いよいよ2/26(木)から開幕する「フェスティバル/トーキョー(F/T) 」の、プレ・オープニング国際シンポジウムに伺いました。平日昼間の4時間強という時間帯でしたが、ホールが満席(約800人)という大盛況。
元フランス文化大臣ジャック・ラングさん、作家・ジャーナリストのフレデリック・マルテルさん(『超大国アメリカの文化力』著者)をフランスから迎え、とても充実した内容でした。
⇒「グローバル化時代の文化 仏の社会学者 フレデリック・マルテル氏に聞く」(朝日新聞)
⇒書籍「超大国アメリカの文化力―仏文化外交官による全米踏査レポート」(岩波書店のサイトから購入可能)
※英語訳の前に日本語訳が完成・発売。5年に及ぶ取材でのインタビュー人数は700人以上。
「文化は生活に必要である」ということを、言葉で伝える努力をしなければと思いました。今さらですけど、楽しいとか面白いとか好きだとか、それだけじゃ説得力がないですよね。
下記は、特に印象に残ったことです。私がメモしたことなので公式な内容ではありません。
■フレデリック・マルテル氏基調公演
マルテル「フランスでは、映画のチケットの10%がフランス映画製作費の支援金になる。日本映画でもアメリカ映画でも、観ればフランス映画を支えることになる。今やフランス映画はアメリカ映画についで世界2位。※経済面でのランキングだと思います。」
マルテル「フランスはアメリカのように、もっと多様性に好意的になっていい。フランスの人口の10%は移民(アラブ人、ベルベル人等)なのだから。私はボーイング機で来日したが、エアバスもある。日本の皆さんには自分が乗りやすい飛行機(文化政策)を選んでもらいたい。」
■ジャック・ラング氏基調公演
ラング氏「日本人は日本文化を過小評価していると思う。映画、建築、演劇など(著名な日本人アーティストの名前を挙げる。⇒博識な方だと思いました)、私は日本人の皆さんに敬愛の念を抱いている。」
ラング「文化・教育は資本の面でも良い投資である。文化の重要性を訴えたい。文化は必要であり、(?の)要請である。ニーチェが悲劇についての書物で語っていた。『ブルジョワのエリートにとって文化は飾りだろう。でも文化は、国民の魂であり、1つのシステムの基礎。社会の基盤である。』と」
ラング「1985年から始まった経済危機の時に、私は文化予算を倍増させた。そして毎年ゆっくり確実に1%ずつ増やしていくことも約束した。特に困難な時代にこそ、そうすべきだ。クリエイティビティーを奨励し、地方分権化し、遺産を守ること。国全土で民主的な文化活動を奨励すること。危機だからこそ文化の重要性を信じる必要がある。若者、アーティスト、研究者の支援をすべき。芸術、文化、教育に最も良い地位を与えなければならない。」
■パネル・ディスカッション
パネリスト(客席から向かって左より):根本長兵衛/外岡秀俊/ジャック・ラング/辻井喬/フレデリック・マルテル/平田オリザ
辻井「日本はテレビ局、新聞社、デパートが文化を支えてきた。日本の政府と財界は世界的に見ると特殊。」
平田「日本には2000を越える劇場がある。おそらく数は世界一(でも劇場らしい機能はしていない)。大阪大学の生徒は4万人もいるのに、心を鍛えたり豊かにする場所(劇場、コンサートホールなど)がない。公共ホールは芸術の知識がない人が管理・運営している(つまりうまく機能していない)。大学の方から劇場にアプローチして、劇場を機能させてはどうか。優秀な学生を公共の劇場に派遣するとか。日本は後発であることの利点を用い、他国に謙虚に学ぶべき。」
平田「『トウキョウソナタ』という映画について。主人公はリストラされたサラリーマン。製造業の部門にいて、コミュニケーション能力に長けていないため、再就職ができない。日本人は7割がサービス業に従事するようになったのに、想像力、柔軟性を鍛え、コミュニケーション能力を高める教育を受けてこなかった。これは国の失政だろう。社会全体が考え方を変えなければならない時ではないか。大阪大学医学部では近い将来、演劇の授業を必修にすることを考えている。演劇ができないと医者になれないという時代が、もうすぐ来るかもしれない。」
平田「アーティストが貧しいのはどこも同じ。ロンドンでも俳優の8割が俳優以外の仕事もしている。ただ、アメリカ、フランスにはそれぞれのシステムがあるけれど、日本にはシステム自体がない。日本が文化についての新たなシステムを構築するために、必要なことは2つあると思う。まずは政権交代。アーティストがなぜ芸術が必要なのかを具体的に語ってこなかったのも悪かったと思う。そうでないと税金も協力も得られなくて当然。そして地方分権にすること。文化教育の判断は各地域にゆだねること。」
ラング「文化・教育こそ経済の鍵である。将来100倍になって社会に還元される。文化は生活に必需である。」
平田「日本の公共事業といえば道路、橋、ダムだった。道路を音楽に、橋を演劇に、ダムを絵画に変えたらいい。費用だって道路や橋の10分の1、100分の1で済む。」
平田「給付金用の資金2兆円の10分の1をまわせば、日本の文化予算は倍増しますよ(笑)。」
ラング「オバマ大統領は政策に“芸術教育への再投資”を掲げている(関連ページ⇒1、2)。チリの劇作家アリエル・ドーフマンが先日(どこかの新聞に)書いていた。『オバマは詩人の大統領である』と。社会の中の波紋を十分にキャッチして、人種・宗教の違いを超越して、州の違いも超越する、魔術師のような人物だ。彼は偉大なリーダーだ。」。
マルテル「オバマ氏は自分の過ちを自分で正すことができるリーダー。今までにそんな米大統領がいたでしょうか(いないはず)。アメリカ人は(自分が何らかの間違いを犯したら)自分から間違ったと言い、自分で自分を正せるようになるだろう。」
根本「平日昼間に大勢の方に集まっていただいた。文化に感心がある人がこれだけ多くいるのに、政治に結びつかないのはメディアのせいではないか。」
司会は朝日新聞社編集委員の外岡秀俊さんでした。パネリストの方々にまんべんなく話を振って、重要な話題を引き出してくださいました。
外岡「スロベニアの哲学者と話をした。彼いわく『1989年にベルリンの壁が崩壊して、世界は、これからは金融資本主義と自由主義の時代だと信じていた。しかしながら金融資本主義(←2008年10月)も自由主義(←2001年9/11)も崩れ去った。今はその空白を埋める価値観が求められている』とのことだった。」
日時:2009年2月4日(水)14時~18時過ぎ
日本語/仏語 同時通訳つき 入場無料・要予約 *別途、同時通訳イヤホン使用料(1000円)がかかります。
基調公演:フレデリック・マルテル(作家・ジャーナリスト、『超大国アメリカの文化力―仏文化外交官による全米踏査レポート』著者)
パネリスト:ジャック・ラング(政治家・元フランス文化大臣)、辻井喬(詩人・作家)※、外岡秀俊(朝日新聞社編集委員)、平田オリザ(劇作家・演出家)、コーディネータ:根本長兵衛(本企画コーディネータ) ※「辻」はしんにょうの「、」が2つあるもの。
http://festival-tokyo.jp/event/sympo.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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