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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2009年03月13日

ホリプロ『ムサシ』03/04-04/19彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

 井上ひさしさんの新作を蜷川幸雄さんが演出されます。主演に藤原竜也さん、小栗旬さんを迎えた超話題作です。前売りチケットは瞬く間に完売だったとか。

 演劇雑誌などに「脚本が出来ていない」と堂々と書かれていたため(笑)、初日の幕は開くのかしら・・・と勝手に心配していたのですが、『ロマンス』同様、無事に開幕したんですね。

 明るいドタバタとわかりやすい展開を気楽に観終わった後、帰り道で色んなシーンを反芻しながら、作品の裏側に思いを馳せました。上演時間は約3時間30分(休憩15分を含む)

 ⇒制作発表の写真
 ⇒CoRich舞台芸術!『ムサシ
 レビューをアップしました(2009/03/15)。

 ≪あらすじ≫
 巌流島の対決の数年後、宮本武蔵(藤原竜也)と佐々木小次郎(小栗旬)が再びある寺で出会う。3日後に決闘をする約束をするが・・・。
 ≪ここまで≫

 能舞台のようなシンプルな美術。寺の建物の周囲にある背の高い木々が揺れて、照明や音響とともに風を感じさせます。舞台面側にぐっと寄せた装置なので、役者さんが客席に近い場所でずっと演技されていました。

 武蔵と小次郎という剣豪が顔を合わせますが、周囲の心優しい人たちは2人に決闘をさせないよう、さまざまに計らいます。あまりにわかりやすい展開で、こんなに軽く笑って、さらっと観ているだけでいいのかしら・・・?と思ったりもしたのですが、それで終わるわけはありませんでした。さすがは井上ひさしさん、終盤には流れを大きくくつがえす展開が用意されており、はられた伏線が回収されます。

 登場人物が語る言葉から大切なものをもらえましたし、言葉はなくとも雄弁なシーンもありました。ただ、最後まで観終わった時には物足りなさが残りました。おそらく演出がシンプルすぎると感じたからだと思います。この数年、蜷川さんの作品を拝見してきて、蜷川さんは演出の幅がとても広い(演出の種類が豊富な)方だと思っております。これは私の勝手な想像に過ぎませんが、お稽古の期間がもっと長く取れれば、作品の厚みがさらに増す可能性はあったのではないでしょうか。

 藤原さん、小栗さんという大スターの競演は、お2人が舞台上で熱くなればなるほど笑える演出になっていて楽しかったです。ただ、藤原さんのセリフは聞こえづらいこともありました。
 お坊さん役のお2人(辻萬長、大石継太)と柳生宗矩役の吉田鋼太郎さんの演技は特に安心して観ていられました。皆さんとてもコミカルでサービス精神旺盛で、ほとんどファンになったような気分で見つめてしまいました。
 白石加代子さんはいつもながら、とてもチャーミングな方ですよね。ただ今回の演じ方については、私にはちょっとクドすぎたかも。鈴木杏さんは若くて元気はつらつで“がんばっている”印象。もうちょっと力が抜けた状態でも観てみたいと思いました。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 僧の平心(大石継太)が誰の剣もすべて預かることや、「仏の前では誰にも差別はない」という沢庵(辻萬長)の言葉から、戦いをしないことが約束された場所(寺)が、人間の命を守っていることかがわかります。なにかとすぐに能を舞ってしまう柳生(吉田鋼太郎)のおかげで、踊ること、歌うことが、人間の幸せそのものだということも伝わってきました。

 筆屋乙女(鈴木杏)は父の仇である浅川甚兵衛(塚本幸男)の命を奪わず(彼の左手だけは切り落としたが)、うらみの鎖を断ち切る決心をしました。木屋まい(白石加代子)が「こういうこと(許すこと)ができるからこそ、人間は美しいのではないですか?」と語ります。“美しい”という感覚は大事ですよね。正義とか義務とかじゃなくて“美しい”ってことが。

 武蔵と小次郎にどうにかして果し合いをさせないように仕組んでいたのは、成仏できないままこの世をさまよう幽霊たちの仕業でした。自ら命を粗末にして死んでしまった彼らは、武蔵と小次郎に決闘をしてもらいたくない(生きて欲しい)一心で、芝居をしていたのです(死んだ筆屋の主人の敵を打とうとする芝居/小次郎は天皇家の血を引く男だと思わせる芝居等)。幽霊は「あなたたちが決闘をやめてくれれば、私たちは成仏できる」と懇願し、それに応える形で2人は戦うのを止めます。

 幽霊オチという種明かしについて、最初は「え?そんなオチなの?」と少々がっかりしました。言葉や意味、ストーリーだけを追った場合、そう感じても仕方ないと思います。でも後から考えると、幽霊とはつまり先祖のことであり、武蔵は過去の歴史と対話したことになりますよね。観客も同時に過去と向き合ったと思って良いと思います。私の命は先祖にもらったものであり、今も先祖に生かされているのだとも思いました。だったら自分を粗末になんてできない。

 知り合いの方が「もしかすると小次郎もまた、武蔵が座禅中に見た幻だったのかもしれない(小次郎は巌流島で既に死亡していたのかもしれない)」とおっしゃっていて、それは面白い!と思いました。成立しないわけではないですよね(脚本がどうなってるのかはわかりませんが)。そういったことも含めて、観客の想像をより活発に喚起させる演出が、もっと厚くほどこされる余地があったのではないかと思います。

朝日新聞創刊130周年記念・テレビ朝日創業50周年記念・彩の国さいたま芸術劇場開場15周年記念
出演:藤原竜也 小栗旬 鈴木杏 吉田鋼太郎 辻萬長 白石加代子 大石継太 塚本幸男 高橋努 堀文明 井面猛志
脚本:井上ひさし(吉川英治「宮本武蔵」より) 演出:蜷川幸雄 美術:中越司 照明:勝柴次朗 音響:井上正弘 衣裳:小峰リリー 殺陣:國井正廣 振付:広崎うらん 花柳錦之輔 能指導:本田芳樹 狂言指導:野村萬斎 演出補:井上尊晶 音楽補:池上千尋子 舞台監督:小林清隆 テクニカルコーディネーター:金井勇一郎 主催:朝日新聞社 テレビ朝日 財団法人埼玉県芸術文化振興財団 こまつ座 ホリプロ 企画制作:ホリプロ
http://www.horipro.co.jp/ticket/kouen.cgi?Detail=123
http://saf.or.jp/arthall/event/event_detail/2009/p0304.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年03月13日 20:47 | TrackBack (0)