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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2009年02月10日

MONO『床下のほら吹き男』02/06-15吉祥寺シアター

 土田英生さんが作・演出・出演される、男性ばかりの劇団MONO(モノ)の第36回公演です。前回に続いて客演に女優さんを迎えた5都市ツアー。劇団の20周年記念なんですね。

 タイトルどおり、床下の嘘つきな人たちの、可笑しくて悲しいお話でした。上演時間は約1時間50分。

 ⇒CoRich舞台芸術!『床下のほら吹き男

 ≪あらすじ≫
 四人姉妹が暮らす古い日本家屋。廊下の足元の壁が一部はがれ、その奥に空洞が見えた。なんと床下に大きな空間が広がっていたのだ。長女(亀井妙子)がある建築会社に、その穴をふさいでもらうよう依頼するが・・・。
 ≪ここまで≫

 四人姉妹の会話にぎこちなさを感じ、冒頭は少々物語の中に入りづらかったのですが、のどかで優しい雰囲気と嘘が嘘を呼ぶ展開に、徐々に引き込まれていきました。
 建築会社の面々はMONOの劇団員の方々で、いつものムードでいつもどおりに笑わせてくださいます。「わかっているのに笑っちゃう」タイプの親しみやすい笑いが嬉しい。

 のんびり、おっとりした会話から、ぽこんと飛び出すハっと目をむくような事実。ほっこり笑って、じんわり傷ついて、悲しくなって、最後(ほんとの最後)は、自分では全く意味がわからないんだけど、ぶるぶると笑い泣きしてしまいました。

 ここからネタバレします。

 床下の空間に外へとつながる小さな扉があり、得体の知れない男(水沼健)が勝手に出入り(不法侵入)していたことが判明します。横山(など)と名乗るその男の、口からでまかせの嘘に翻弄されていく姉妹と建築会社の社員たち。
 インチキ・リフォーム会社であることは最初にわかりますが、社長(土田英生)が社員ら(奥村泰彦 尾方宣久 金替康博)を騙していたことが暴かれるのは、なんとも物悲しい。仲良しと評判の四人姉妹が、実は全く“仲良し”でなかったことがわかるのは、もっと息苦しい。

 黒い服ばかり着ている次女(山岡徳貴子)のキャラクターが強烈だと思いました。言うことは正論だし、一番しっかりしてそうなのに、末っ子(松田青子)が「中学生の時に4歳の私を殴った」と言っても「そんなの知らない」などと、簡単な言葉で何事でもないように言い返してしまいます。彼女のことが一番不可解で、その不可解さがリアルだと思いました。

 末っ子はいかにも現代っ子な人物造形で、つかみどころのなさに個性を感じました。でも声のトーンに変化がとぼしく、演技は信じづらかったです。次女の婚約者と付き合っていて、結局半年後もそのまま付き合ってるというのは、おマヌケさんで可愛いなと思いました。

 男性には積極的だと自分で言っていた三女(ぼくもとさきこ)ですが、実は自信もないし男性と付き合ったこともないのだと、気弱な建築屋(尾方宣久)に正直に告白するのが可愛らしいです。やっぱりありのままでいることが、人間そのものの美しさにつながるんだなと思います。でも「食事はチンジャオロースーとかでいいです」など、正直すぎても色気がなくなってダメなんですよね(笑)。短い会話の中に、嘘と本当(正直)の両方の効果(魔法)について書き込まれていたのが素敵。

 長女は両親の交通事故死は自分のせいだったと告白します。だから「妹たちが怖かった。全く愛してなんていなかった」と。半年後のエピローグでは、長年の夢だったダンサーを目指し、スペインへと飛んでいました。新しい世界に飛び込んでいる長女の姿を思い浮かべ、暗い床下から日のあたる外界が見えてきました。次女がピンク色の服を着るようになったことも、「人間は変わることができる」という希望が示されている気がしました。

 最後の最後は、近々取り壊される家の床下にて、冒頭と同様にほら吹き男(水沼健)の独壇場になります。「指が切れたんだけど、また伸びてきた」「実は私、一度死んでるんです」など、明らかすぎて笑うしかないような嘘を連発していきます。得意げに話す水沼さんを観ていて、なぜか涙がどっと溢れてきてしまいました。なぜなのかわからないままに、ただただボロボロと。「明らかに嘘だとわかる嘘のなんと可愛らしいこと。それに比べて、人間が無意識についている保身のための嘘が、どんなに醜くて、残酷なものか」と、とらえたせいかもしれません。

≪京都、東京、大阪、愛知、福岡≫ MONO第36回公演
出演:水沼健 奥村泰彦 尾方宣久 金替康博 土田英生 亀井妙子(兵庫県立ピッコロ劇団) ぼくもとさきこ(ペンギンプルペイルパイルズ) 松田青子(※前回は松田暢子として出演) 山岡徳貴子(魚灯)
脚本・演出:土田英生 舞台美術:柴田隆弘 照明:吉本有輝子 音響:堂岡俊弘 衣裳:權田真弓・ 大野知英 [iroNic ediHt DESIGN ORCHESTRA] 演出助手:磯村令子 舞台監督:藤吉成三 北澤佳奈子 宣伝美術:西山英和[PROPELLER.] 宣伝写真:平野愛(写真とプリント社) 舞台写真:谷古宇正彦 Web制作:写真とプリント社 制作助手:田平有佳 制作:垣脇純子・本郷麻衣 企画・製作・主催:有限会社キューカンバー
【休演日】2/10(火) 【発売日】2008/11/29 【全席指定】 前売 3,800円  当日4,000円 学生 2,800円 (前売・当日とも/MONOのみ取扱) ★2/6は割引料金→ 前売 3,300円 当日3,500円 学生2,300円
http://c-mono.com/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年02月10日 16:01 | TrackBack (0)