岩井秀人さんが作・演出・出演される劇団ハイバイの新作です。岩井さんのお母様が実際に営むリサイクル・ショップをモデルに、取材を経て書き上げた戯曲だそうです(終演後のトークより)。
店に集まるオバサマたちを、男の役者さんが熱く激しく(笑)演じます。上演時間は約1時間45分。終演後のトークのゲストにケラリーノ・サンドロヴィッチさんがいらっしゃいました。
⇒CoRich舞台芸術!『リサイクルショップ「KOBITO」』
≪あらすじ≫ 劇場サイトより
多摩地区。50代の女性四人で営んでいるリサイクル屋には、暇な主婦や定年退職した老人達が冷やかし半分で今日も一杯100円のコーヒーだけを飲みに来る。
時々訪れる息子や孫の存在から明らかになる50も過ぎれば当然あるだろう、それぞれのそれなりの過去。
お互いの暗い過去は言いっこなし、ちょっと馬鹿で「ババア」って言われてるくらいが気楽で良い。
悪態を付き合い励まし合う、かつて「女」であり「母体」であった者達の強がる風景。
を、ハイバイ流に男優達で上演。
岩井の母が実際に営むリサイクル屋をモデルに「圧倒的な幸福を願った女達の、ある果ての姿」を雑な女装をしたイカつい男達で描きます。
≪ここまで≫
何でも売る個人経営のリサイクルショップが舞台。劇場の壁には無数の洋服が吊り下がり、下手奥には古着が積み重なった小高い山が出来ています。
途中休憩があるわけではないのですが、明確に前後編に分かれた脚本だったように思います。前半は爆笑・失笑の連続。後半はしんみりゾクゾク。
前半はとにかく可笑しくて、手放しに喜んで観ていました。役者さんにとってはかなり難しい設定なのではないかと思います。ほんの一瞬のズレが整合性をなくさせてしまうような、リスキーな間合いがいっぱい。スカっとするほど気持ちよく決まる瞬間を何度も見せて頂けました。
後半は人生のつらいエピソードがズシンと来ますが、役者さんが大汗をかいて暴れまわるので、目が離せません。そして、とてもスリリング(笑)。怪我をされませんよう!
店の商品は、商品なのかゴミなのかが非常に曖昧な状態にさらされます。値段もあってないようなものだし。大事なものと不要なものがごちゃまぜになった時、人間の命もゴミと同じようになっちゃうような気がしました。でも同時に、何がなんだかわからないものに囲まれて(囲まれずとも)、つまらないことにゲラゲラと笑ってる瞬間は、確実に幸せなんだということも伝わってきました。
「金があれば●が買える、だから幸せになれる(●がないのは不幸せだ。金が全てだ)」といった風説を信じ込まされて、ひたすらそれを求めて突っ走った末に何が残ったのかを、立ち止まって見つめる勇気が必要なのだろうと思います。
ここからネタバレします。
前半は、ひきこもりがちな娘(永井若葉)のために劇を見せようとするハイバイお得意の劇中劇シーン(演目は手塚治虫『火の鳥・未来編』)。劇自体はもちろん、人に見せるためのショーの体裁さえ整えられないオバチャンたち。人の話を聞かない、勝手に誰かと関係ない話を始める、全員で独り言を同時に話してしまう・・・。予想をもれなく上回る失態ぶりに、次々と爆笑させられました。
でも同時に思うんですよね、私も同じだよなって。人と会話をしているようでいて、実は全く相手の話を聞いていなかったり(聞いたフリをして自分の話をしようとしてたり・汗)。これが無自覚だったりするから恐ろしいですよね。
後半は、演出家・品川ユキコ(岩井秀人)の指令に従った娘(永井若葉)が、オバチャンたちをリサーチするという枠組みの中、富子(有川マコト)と山本(岩瀬亮)の人生を回想していきます。富子と山本以外の役者さんも、彼女たちの心の声を語ります。
富子の人生。親に搾取されるので長崎(?)の実家を出て、名古屋の工場に行くが、伊勢湾台風で工場が大破。銀座にあこがれて夜行列車で東京へ。電車で偶然会った人の誘いでパン屋に勤めることになり、常連客だった料理人見習いの男と結婚。1度だけ銀座に行ったときに、あまりのまばゆさに感動して、命がけで働くことを決意。夫と中華料理屋を開業し、男の子を生む。しかし忙しい毎日の中で子育てはそっちのけ。夫が脳卒中で死亡したため、店を売って小金井に移るが、息子は出て行ってしまった。
山本の人生。不動産業を営む夫が土地を転がし、家族で湯水のように金を使っていたが、バブルが崩壊したため自分(妻である山本)の母親から金を借りることに。夫は仕事のことを何も話してくれない。自分が必死で母親から借りた300万円も、夫は一瞬で使い果たした。それも「焼け石に水」のようだ。娘は会社員になったが、夜にひとりごとを言い続けるようになる。小学生の頃に度を過ぎる贅沢をさせたせいで、理想と現実のギャップに耐えられなかったのか、精神を病んでしまったのだ。
『グランド・フィナーレ』でも感じたのですが、岩井さんは「子供が、子供らしい時期を過ごすことができないことが、子供の病気の原因だ」と考えていらっしゃるのではないでしょうか。富子の息子は子供時代に親に甘えることができなかったのでしょうし、山本の娘は小学生なのに銀座のクラブで遊んだりしたため、「子供らしい時期」を奪われたのだと思います。
岩井さん演じる劇団の演出家・品川ゆきこの登場シーンが少なかったのは残念。品川ユキオのファンなので(笑)。
岩井さんとは小金井つながりでもある松井周さんの、サンプル『通過』と重なるところがありました。特に装置はそっくりですよね。
≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
出演(舞台下手より):岩井秀人、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、徳永京子(演劇ライター)
ケラさんが積極的にお話されて、とても面白かったです。岩井さんはケラさんの舞台に立つご予定があるそうです。楽しみ!
ケラ「(自分の作劇方法は)散文でリアリスティックに始まるが、最後はポエティックになる。たとえば映画『自転車泥棒』のように。」
≪東京、大阪≫
出演:金子岳憲、永井若葉、坂口辰平、岩井秀人(以上ハイバイ)、有川マコト(絶対王様)、岩瀬亮、斉藤じゅんこ、小熊ヒデジ(てんぷくプロ/KUDAN Project)
脚本・演出:岩井秀人 舞台監督:西廣奏 照明:松本大介(enjin-light) 音響:長谷川ふな蔵 衣装・小道具:mario 記録写真:曳野若菜 記録映像:トリックスターフィルム 宣伝イラスト:岩井秀人 宣伝美術:土谷朋子(citron works) 制作:三好佐智子 坂田厚子 主催:ハイバイ・有限会社quinda 提携:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場(東京)
【休演日】6月9日(火)【発売日】2009/05/02 前売:2,800円 当日:3,300円(整理番号付自由席) 6月5日~8日の回には予約特典あり!
http://hi-bye.net/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
便利な無料メルマガも発行しております。