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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2009年07月05日

ロハ下ル『セインツ・オブ・練馬』07/01-05赤坂RED/THEATER

 元スロウライダーの山中隆次郎さんの新ユニットが始動。ロハ下ルは「ろはくだる」と読みます。初日に伺いました。

 舞台は戦後間も無い日本ですが、セリフは今どきの口語です。嘘にすがり、嘘に飲み込まれていく人々の滑稽さを描いた群象劇、かしらと。達者な若い役者さんの個性を生かした緻密な演技を、目を凝らして耳を澄まして、つぶさに楽しみました。

 ⇒CoRich舞台芸術!『セインツ・オブ・練馬

 ≪あらすじ≫ 
 財産があることを周囲の人々から嫉妬され、村八分になっている長尾家。もののけが憑いているという噂もたてられている。長男の贄蜜(にえみつ:町田水城)は父親に忌むべき者として育てられ、幼い頃からずっとひどいいじめに遭っており、今もひどい暴力を受けている。対してその妹・郁子(伊東沙保)は、父親から「お前は選ばれた人間だ」と溺愛されていた。父親は亡くなり、母親は病床にある。
 郁子に病気を治す超能力があることがわかり、兄妹は治療院を開業する。“神人(じんにん)”と呼ばれるようになった郁子の能力を検証したいと、東京から大学教授(古河耕史)が訪れ、透視実験がはじまる。
 ≪ここまで≫

 装置と音楽は少々おどろおどろしい空気。なのに冒頭から流行語も散りばめられた現代口語が語られ、密度の高い空気がプシュ~っとふぬけていくような感覚(笑)。役者さんの演技も“敢えて”仰々しく、戯画的に、または力を抜いたりと、緻密に作りこまれているよう。
 古河さん演じる福浦を“大学教授をかたる詐欺師”だと思い込むなどの誤読もしていましたが(本当の大学教授でした)、狙いにハマって、細かいところで何度もクスクスと笑わせていただきました。お隣の方にご迷惑だったのではないかと思うほど(笑)。
 
 お話全体としては、最初に期待したものとは違う方向に進んだことが意外であり、少しあっけにとられたりも。まあこれも私の誤読のせいかもしれません。

 郁子(伊東沙保)と新聞記者(遠藤留奈)の女の対決がスリリング。強者と弱者の立場がどんどん入れ替わります。遠藤さんの、今までに観たことのない演技に見とれました。

 ここからネタバレします。

 “神人(じんにん)”の研究結果を世間に発表して、下降気味の名声を再び上昇させることを狙う東大教授(古河耕史)の指揮のもと、郁子の超能力実験が行われます。兄の贄蜜が呼びよせた京大教授(梅里アーツ)や新聞記者のせいで、実験のずさんさが明るみに出てしまいます。
 主人公の長尾郁子は実在の人物なんですね(⇒千里眼事件)。恥ずかしながら全く知らなかったので、時代背景などは気にならずに楽しめました。ここは好みが分かれるかもしれませんね。

 郁子は「本物の超能力者がニセモノの神人の存在を消そう(殺そう)としている」という新聞記者の言葉におびえます。白衣を着て実験の助手をしていた、この物語の語り部でもある小松(シトミマモル)がその殺し屋でした。小松の検査機具で郁子が神人でないことが簡単にわかってしまうのが、あっけなくて、間抜けで、ちょっと残酷。

 自称助手(山縣太一)のギラギラした存在感は、病床の母親にとりいる野生の勘の良さも見事に表現。無様な実験結果が報道されて神人でなくなった郁子を“ご利益の在る売春婦”にしたてあげ、長尾家に居つきます。助手の次にホスト、そして女衒&ポン引きになったということかしら。恐ろしい。

 こうやって考えると、登場しない母親の存在をもっと強く感じたかったですね。結局、贄蜜も郁子も父親の呪縛から逃れられなかったわけで。贄蜜は奴隷気質のまま。郁子は小松が残した毒入りまんじゅうを食べて唖者になっても、預言者という特別な人間でい続けたかったようだし。特に郁子は、母親への憎悪(母親はおそらく父親に溺愛されていた郁子に嫉妬していた)がバネになっていたんじゃないかと想像します。

出演:伊東沙保/町田水城(はえぎわ)/古河耕史/山縣太一(チェルフィッチュ)/シトミマモル/梅里アーツ/遠藤留奈/數間優一/石澤彩美/芦原健介/岡村泰子(きこり文庫)/田中慎一郎
脚本・演出:山中隆次郎 舞台美術/田中敏恵 照明/伊藤孝(ART CORE design) 照明操作/三浦詩織 音響/中村嘉宏 音響操作/平井隆史 音楽/山野井譲・佐藤こうじ(SugarSound) 舞台監督/西廣奏 演出肋手/田中慎一郎 宣伝美術/上田大樹(&FICTION!) Web運営/栗栖義臣 記録・映像/トリックスターフィルム グッズ製作/YogurtWear 票券/スギヤマヨウ(制作集団QuarterNote) 制作協力/斎藤努(ゴーチ・ブラザーズ) 当日運営:塩路牧子 提携:赤坂RED/THEATER 企画・製作/ロハ下ル
【発売日】2009/06/06 割引料金:3500円/前売料金:3800円/当日料金:4000円
http://www.lohakudaru.net

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年07月05日 14:08 | TrackBack (0)