先々週に続いて、再び静岡の舞台芸術公園に伺いました。ひどい方向音痴の私ですが、静岡に行くのにはだいぶ慣れました~♪ 今回は初の1泊2日観劇旅行で、6/27(土)に4本、6/28(日)に1本の合計5本を鑑賞しました。
『オリヴィエ・ピィのグリム童話』は、2007年3月から仏オデオン座の芸術総監督となったオリヴィエ・ピィさんの翻案・演出作品です。同じセット、同じ俳優による3作連続上演でした。素晴らしかった・・・!
⇒記者発表
⇒CoRich舞台芸術!『オリヴィエ・ピィのグリム童話』
演劇への愛、芸術への愛に満ちていました。何でもできちゃう役者さんたちが、演じて、歌って、楽器を演奏して。アクシデントへの対応も自然そのもので、プロの至芸を見たという気持ち。
童話の登場人物を演じるためか、役者さんのメイクは基本的に白塗り。演じるのは男、女、動物、神、悪魔でも何でもこい。クラウン(ピエロ)の演技手法ってとても大事なんだということが、実感としてわかりました。
アコーディオン、フルート、クラリネット、トランペット、シンバル、ドラム、チューバなど(楽器名は間違ってるかも)の演奏と、美しい詩のような歌が挟まれる音楽劇ですが、いわゆる“音楽劇”“ミュージカル”というイメージはゼロ。何が違うのかを一緒に観た人と話し合ったところ、BGMも効果音もすべて楽器や声の生音で表現しているため、演技と歌(&音楽)のシーンの境がないのではないかという結論にいたりました。そういえば音楽、歌、セリフが、役者さんの演技のおかげで調和していたように思います。「これから歌が始まるゾ!」という間(ま)も、演技でつながっているんですよね。
舞台美術は3作品とも共通でした。丸い電球が等間隔に付いている壁と、舞台全体の色を変える赤と青のスクリーン、そして2階立て(といっても2階は屋根のみ)の小屋がメインの装置です。小屋は2つに分裂する箱でできており、壁が開いたり、窓・ドアが開いたり、シンプルな動きですがクルクルとすばやく場面を展開していきます。
ヒロイン(娘・王妃など)を演じる女優さんがあまりに素晴らしくて、彼女を観るだけで幸せな気持ちになりました。『いのちの水』では死期の近い老王役を演じられており、変幻自在とはこのことだと思いました。楽器はフルート。けっこうなお年なんじゃないかな~と思うのですが、もーほんっとに可愛いんです!!
ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。
■少女と悪魔と風車小屋(65分。6/27(土)13:00開演)
≪あらすじ≫ 当日パンフレットより。
風車小屋に住む粉屋が森で見知らぬ男に出会い、「三年後に風車の裏にあるものをくれるなら金持ちにしてやろう」といわれる。粉屋は男の提案を受け入れ、瞬く間に金持ちになる。だが約束の日、風車小屋の裏にいたのは、粉屋の一人娘だった。男は悪魔だったのだ。悪魔は粉屋に命じて娘の腕を切り落とさせる。娘は悲しみのあまり放浪の旅に出ていく…。
≪ここまで≫
父親にも悪魔にも見捨てられた娘は、「ずっと家にいればいい」という父親の言うことは聞かず、娘は自ら旅に出ます。森で出会った天使の導きのとおりにしていたら、王に出会って結婚。戦争に行った王との往復書簡を悪魔に邪魔されて、生まれたばかりの子供を殺されかけますが、庭師の計らいで逃亡に成功。
王が戦争を好きになったのだと勘違いして、庭師がささやいたセリフで泣けました。
庭師「王に、花を名前を(あんなに沢山)教えたのは無駄だったのか。」
庭師の牛乳瓶の底のような厚いメガネが可笑しい(笑)。庭師役の俳優さんは、『いのちの水』で優しい三男役。
赤色メイクの悪魔がかわい~♪悪魔役の男優さんは、『いのちの水』では長男、『本物のフィアンセ』では王の部下役を演じてらっしゃいました。
天使役はアコーディオンを弾く女優さん。「最後の王様の言葉にこの物語のすべてがある」という意味のセリフがありました。王様が叫んだのは「私は驚くばかりだよ!」だったかな。人生は人間の予想どおりにはいかず、神秘的なことばかり起こるもの、驚きの連続なのだと受け取りました。王妃の銀の手が生身の手に変わることだってあるんですよね。
■いのちの水(75分。6/27(土)18:00開演)
≪あらすじ≫ 当日パンフレットより。
死にゆく王の枕元に、三人の息子が集められた。王が助かる道はただ一つ、永の宮殿にある「いのちの水」を飲むこと。まずは長男が、次に次男が「いのちの水」を求めて旅立つが、途中で出会った物乞いが天使であることに気づかず、動物の姿に変えられてしまう。そしてついに最後に残った末っ子が氷の宮殿へと旅立つ…。
≪ここまで≫
三男は氷の宮殿で運命の女性と出会って恋に落ち、結婚の約束をします。女からもらった「いのちの水」を父に届ける途中で色んな国を救いますが、長男と次男の策略にかかり、父を殺そうとした罪で死刑を宣告されます。でも庭師の計らいで逃亡に成功。三男が助けた国から贈り物が届いたことで、父は自分が誤解していたことを知り、後悔します。
父王が瀕死状態の時、長男の指示でひつぎが作られています。木に釘を打つ「コーン、コーン」という音は、時計の針がチクタクと鳴る音に聞こえて、それは時間が経つ音、つまり死の足音を示しています。三男が「ひつぎを作るのは止めて、音楽を演奏させよう」と提案し、音楽のおかげで父は息を吹き返します。
「時計のチクタクの音を、メトロノームの音に変える」というセリフがあったと思います。最後は音楽の演奏で大団円のハッピーエンド。音楽こそ至上の喜び、命。No music, no lifeですね。
ライオンが美味しいパンを食べて改心するのは、食の喜びを表しているんだろうな~とか。
つばを吐く、水を吹くなど、荒々しい演出もあり(笑)。口から物を出すことに大きな意味があるんでしょうね。かなりお行儀が悪いのでしょうし、それを面白がっている節もあり。
神様が三男に楽器(トランペット?)を渡そうとして、小屋の2階の床にガタン!と落としてしまうトラブルがありました。三男役の男優さんが即座に「わはははは!」と大声で笑い、常に無表情の神様役の女優さんも、ニヤリと笑ってらっしゃいました。アドリブというのか何というのか、舞台で役柄としても自分自身としても、無理なく存在されているからこそできる対応だと思います。
■本物のフィアンセ(約90分。6/28(日)13:00開演)
≪あらすじ≫ 当日パンフレットより。
娘は継母に毎日無理難題を押しつけられていた。森に逃れた娘は王子と出会い、恋に落ちた王子は再会を約束して森を去る。だが、継母が王子に「忘却の水」を飲ませたために、王子は娘を忘れ、人形に恋をしてしまう。娘は牢獄に囚われ、やはり囚われの身となっていた俳優たちとともに、王子の記憶を取り戻すための舞台を準備する…。
≪ここまで≫
本物を忘れ、偽物にまどわされ、自分自身のことも忘れてしまう王様。王のセリフ→「私に名前はいらない。私は王だ!」。
「本物を見極めろ!」「自分の気持ちに従え!」というメッセージをもらったように思いました。最近観た『ハルメリ』を思い出したりも。
『少女と悪魔と風車小屋』のパロディを面白おかしく見せて、「芸術は選ばれた人だけに与えられるものではない」「芸術は国家権力の下にあるものじゃない」「国のために演劇を作るなんて願い下げ!」という強い主張もあり。あぁ、この演出家は戦っているんだなと思い、笑いながらも涙が出てきました。
一番感動したのはこの会話。劇中劇を通じて王様はやっと本物に気づきます。
王「芝居をやめるのが怖い。」
本物のフィアンセ「やめずに続ければいい。芝居は真実よ!」
日本語のセリフがたくさん。この公演のために覚えてくださったんですね。
「思い出して!」「あなたのことよ!(←ここは仏語)It's you!」
「オデオン座で芝居ができるなんて思ってなかった!」というセリフの“オデオン座”を“日本(japon)”に変えていたり。
ハプニングへの対処がものすごく自然で優雅です。部下役の役者さんの胸についていた(のであろう)小さなひまわりの花が、小屋の上から床にポトリと落ちたところで、舞台上の役者さんがそれを無視せずにきちんと反応し、アイコンタクトまでしていました。後から違う役者さんがひまわりを拾ってはけて、最後に近い大団円のシーンで、部下役の人は胸にひまわりを付けて登場。庭師の役者さんが胸のひまわりを指差して笑い、「胸に戻って良かったね」という演技をされていました。
鳥に歌を教える庭師と王の部下の2人による、“鳥の鳴き声の歌”(タイトル不明)が素晴らしかったです。庭師が歌い続けるのに合わせて、部下は5種類ほどの小さな笛(?)を吹き続けます。吹く技術も凄いですが、表情やたたずまいの冷静さが笑いを誘います。あまりに長い間ずっと歌って演奏しているので、超~盛り上がりました。
この作品でもっとも強烈な印象を残したのは、継母役と劇団団長役の2役を演じた男優さん。継母は恐ろしい鬼のようで、団長は悪代官のようで(笑)。どちらも大迫力でした。
『いのちの水』と同様に音楽で終幕。スタンディング・オベーションにブラボーの掛け声も続出。拍手が鳴り止まず、何度もカーテンコール。
演劇/フランス Grimm's Fairy Tales "The Girl Without Hands" "The Water of Life" "The True Bride"
出演:パリ・オデオン座 (セリーヌ・シェエンヌ/サミュエル・シュラン/シルヴィー・マガン/トマ・マタルー/アントワーヌ・フィリッポ/バンジャマン・リテール)
原作:グリム兄弟 翻案・演出:オリヴィエ・ピィ 装置・衣裳デザイン・メイク:ピエール=アンドレ・ヴェイツ 照明デザイン:オリヴィエ・ピィ、ベルトラン・キリー 作曲:ステファヌ・リーチ 技術監督:フロラン・ガリエ 舞台:ダヴィッド・オルショウスキー 照明:ジョゼ・ミュリエダス 衣裳:ジュリエンヌ・ポール ツアーマネージャー:アンヌ・ロジョー 字幕翻訳:西尾祥子 通訳:宮脇永吏 製作:パリ・オデオン座、オルレアン=ロワレ=サントル国立演劇センター、シャロン=アン=シャンパーニュ国立舞台「ラ・コメット」 協賛:エールフランス、キュルチュールフランス、フランス大使館 協力:東京日仏学院
【発売日】2009/05/06[一般大人]4,000円 [同伴チケット(2枚)]7,000円[学割]大学生・専門学校生 2,000円/高校生以下 1,000円 ☆お得な週末劇場ハシゴ券あり☆
http://www.spac.or.jp/09_spring/grimm
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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