内野聖陽さんと伊藤歩さんの2人芝居は、デヴィッド・ハロワーによる2007年度ローレンス・オリビエ賞最優秀作品賞受賞作。演出は栗山民也さんです。ハロワー作品は一度観たことがあります。
男女2人だけの密室劇。ラストは・・・少々ショックでしたが納得で、面白かったです。上演時間は約2時間弱。
⇒『内野聖陽が当惑する英国産「どうだみたか演劇」とは?』(by 岩城京子)
⇒CoRich舞台芸術!『ブラックバード』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
15年前に未成年者に対する行き過ぎた行為で有罪判決を受け、名前も住む場所も変えて人生をやり直した男レイ(内野聖陽)の元へ、ある日突然、一人の女が現れる。それは、その事件の被害者で、ずっと同じ町に暮らし、周囲から好奇の目でみられながら生きてきたウーナ(伊藤歩)だった。
来訪の目的がわからず怯えるレイに、ウーナはこの15年間について、そして当時の‘こと’について話し始める。やがて明らかになるふたりの本当の関係と、意外な真実とは・・・
≪ここまで≫
つるっとした灰色の壁に囲まれた事務室(従業員の休憩室?)。必要最低限の安っぽい事務用品しか置いていない部屋を、長細い蛍光灯の明かりがぎらぎらと照らします。雑なつくりでぬくもりがないのが一目瞭然。でもイスの色がカラフルなので、ちょっとおしゃれ。都会的でシャープな質感がドイツ演劇っぽいです。
突然の“被害者”の来訪におびえるレイ。最初はけん制しあう2人ですが、ウーナがどうしても知りたかったあの日のこと、つまり2人を引き離した事件について語り、レイがそれに応える形で彼自身に起きたことを語ります。徐々に2人の心と体の距離は縮まり・・・。
交わされるのは、なんてことのない、短くて簡単な言葉のようなのですが、声の大きさや間(ま)など、緻密に計算された演技で、言葉の裏にあるものを豊かに想像させてくれます。長い、長いセリフを1人で話すシーンもあり、役者さんにとってはかなりハードルの高い戯曲なんじゃないでしょうか。観る方は面白いんですけど(笑)。
最初は、ウーナの攻撃に対してレイは防御をするばかりという構図でしたが、次第にクルクルと立場が入れ替わっていきます。最後は衝撃的。謎が解けたというか、皮が剥がれたというか・・・。
できれば笑えるところがもうちょっと増えてもいいんじゃないかと思いました。テーマがテーマなので、観客も硬くならざるを得ないのかもしれませんが。体を大きく動かしたりするところは、それだけでも可笑しかったので。
伊藤歩さんの衣裳が素敵でした。長い髪を頭の高い部分でくくって、きりっとした表情。鮮やかなオレンジ色の半袖シャツは、高い襟がシャープなデザインになっていますが、小さいちょうちん袖で女らしい甘い印象を付加しています。黒いミニのタイトスカートから、ものすごく細い足がすらーーーっと伸びていて、最初はセクシーだと思ったのですが、徐々に子供のような足にも見えてきたんです。衣裳の妙ですね!
内野聖陽さんは白いシャツに薄いピンクのネクタイ、灰色のスラックス。白髪交じりの情けないおじさん風。シャツが濡れることや汚れがつくことも、メタファになっている気がします。
ここからネタバレします。 これからご覧になる方は絶対読まないで下さいね!
近所同士だったレイとウーナは恋に落ち、40歳と12歳という年齢差がありながら、肉体関係を持ってしまいます。ホテルでの逢瀬の後、たばこを買いに外出したレイと、彼を探しに出たウーナは出会うことができず、2人の関係はそれで最後となってしまいました。レイはウーナを誘拐してレイプした罪で刑務所に6年間入ることになり、ウーナは両親の教育方針で(?)、引っ越したり名前を変えたりすることなく、同じ町で暮らし、つらい青春時代を生きてきました。
ウーナが確かめたかったのは、なぜ彼が彼女を捨てたのかということ。それに対してレイは、彼が彼女を朝まで探したこと、電話ボックスで警察に自首する電話した時に、ウーナを失うことがつらくてずっと泣いていたことを告白します。裁判では言えなかった、そして獄中からの手紙でも伝わらなかったこと(ウーナは手紙を受け取っていないので)を、2人は初めて知ることができたのです。
2人は抱き合い、再び体を重ねようとしますが、レイは思いとどまります。ウーナが激しく求めても、彼は「できない」と必死で拒否するのです。そこに「ピーター!」という女の声が聞こえてきます。55歳になったレイは、1つ年上の女性と暮らしていると言っていましたが、夜遅くなって彼を迎えに来たのは小学生ぐらいの可愛らしい少女でした・・・!しかも少女は「ピーター!一緒にいたいの!」と、レイにぞっこんの様子。ウーナの表情がひきつります。ソファ(だったかな)で、もだえ叫ぶ伊藤さんが凄かった。
「(このままじゃ)帰さないわよ」としがみつくウーナの手を引き離し、レイは外に逃げます。そしてウーナが「レイ!」と彼の本名を叫び、部屋から出て彼を追いかけて・・・終幕。そうなんですよね、ピーターじゃなくてレイなんです。その真実がとうとう明るみに出るのでしょう。
停電になるシーンがとっても素敵。レイが「動かないで、ここで待ってて。1分で戻るから」と言うのは、まさにあのホテルの夜と同じ。真っ暗闇で1人で心細くなったウーナは、一度は外に出て彼を追いかけようとしますが、気を取り直して、凛として部屋に戻ります。大人に、なったんですね。
彼女が83人もの男性と関係を持ったというのは、悲しいし息苦しいことですよね。親に対する復讐、か。
ピーターという偽名は・・・なんだか牧歌的でイラっとしちゃいますよっ(「アルプスの少女ハイジ」に影響されすぎ・笑)。ウーナという名前は、最後の最後に1度しか出てこなかった気がします(気のせいかも)。それが良かった。“少女なら誰でもよかった”という意味なのだろうと想像しました。
あ、レイが「彼女は」「彼女のことは」等、何度も言っていた「彼女」って、奥さんじゃなくて、あの少女の方のこと!?
≪東京、富山、愛知、福岡、大阪≫ David Harrower's "BLACK BIRD"
【出演】レイ:内野聖陽 ウーナ:伊藤歩 少女:黒沢ともよ
作:デヴィッド・ハロワー 翻訳:小田島恒志 演出:栗山民也 美術:島次郎 照明:勝柴次朗 音響:山本浩一 衣裳:宇野善子 ヘアメイク:佐藤裕子 演出助手;豊田めぐみ 舞台監督:三上司
【発売日】2009/04/18 S席9,000円/A席6,300円
http://www.horipro.co.jp/ticket/kouen.cgi?Detail=126
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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