前川知大さんが作・演出される劇団イキウメの公演です。小空間で贅沢なSFワールドを堪能。お話が面白くって、手放しに楽しんでしまいました。演出も洗練。上演時間は約1時間45分。
前川さんは昨年の『表と裏と、その向こう』で読売演劇大賞優秀作品賞、優秀演出家賞を受賞され、紀伊國屋ホールの『相思双愛』(本日開幕/脚本提供)、世田谷パブリックシアターの『奇ッ怪~小泉八雲から聞いた話』(7月/作・演出)、パルコ劇場の『狭き門より入れ』(8月/作・演出)に連続登場する、今、最も注目される若手劇作・演出家の一人です。
劇団としても、『イキウメ短篇集』(関連レビュー⇒1、2)が5/1(金)にNHK教育「芸術劇場」で放送されたばかり。
公演期間は長い目ですが小さな劇場ですので、ご興味ある方は早めに予約された方がいいかも。近くに座ってたお客様が「3500円は安すぎる!」って連発してました(笑)。
⇒CoRich舞台芸術!『関数ドミノ』
≪あらすじ≫ 当日パンフレットより。改行を変更。(役者名)を追加。
ある地方都市で奇妙な交通事故が起きる。
車はゆるいカーブをスピードを落とさず曲がってきた、信号のない横断歩道に歩行者(緒方健児)を発見するが、既に停止できる距離ではない。しかし車は歩行者の5cm手前で、まるで透明な壁に衝突するように大破した。歩行者は無傷。運転手(窪田道聡)はエアバッグのおかげで軽傷、助手席の彼女は頭部を激しく打ち重傷。目撃者は三人(浜田信也、ともさと衣、古河耕史)。
この事件の担当になった保険調査員(安井順平)は不可解な事故に手を焼き、当事者と目撃者を集めて検証をする。
≪ここまで≫
本気で望んだことなら何でもすべて叶う“期間限定の神様・ドミノ”なる人物をめぐるお話です。端から見ていて、順風満帆すぎる人生を送っている人っていますよね。反対に、驚くほど不運続きでお気の毒な人もいます。運の良さが本人の意志や能力に関係なく、神様から与えられた運命のように定まったものだとしたら、そしてその人物が目の前にいるアイツだとわかったら・・・。
舞台美術は大きく分けて、手前と奥の2つの演技スペースから成っていました。手前(客席面側)は上下(かみしも)、天井、床の四方向をベージュ色(?)の板で囲んだ、奥行き浅い目のステージ。その奥に、手前よりも1段ほど床のレベルを下げた空間があります。
説明する言葉なしに、次々とスピーディーに場面転換していく演出(脚本の構成も?)が洗練されていました。特に、前のシーンの人物を残して次のシーンに移るところは、意味が幾層にも負荷されて素晴らしかったです。
ストーリーにすっかり引き込まれて楽しく鑑賞しながら、人間の欲望について考えました。人間の欲望を実行した結果が、今わたしたちが生きている世界なのだと思います。でも欲望って一体何なのか。目先の欲望と将来の夢は別物だし、性欲と愛情はいつもセットではないし、私が今望んでいることって、本当の本当に、私自身が心の底から欲していることなのかしら・・・などなど。SFの世界を通じて人間、すなわち自分自身について深く考えさせてくれました。さらに娯楽作でもあるところが、前川作品の凄いところだと思います。
保険調査員役の安井順平さんの言葉がとっても可笑しくて、何度も笑わせていただきました。お笑い芸人さんのネタとしてではなく、会話の中の呼吸や心の機微を表す方向での笑いなので、大満足。
“ドミノ”の存在を証明しようとする真壁役・古河耕史さんの独白が良かったです。古河さんの顔(演技)があまりに柔軟に変化するので、古河耕史という役者ではなく、真壁その人がそこに居るような気持ちで観られました。
ここからネタバレします。※これからご覧になる方は読まないで下さいね!
“ドミノ”が見つかった。事故の目撃者である駆け出しの小説家・森魚(浜田信也)がそうなのだ。あの交通事故で「透明な壁」を出したのは森魚だと見込んだ事故関係者らは、ドミノである彼の力を利用して、自分たちの望みをかなえようとする。
HIVキャリアである土呂(盛隆二)は、森魚に自分の病気が治って欲しいと思ってもらうよう、彼の友人になるべく急接近するが…。
一体どうなるんだろう!?と物語の中に没頭して、わくわくしながら観ていた先に待っていた結末は、ドミノのせいで人生は不公平で、自分はいつも損ばかりしていると思い込んでいた真壁(古河耕史)こそが、実はドミノだったというどんでん返しでした(ドミノは期間限定なのだから、森魚もある時期はドミノだったかもしれないし、真壁もあの瞬間にドミノになったのかもしれない・・・な~んて後から頭の中でぐるぐる考えたりもしました・笑)。
耳から血を出して倒れてしまった秋山(ともさと衣)の手をとり、真壁は彼女の回復を、心から願うのか、どうか・・・というところで暗転して終幕。とても良かったです。前川さんは人間への愛情が深いと思います。
婚約者が重症(しかも顔面ヘルレイザー状態)なら、新田(窪田道聡)はもっと切羽詰っていてもいいんじゃないか。森魚(浜田信也)に好きな女(大久保綾乃)を取られたなら、田宮(緒方健児)は怒るだけじゃなく、落胆や嫉妬の陰影をもっと濃くしてもいいんじゃないか。命がけの賭けに出た土呂(盛隆二)と森魚の会話は、押したり引いたりだけじゃなく、浮かんだり沈んだり、ソレたり様子見したり、もっと広く揺らいでもいいんじゃないか。秋山(ともさと衣)は真壁(古河耕史)をドミノを信じる同志として守りたいのかもしれないけど、恋愛がらみの色っぽい、切ない空気も漂わせていいんじゃないか。などなど、役者さんの演技については厚みを増して欲しい気もしました。私が拝見したのは初日ですので、回を増すごとに良くなることと思います。
出演:浜田信也 盛隆二 岩本幸子 緒方健児 森下創 窪田道聡 安井順平 ともさと衣 古河耕史 大久保綾乃
脚本・演出:前川知大 舞台美術:土岐研一 照明:松本大介 音響:鏑木知宏 楽曲提供:安東克人 衣裳:今村あずさ ヘアメイク:前原大祐 演出助手:石内エイコ 舞台監督:谷澤拓巳 制作:中島隆裕 吉田直美 大道具製作:C-COM舞台装置 演出部:棚瀬功 照明操作:和田東史子 宣伝美術:末吉亮 宣伝写真:坂田智彦 舞台写真:田中亜紀 提携:赤坂RED/THEATER 後援:TOKYO FM 運営協力:サンライズプロモーション東京 主催:イキウメ/エッチビイ株式会社
【発売日】2009/03/14 前売3,500円 当日3,800円 (全席指定・税込)※未就学児童入場不可
http://www.ikiume.jp/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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