新国立劇場演劇研修所(NNTドラマスタジオ)の第2期生修了公演の稽古場にお邪魔しました。⇒『珊瑚囁(さんごしょう)』公演詳細 ⇒第2期生関連レビュー1、2、3、4 ⇒第1期生修了公演のレビュー
桃園会の深津篤史さんが新作を書き下ろし、研修所所長の栗山民也さんが演出されます。初日まであと10日となった稽古場で、研修生全員がシーン作りをするところを拝見できました。
■新国立劇場演劇研修所『珊瑚囁~大人の為の少し残酷でとても静かなお話~』
02/28-03/02@新国立劇場 小劇場
⇒CoRich舞台芸術!『珊瑚囁』
≪あらすじ≫ 公式サイトより一部抜粋。
これは埋もれた時間を透視する物語、平らに塗り潰す世界と戦う物語、時の声に耳を澄ますちょっぴりの人々と、それ以外の沢山の人々の物語です。
≪ここまで≫
ほぼ原寸大の装置が建て込まれた稽古場で、稽古開始の13:00からすぐにシーン稽古が始まりました。きりのいいところまで演技をして、その後に演出家がフィードバック(ダメ出し)をしていきます。今日は後半から最後のシーンまでで、ギュっと濃縮された約4時間(休憩は10分間を2回)はあっという間でした。※その後に自主稽古あり。
その場でいただいた台本を数ページ読み進めたところ(そんな段階では判断しようがないのですが、第一印象では)、『珊瑚囁』は抽象的な短い言葉が並んだ、少々難解そうな戯曲に見えました。演技を見ていても最初はまるで空をつかむような不安な気持ちでしたが、栗山さんの簡潔なアドバイスを得て、役者さんの言葉の背景(ある言葉が発せられる理由となる、感情や出来事など)が伝わってくるようになると、短いひとことが突然重みを増しました。
栗山「(この戯曲は)セリフが短いからね。セリフの書かれていないシーンのト書きは自分で作ってみて。間違ってもいいから。そうしないと単なる不条理になっちゃうよ。」
栗山「(この芝居は)あの日の体験と出合おうとしている時間だから。それが俳優の目に映らない限り、(観客には)何もわからないよね。花火、枝、石といった単語に、崩壊した瞬間のいろんなイメージがぽつぽつと散りばめられている。」
ため息まじりのつぶやきのようだった言葉が、それを話す人物だけでなく、他の大勢の人々の嘆き、怒り、祈りを含んだ叫びのように聴こえてきます。つぶやいた男が今置かれている状況と、彼が回想する過去の一風景が重なり、私は稽古場に現れた“荒涼と広がる更地”に身を浸しました。深津さんが書かれた短いセリフには、こんなに深い意味が込められていたのかと瞠目するばかりです。
セリフにヒントや説明が少ない戯曲では、“音”の要素がシーンの成り立ちに大きな役割を果たします。栗山さんは音響スタッフにもしばしば注文をつけながら、役者さんの演技と音楽を慎重に調和させていきました。まるでオーケストラの指揮者のように。身体で鳴らす音と声、効果音、音楽が一体となって、芝居がダイナミックに立ち上がっていきます。
栗山「かすかな光の中に声を忍ばせていくように、デリケートに(声を出して)。個がそれぞれに生命を維持するために叫ぶように。」
最後のシーンが終わった後は栗山さんの提案で、懸案になっていた前半のあるシーンを研修生たちで作ることになりました。夕方の1時間は出演者全員(計15人)で試行錯誤。
↓まずは登場人物5人の演技を他の10人が観てみる。観てすぐに感想、意見を出し合って、試していく。
↓台に上がる人数を増やしてみる。12人で演じて、3人は観る側に。
↓観ていた人、演じた人が新しいアイデアを出し合い、再び試してみる。身体の状態がガラっと変わり、今まで見えていなかったことが見えてきた。
役者さんによるシーン作りには、座組みの個性が顕著に現れるものだと思います。15人はそれぞれが平等な立場で意見を出し合い、気持ちをスムーズに交流させて、想像力を立体化させていきました。全員が無言になって熟考する時間は、集中力の高まりで室温が上がっているのではないかと思うほど。
良い緊張感が保たれた柔軟な空気の中で感じたのは、研修生たちの「聞く」姿勢が独特なことです。舞台上の出演者同士のコミュニケーションからはもちろん、その演技を見る・聞く側の研修生からも大きなエネルギーを感じました。聞く能力の高さは、柔軟さ、判断力、包容力などにつながるものだと思います。これも3年間の研修の成果なのかもしれません。
タイトル『珊瑚囁』の“囁”の訓読みは“ささやき”です。目を凝らして、耳を澄まして、戯曲にしたためられた小さな、でも確かにそこにある人々の声を感じ取り、舞台に乗せてくれることと期待します。
出演:新国立劇場演劇研修所第2期生(岩澤乃雅、熊澤さえか、佐々木抄矢香、滝香織、保可南、深谷美歩、藤井咲有里、吉田妙子、阿川雄輔、宇井晴雄、角野哲郎、西原康彰、遠山悠介、西村壮悟)/古川龍太(第1期生・賛助出演)
【作】深津篤史【演出】栗山民也【美術】長田佳代子【衣装デザイン】出川淳子【照明】川口雅弘【音楽】後藤浩明【音響】河原田健児【歌唱指導】伊藤和美【振付】夏貴陽子【演出助手】田中麻衣子・大杉良【舞台監督】三上司【研修所長】栗山民也 新国立劇場演劇研修所の成果
【発売日】2009/01/20 A席:3000円 B席:2000円 Z席:1500円
http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000223_training.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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