japan 記録写真=青木司 記録映像=深田晃司 WEB運営=牧内彰 制作補佐=三橋由佳、有田真代(背番号零) 制作=三好佐智子 企画・製作=サンプル・(有) quinada[キナダ] 提携=(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
【発売日】2008/11/23 前売り 整理番号付(全席自由)3,000円 当日 整理番号付(全席自由)3,200円
ゲスト : 15(木)前田司郎氏(五反田団主宰)/ 17(土)中野成樹氏(演出家・中野成樹+フランケンズ主宰)
http://www.samplenet.org
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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