鬼塚俊秀さんと西地修哉さんというお2人の役者さんが立ち上げたユニットのようです。「726」は「ナナ・ニー・ロク」と読むのかしら。チラシが素敵。
演出に元NLTの北澤秀人さん、脚本に青年団リンク・青☆組の吉田小夏さん迎えて、夏目漱石の「こゝろ」(Wikipedia)を舞台化するという試みに興味を持ちました。
北澤さんの演出は無料リーディング『アテンプツ・オン・ハー・ライフ』がとても面白かったんです。吉田さんと漱石という組み合わせはぴったりな気がしました。上演時間は約1時間45分。
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≪あらすじ≫ CoRich舞台芸術!より
時は明治末期。
夏休み中に鎌倉に旅行に行った際、「私」は「先生」と出会った。
「私」は世捨て人のような生活を送る先生の事に興味を抱き、
親密な交際をすることになる。
そんな折、 「私」は父の容態の急変により
実家から離れる事が出来なくなる。
父親が危篤という状況になって、先生からの手紙が届く。
手紙には、衝撃的な先生の過去が綴られていた…。
≪ここまで≫
舞台中央に1段高く作られた正方形のステージ。その周囲も演技スペースとなる抽象美術です。下から上に向かって照らす照明が舞台の周囲をぽつ、ぽつと囲んで、ほんのり和のムード。役者さんは全員和服で、袴や上着などを着替えて1人2役以上演じます。
「こゝろ」は〔先生と私〕〔両親と私〕〔先生と遺書〕の3部からなる長編小説です。一部分にフォーカスをあてるのではなく、全体を2時間弱にまとめたのは凄いなーと思いました。
役者さんは皆さんが、演じる役について真面目に取り組んだことが伝わってくる、丁寧で真摯な演技をされていたように思います。
ちゃぶ台、花瓶などの小道具を舞台上に残したまま、違う時代へとすばやく場面転換するのがスマート!役者さんが何の役を演じているのか(何役に変わったのか)がわからない時間がスリリング♪原作を読んだからこその楽しみもありました(どこをどのように省略・肉付けしたのか、人物造形など)。
こうやって個別に考えていくと見どころの多い作品だったと思うのですが、全体として面白かったのかというと疑問が残りました。帰り道にその理由を考えました。
ここからネタバレします。
原作「こゝろ」で私が一番引き込まれたのは〔両親と私〕の最後の場面です。“私”は実家に先生からの分厚い遺書が届いたため、父がまさに亡くなろうとしている時に、電車に飛び乗って東京に向かいます。“私”がどれほど先生のことを慕っていたかがわかりますし、しかもてん末(“私”は先生の自殺を止められたのかどうか)が書かれていないので、余計に想像が膨らんで切なさが増しました。
今作では“私”がなぜそこまで先生に執着したかの理由が、描かれていなかったように思います。「明治時代をそれぞれに懸命に生きた人々の群像劇」という仕上がりだったのは、私にとっては物足りなかったのかも。
※劇団フライングステージの『新・こころ』は、「先生と“私”はゲイである」という視点から全編を読み解いており、先生と“私”が出会った「海」と、Kと“私”が旅した「海」が見事にシンクロしていました。
K、“私”の父、先生の3人の死が、1点に集まるアイデアにはなるほどと思いましたが、“私”の父という人物には感情移入できるきっかけがなかったので、効果はそれほど高くなかったように思います。
K(西地修哉)が“私”(鬼塚俊秀)にお嬢さんへの恋心について初めて相談する時の、Kの恥じらいっぷりに胸キュンでした。
出演:鬼塚俊秀〔私、若い頃の先生〕、西地修哉〔K、私の兄、船頭?〕、杉山薫(ナイロン100℃)〔先生の妻、お嬢さんの母〕、照屋実〔先生、私の父〕、高原コマキ〔お嬢さん、私の兄嫁〕、ほりすみこ〔女中、私の母〕、大西玲子〔お嬢さんのご学友、結婚する女中〕
【原作】夏目漱石 【演出】北澤秀人【劇作】吉田小夏【美術】野村真紀【照明】高山晴彦【音響】天野高志【衣裳】大井崇嗣【舞台監督】中西隆雄 井上林堂【宣伝美術】高橋裕樹【制作】高市由香里【制作助手】岩間麻衣子【企画・製作】726
【発売日】2009/04/01 前売 2,800円 当日 3,000円 学生 2,500円
http://www.act726.com/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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