大好評だった『野鴨』につづき、庭劇団ペニノのタニノクロウさんがイプセン戯曲を演出されます。稽古場レポートを書かせていただきました。
勝村政信さん、とよた真帆さんら少数精鋭の豪華キャストによる、シンプルながら非常に濃密な会話劇でした。役者さんが1対1で向き合い、心のすみずみまで開けっぴろげにして戦う様をつぶさに見つめた、充実の約2時間5分。素晴らしかったです。
⇒稽古場レポート
⇒CoRich舞台芸術!『ちっちゃなエイヨルフ』
≪あらすじ≫ 公式サイトより一部抜粋。(役者名を追加)。
ノルウェーの片田舎。
この町の有力者の娘リタ(とよた真帆)と学校の教員でもあり、作家でもあるアルメルス(勝村政信)には、足がビッコの9歳の息子エイヨルフ(星野亜門or田中冴樹)がいる。2人は、息子の家庭教師を、アルメルスの腹違いの妹アスタ(馬渕英俚可)に頼んでいる。また、このアスタの事を好きな近所の土木技師ボルクハイム(野間口徹)は、アスタに会うため、よくこの家に顔を出す。
ある日、鼠ばあさんなる、ネズミ駆除を請け負う老婆(マメ山田)が、「厄介ものはいないか、厄介ものは、あたしが駆除してさしあげよう。」と、この一家を訪れる。一家は気味悪がるが、エイヨルフは、まるでハーメルンの笛吹きのように、この老婆について行き、海でおぼれ死んでしまう。
かくして、このドラマは、ベールがはがされ、一気にそれぞれの内面が露出していく。
≪ここまで≫
最初は、気持ちを素直に吐露する簡潔なセリフと、役者さんの緻密で無理のない演技を頼りに、登場人物それぞれの性格や生活背景などを頭に入れていきました。そしてある事件が起こって以降は、真正面からぶつかり合い、激しく揺れ動く4人の男女それぞれの気持ちを目の当たりにし、涙がほろほろと流れっぱなし。
イプセンって凄いと思いました。そして今さらですが、演劇って素晴らしいと思いました。戯曲は今生きている人間が読み、心と体を動かすことで、はじめてその本来の姿を現します。つまり演劇は、上演されなければその真実の姿をつかめない、とても贅沢で、正直な芸術だと思います。
『ちっちゃなエイヨルフ』(1895年初演)をとにかく読んで、読んで、穴が開くほど読んで、舞台化してくださったことに感謝します。100年以上前に書かれたイプセンの言葉を、借り物じゃなく、コピーじゃなく、本物として味わえたように感じました。
わがまま放題の少女のようなとよた真帆さんに、すっかり見とれてしまいました。自然で飾らないたたずまいが魅力的。
勝村政信さん演じるアルフレッドは、堂々としているし賢そうなのに、言動・行動を見てみると相当なダメ男(笑)。とても人間らしいと思いました。
馬渕英俚可さんはずっと心が開いているように見えます(私だけかもしれませんが)。無防備で勇敢な、か細い身体が美しい。
野間口さん演じるボルクハイムは、最初はいかにも部外者のふてぶてしさがあり、徐々にアルメルス一家の中へと入っていくのが面白かったです。
ここからネタバレします。
馬渕英俚可さんと野間口徹さんの、プラトニックながらも激しい(心の)ラブシーンが素敵。見つめ合う2人。どちらも妥協しない。
変化の法則から逃れられない人間。でも、それは「人間は変化することができる」という意味でもありますよね。ちっちゃなエイヨルフの死が意味のあるものになって、大きく見開いた目が慰められますように。
出演:勝村政信、とよた真帆、野間口徹、馬渕英俚可、マメ山田、星野亜門(Wキャスト)、田中冴樹(Wキャスト) ※星野亜門さんの回を拝見。
作:ヘンリック・イプセン 上演台本・プロデューサー:笹部博司 演出:タニノクロウ(庭劇団ペニノ) 美術:朝倉摂 照明:山口暁(あかり組) 音響:天野高志(OFFICE my on) ピアノ演奏:天野高志 衣裳:友好まり子 ヘアメイク:武井優子 演出助手:伊藤栄之進 舞台監督:加藤保浩 宣伝写真:園田昭彦 宣伝美術:采澤聰 営業:大島佳奈(メジャーリーグ) 制作:千葉裕子(る・ひまわり)プロデューサー:笹部博司 共催:(財)としま未来文化財団 主催:メジャーリーグ
【発売日】2008/10/25 全席指定 6,500円(税込み) *未就学児童のご入場はご遠慮下さい。
http://www.majorleague.co.jp/stage/eyolf/index.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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