松本修さんが構成・演出されるMODE、初見です。個人的に「MODEはオトナに観てもらいたい。MODEはコドモには観てもらいたくない。」というキャッチコピーが苦手で・・・。
フランスの男女2人芝居で泉陽二さんが出演されるので、勇気を出して伺ってみたところ、シックな具象舞台での正統派ストレート・プレイでした。面白かったです。上演時間は約2時間弱。
⇒CoRich舞台芸術!『お前は誰にも似ていない』
≪あらすじ≫ 劇場サイトより
男は記録する
関係を持った女の名前、年齢、体重、髪の毛……。
昨夜の女は134人目だった。
その朝、
見知らぬ女がトランクひとつで訪ねてくる。
男は女を追い出そうとするが、女は部屋に居座り続ける。
女は男の留守にそのファイルを盗み読む。
女はファイルに記録されているのか?
これから記録されるのか?
≪ここまで≫
少々ネタバレします。読んでから観に行っても問題ないかと思います。
白いしっくい(っぽい)の壁にこげ茶色のクラシックな家具がそろった、清潔感のあるおしゃれな部屋。パリで1人暮らしをしている男(泉陽二)は、法律関係の仕事をする独身のイケメンです。毎晩のように女をとっかえひっかえして寝るプレイボーイなので、突然自分の部屋に居座りはじめた若い女(山田美佳)を追い出そうと躍起になります。
でも、女は何を言われても動じずひょうひょうとしている、底抜けにあつかましいタイプ。言ってることが本当なのか嘘なのか、本気なのか騙すつもりなのかもわかりません。困った女に手を焼いている内に、男は女に惹かれ始めます。
男女の恋愛はもちろん、結果的には人間の劇的な変化を描いた戯曲だったように思います。そこがとても好き。1時間半ほど経ったころ、男を手玉にとっていた(ように見える)女の心が、男のせいで揺れ動き始めます。ここでぐっと面白くなりました。やはり2人芝居はパワーバランスが激変するのがたまらない♪
ただ、それまでの女優さんの演技が私には退屈で、ほかの女優さんだったらどうなってただろうな~と想像したまま、1時間半経ってしまいました。終盤は引き込まれたんですけどね。演技の種類が私の好みじゃなかっただけだと思います。男は、怒ったり、きどったり、冷静を装ったり、あからさまにあたふたしたり、別人のように変化するのがいいですね。2人とももっともっと、とっちらかるほどに変化する方が私好みですが。
衣裳が素敵。スーツに帽子姿の男もいいけど、女のドレスもシンプルでいい。ハイヒールがかっこいい。
初日に伺ったのですが、空調が寒すぎました。あと、わかってはいたものの階段席なのもちょっとつらかったです。でもわざわざ装置の床を高く設営してくださっていたのは、とても見やすかったです。そうなると劇場がザムザ阿佐ヶ谷である必要性があまりないとも言えるのですが・・・。
fringe blogに書かれていることが何度か頭をよぎりました。うっとりとして刺激ももらえるような、大人向けのシックな男女2人芝居なので、こういう作品こそおしゃれな場所で、ゆったり楽しみたいですね。そして観た後はバーにでも飲みに行きたいです(笑)。
ここからネタバレします。
女が大阪弁を話すのは、男にとって異邦人であるという意味かしら。特に不快ではなかったですが、できれば同じ標準語(方言)で味わいたかったかも。
男は早朝に女と初めて出会い、会社に遅刻させられ、夕方帰ってきたら、また合コンに遅刻させられ、その夜はずっと彼女のことばかり考えていました。人間は誰かのために何かをすると、その誰かのことを好きなのだと、脳が勘違いするらしいです(最近読んだ本に書いてありました)。納得。
男は女にぞっこんになり、彼女をそばに置いておくために(彼女を部屋に閉じ込める状態で)、事務所もやめて仕事もやめてしまいます。女の気まぐれな言葉に翻弄された愚かな男の話・・・というところで終わるなら普通ですが、そうはいかなかったのがとても面白かったです。
女は「早く帰ってきてほしい」などと言ったものの、このままずっと男が家に居つづけるのにはうんざりで、「やっぱり出て行く」と言いはじめます。なんと、そこで男の方が着の身着のまま出て行くのです。「必ず会いに来るから」と言い捨てて。女は部屋に残り、かなり居心地が悪そうに、いわば呆然として、終幕。
“仕事をしない”という決断って、先のこと(つまりお金のこと)を考えると絶対に出来ないですよね。でも彼はそれをやり遂げたわけで。その激変振りに人間の可能性、豊かさを感じます。今度は女がドキドキ不安になりつつ男を待つのかしら。それも素敵。
タイトル「お前は誰にも似ていない」はイヴ・モンタンの曲名だそうです。
【出演】山田美佳 泉陽二
【原作】ジャン=クロード・カリエール『恋のメモランダム』 【構成・演出】松本修 【美術】伊藤雅子 【照明】大野道乃 【音響】徳久礼子(ステージ・オフィス) 【舞台監督】大川裕 【企画・製作】MODE 【宣伝美術】山内哲也(SOUP) 【協力】にしすがも創造舎 【制作協力】ぷれいす
一般:3,500円、学生:2,500円(全自由席・整理番号付き) ※学生はぷれいすのみ取り扱い <前売り開始> 2009年6月5日(金)
http://www.laputa-jp.com/zdata/data/samsa/090706.html
http://www.place-net.co.jp/info/index.html#005
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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