『昔の女』に続いて、シリーズ・同時代【海外編】第2弾『シュート・ザ・クロウ』を拝見しました。上演時間は約1時間20分。開場時間から“タイル貼り”は始まっています。
⇒「シュート・ザ・クロウ 豆ちしき」がとっても充実!
⇒メディア掲載情報
作家のオーウェン・マカファーティーさんを迎えた新国立シアタートーク特別編の日に伺ったところ、イベントが盛りだくさん!
ロビーでは「世界のタイル博物館・ヨーロッパのタイル」展、「シリーズ・同時代」戯曲販売会、『夏の夜の夢』模型展示、『タトゥー』美術家の作品展示があります。終演後にはタイルプレゼント抽選会も開催。お芝居を観に行ったんだけれど、まるでカーニバルの催しのようでした。楽しかった~!
金曜日のソワレ終演後にはFRIDAY PUB(フライデー・パブ⇒仮設写真)が開店するそうです(毎週金曜20:45-21:30)。残すは17日(金)&24日(金)ですね。チケットがなくても自由に参加できるので、私も来週チャレンジしようかな~。
トーク終了後にはマカファーティーさんの戯曲本サイン会も開催されました(「悲劇喜劇」↓1300円購入者向け)。
※番外連続リーディングVol.2は『最後の炎』です(⇒Vol.1レビュー。シリーズ・同時代【海外編】の半券(実券)があれば観られます。5月の『タロットカードによる五重奏のモノローグ』も観られますよ♪
⇒CoRich舞台芸術!『シュート・ザ・クロウ』
≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
北アイルランド、ベルファストの建築現場で働く4人のタイル貼り職人の1日。今日を最後に仕事をやめるディンディン(平田満)は、大量のタイルを盗み、売りとばすことをランドルフ(柄本佑)に提案する。が、同じころ別室のソクラテス(板尾創路)とピッツィ(阿南健治)もタイルを盗む計画を立てていた……。
≪ここまで≫
劇場に入ると、すでに役者さんがタイル貼り作業をしていました。正面には彼らが作業する2つの部屋。それらをつなぐ階段と廊下(踊り場)が中央にあります。部屋の下にも装置が組まれており、部屋の上部奥にも演技スペースとなる通路が作られていました。4人芝居だけれど劇場を広く使った装置で、空間が入り組んでいるのが面白いです。
タイル貼りは単純そうに見えて、おそらく神経も体力も使う肉体労働。どうやら彼らはずっと同じ作業をしている職場仲間らしい。引退間近の老人から体力があり余ってそうな若者まで、数世代に渡る男たちが、いつもの仕事中に本音で話をします。
家族のことで悩むソクラテス役の板尾創路さんの演技が、どうも私には合わなかったようで、たまに集中が途切れて眠くなってしまうこともあり・・・無念。
でも、終盤のある事件を経て最後に至った時、このお芝居は確かに平凡な労働の1日を描いたものだけれど、人の一生、もしくは繰り返される人類の歴史を表しているんだと気付きました。4人の労働者が居た舞台が、身体にじーんと染み込んでくるように感じました。
ここからネタバレします。セリフは悲劇喜劇2009年5月号より抜粋。
今日で仕事納めの老人ディンディン(平田満)。お金を貯めてバイクを買う夢を見る若者ランドルフ(柄本佑)。優秀な娘をフランス留学に行かせたいピッツィ(阿南健治)。妻と息子に出て行かれて、いつも一人で哲学しているソクラテス(板尾創路)。4人が狭い踊り場でケンカするシーンが可笑しかったです。
タイルを盗もうという企みも、納品書が見つかったことでおじゃん。その上、金曜日の夜だというのに、大嫌いな社長から追加の仕事を無理やり押し付けられます。でも、息子と映画に行く約束を取り付けたソクラテスだけは、残業を拒否。
ソクラテス「世の中にはもっと大事なことがあるんだ ― 俺は息子を映画に連れて行く ― 小せぇことかもしんねぇ ― つまんねぇことかもしんねぇ、けど、俺がやんなきゃいけねぇのはそっちだ」
この後ピッツィは、ソクラテスが放っていった仕事を引き受けて、残業代も彼のものにしておくという判断をします。あぁ、これが“正しいこと”だよなぁと思いました。理屈は通らないかもしれないけど、道理には適ってる。
タイル職人をクビ(引退)になり、次は窓拭きになりたいと言っていたディンディンは、地べたに座ったまま息を引き取っていました。動かなくなった老人と花束にスポットライトが当たり、終幕。“仕事”をしながら怒ったり笑ったり、必死で生きていた4人の男たちを思い出し、これが人間の一生なんだと、ストンと腑に落ちました。老人のシルエットとぽつんと置かれた花束を見つめながら。
≪新国立シアタートーク特別編≫
出演:オーウェン・マカファーティー(脚本) 田村孝裕(演出) 浦辺千鶴(翻訳) 小田島恒志(翻訳) 鵜山仁(芸術監督) 司会:平川大作 通訳:(女性)
マカファーティーさんはユーモアのある方で(ユーモアといってもブラックユーモアの方)、とても楽しいトークでした。田村さんとも相性ぴったりのようにお見受けしました。お2人とも、ちょっとへそまがりな感じで(笑)。←褒め言葉です! 自称“おしゃべり”の小田島さんのお話も面白かった。
マカファーティー「仕事とは何かということを書いた戯曲です。仕事には矛盾がある。例えば、仕事なんか大嫌いと言いながら、人間は仕事なしには生きていけない。仕事をテーマにするとシリアスになりすぎるので、仲間同士でしか通じない会話を書くことでコメディーにした。」
平川or小田島「日本人には全くと言っていいほどわからない言葉・会話が多い。イギリス人なら誰でもわかるのでしょうか?」
マカファーティー「いいえ、イギリス人にも通じない(笑)。あまりに退屈だから出てくる言葉たちなんだと思う(色んな言葉遊びがあるから)。」
田村「(昔は)翻訳劇は嫌いでした。でもマカファーティーさんの戯曲は、今まで自分が思っていた翻訳劇とは違っていた。それに新国立劇場で上品ではないコメディーができる(それは自分にとっては嬉しい)ので、マカファーティーさんの戯曲をやりたいと伝えました。」
平川「マカファーティーさんはよく稽古場に来られる劇作家なのですか?」
マカファーティー「私は自分で演出をする時もありますが、脚本を書くだけの時は、最初の1週間ぐらいは稽古場に行ったりします。この戯曲の作家は死んでない(生きてる)んだぜと伝えるために(笑)。また、私のことを覚えておいてもらうためにもね。」
田村「あなたが稽古場に来なくてよかったです(笑)。」
小田島「この作品はこれで3度目の上演になりますが、どの上演が良かったですか?」
マカファーティー「日本のが最高です。いえ、本当に。狭くて閉塞感のある部屋で、4人がずっと仕事をしていた。いやだと言いながらも4人がつながり合っていることが表れていた。うまくいっていない結婚関係のようだ。こいつとは絶対うまくやれないんだけど、でも、いないと生きていけない、というような。」
田村「ト書きに“部屋が2つある”と書いてあったから、2つの部屋を並べただけでもあるんですが(笑)、美術の伊藤雅子さんとは、彼らが閉じ込められているということを表そうと話し合っていました。僕は主に小劇場で活動していたので、この劇場(THE PIT)でも自分にとっては大きい方なんです。だから空間全体を使ってやろうと思って。(ロンドン版では回り舞台になって、2つの部屋が交互に出てくる演出だったけれど)自分は全部見せるやり方にした。」
観客より「タイトルは『カラスを打て』という意味ですか?」
マカファーティー「"shoot the crow"はゴロがいい言葉なんです。ただ"go"というだけの意味です。『行くよ』という。ソクラテスが『息子と映画を見に行くんだ』と言って、出て行くような時に使う『行くよ』ですね。」
観客より「『イカれてるイカ』というセリフが面白かった。原文はどんな英語なんですか?」
田村「それは僕が変えた(作った)セリフです(稽古中にセリフを変更することはあった)。」
新国立劇場2008/2009シーズン シリーズ・同時代【海外編】Vol.2
出演:板尾創路 柄本佑 阿南健治 平田満
脚本:オーウェン・マカファーティー 翻訳:浦辺千鶴 小田島恒志 演出:田村孝裕 美術・衣裳:伊藤雅子 照明:中川隆一 音響:加藤温 演出助手:渡邊千穂 舞台監督:村岡晋 芸術監督:鵜山仁 主催:新国立劇場 協力:ブリティッシュ・カウンシル
【発売日】2009/02/08 A席:4,200円 B席:3,150円 Z席:1,500円
http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000065_play.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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