登米裕一さんが脚本・演出するプロデュース団体キリンバズウカの、東京移転後2作目です。登米さんは映画の脚本も手がけるシナリオ・ライターで(映画には出演も)、王子小劇場の職員でもいらっしゃいます。
王子小劇場周辺で目立った活躍をしている人気役者さんを揃えたストレート・プレイでした。上演時間は約1時間45分。
空調が寒すぎて集中できなくなることもありました。私が寒がりなだけかもしれませんが、できれば上演中に何度か室温をチェックしていただきたいですね。
⇒CoRich舞台芸術!『スメル』
≪あらすじ≫
東京都永住禁止条令が発令された。定職につかず納税もしていない者は他府県の郷里に帰らなければならない。だが法には抜け道があった。ボランティアで公に役に立つ仕事をしていれば、その期間は東京滞在の猶予が与えられるのだ。とある若者たちがありついた仕事は、地域でも有名なゴミ屋敷の掃除。家の主は一人暮らしのおばさん(稲川実代子)。ボランティアの若者たちが集まった週末に、十数年ぶりにおばさんの娘(黒岩三佳)が突然帰ってきた。
≪ここまで≫
役に立っていないという理由で必要とされず、追い出されようとしている人々。追い詰められたら人間、何にでもしがみつこうとするものですよね。ただ生きているだけでは肩身が狭い、申し訳ないと思ってしまう感覚は、同じく東京で暮らす者としてよくわかります。
役者さんの個性に立脚した演出で、シュールな笑いを交えつつ、重たいテーマをあえて軽やかに描いているように思いました。サラっとうわすべりしているように感じ、あまり入り込めず。
私はゴミがなかなか捨てられないタイプでして(汗)、必要・不必要の判断について色々考えながら帰りました。
ここからネタバレします。
母親(稲川実代子)は祖母(自分の母親)の介護がしたかったから、離婚の時に小学生だった(かな?)娘(黒岩三佳)を捨てたということになっていました。娘は父親にひきとられて2人で暮してきましたが、2年前に父親が他界。自分も難病に冒され余命いくばくかになったことがわかり、田舎に療養しにいく前に母親に挨拶をしにきたのでした。母親は祖母に必要とされることが嬉しくて介護をしてきましたが、祖母が亡くなってからゴミを家に溜めるようになったのです。
母親がカセットテープに録音した娘へのメッセージで「私は謝らない。だって謝ると母(祖母)を否定することになるから」という意味のことを言っていたと思います。謝っても祖母を否定することにはならないんじゃないかな~。最後にのりの缶から出てくる手紙では謝ってましたけどね。2人が謝るということに執着する気持ちがよくわからなかったです。
必要じゃないというより、むしろ邪魔で、ない方が良くて、できればなかったことにしたいモノが「ゴミ」として象徴され、じゃあ役に立たない人間もゴミなんじゃないか、人間とゴミとはどんな違いがあるのか、と考えさせられます。
ゴミ屋敷に産業廃棄物を置き捨てに来る若者もいて、それに触れると匂いを嗅ぐだけでも鼻血が出るようになってしまいます。かなり毒性の強いゴミなんですね。不法投棄の恐怖。全部自分に還って来るんだよなーと思ったエンディングでした。
出演:稲川実代子 黒岩三佳(あひるなんちゃら) 永山智啓(elePHANTMoon) 折原アキラ 浦井大輔(コマツ企画) 深谷由梨香(柿喰う客) 永島敬三 河西裕介(国分寺大人倶楽部) 遠藤友香理(カムヰヤッセン) 花戸祐介 細野今日子(劇団競泳水着)
脚本・演出:登米裕一 舞台美術:稲田美智子 音響:天野高志 照明:吉村愛子(Fantasista?ish.) 衣裳:飯田裕幸 演出助手:入倉麻美 北川大輔(カムヰヤッセン) 佐賀モトキ 舞台監督:佐藤恵 宣伝美術:立花和政 制作:塩田友克(クロムモリブデン) 赤羽ひろみ プロデューサー:福岡祐美子
【発売日】2009/05/30 前売り 2800円/当日3000円◎早期割引 7/4(土)19:30、7/5(日)15:00/19:30の回は前売り¥2,500/当日¥2,800
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