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しのぶの演劇レビュー
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2009年08月19日

【演劇教育】渡辺源四郎商店・中学生演劇体験ワークショップ『ココロとカラダで考える差別といじめ-7日で作る「河童」-(ワークショップ)』08/16-22アトリエ・グリーンパーク

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「河童」中学生WS

 青森を拠点に活動する渡辺源四郎商店の中学生向けワークショップに伺いました。2008年に高校演劇日本一となった『河童』を、中学生が7日間で作ります(去年の演目は『修学旅行』でした。⇒劇評)。

 「ココロとカラダで考える差別といじめ」と題されているように、演劇の稽古と本番の体験を通じて中学生が差別といじめについて考えるという、“演劇教育”の側面が大いにクローズアップされた企画です。

 3回の発表公演を含めての7日間ですので、実質稽古時間は配役オーディションも含めてたったの4日半!ワークショップ初日と2日目の午前中を見学させていただきました。
 
 ⇒CoRich舞台芸術!『ココロとカラダで考える差別といじめ-7日で作る「河童」-

 今回の参加中学生は合計17名。作・演出の畑澤聖悟さんをはじめ渡辺源四郎商店の新人劇団員、演劇部の高校生、演劇部を卒業した大学生らもスタッフとして参加しているので、アトリエ・グリーンパーク(↓写真)は早朝から大勢の若者でにぎわいます。
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畑澤聖悟さん

 畑澤「これは本番をやることにこだわったワークショップです。最後に公演をやることが大事。みんなで1つのことを、すごく緊張して、やり遂げることに意味があると思っています。
 『河童』は、ある日突然河童になってしまった女子高生を描いた、ハッピーエンドとはいえない話。公演DVDを見てもらってわかったと思うけれど、差別といじめの話です。人が存在し続ける限り差別といじめはあり続けるかもしれないけれど、いつの日かなくなるんじゃないかという祈りが込められています。」

 まずはリラックスするための準備運動と、コミュニケーションを潤滑にする簡単なゲームからワークショップ開始。2人1組になって会話をするワークショップでは、徐々に2人の距離を広げていくので、だんだんと声が大きくなっていきます。

 畑澤「舞台の上では人に伝わる声を出してほしい。ただ大きな声を出すとか発声練習とかには意味がない。一生懸命伝えようとしてください。そうすれば自然と大きな声が出る。わかってもらえるように、伝わるように努力してください。」
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 体と気持ちがほぐれたところで、宿題に出されていたスピーチの時間になりました。1人ずつ舞台中央に立って、差別といじめについて1分間以上のスピーチをするのです。子供たちは自主的に手を挙げた順に舞台に出て、飾らない自分の言葉で、堂々と語ってくれました。いじめられたことのある人、いじめたことのある人、いじめられたこともいじめたことも両方ある人、両方とも経験はないけれど、いじめの現場を目撃したことがある人。別々の立場にいる人が、それぞれに自由に気持ちを述べられる場になっていました。

 「自分が死んでも悲しむ人はいないと思った。でも助けてくれる人がいた。味方になってくれる人もいた。誰かに言えば(いじめのことを相談すれば)、少しずつでもいじめはなくなっていくと思う。」
 「たとえいじめられても、自分の心に従えば何でもできる。自分の意志があれば、ちゃんとした生活がおくれる。」

 実体験をもとに赤裸々に語られた言葉は、悲鳴であり、深い考察であり、そして励ましでした。中には、最初は言うつもりはなかったけれど、みんなの告白・意見を聞いて話す気になった子もいました。ヒステリックに不満をぶちまけたり、意見を押し付けたりすることは全くなく、全員が自身の経験談を踏まえた上で、しっかりと意見を述べてスピーチを締めくくっていたことに驚きました。

 畑澤「・・・正直、困ってます(苦笑)。これじゃ芝居をやるより、今のスピーチをお客様の前でやった方が説得力がある(笑)。あなたたちは痛みを知っている人たちだと思いました。観た人に、痛みを伝えられる人たちだ。いい芝居になると思います。日本中でこの芝居を一番リアルに見せられるのはあなたたちかもしれない。あなたたちに恥ずかしくない、いいお芝居にしたいと思います。」

 スピーチの後にお昼休みをはさんで、さっそく配役オーディションが始まりました。まずは冒頭の群読シーンを、役を変えながら数回繰り返しました。その後、メインキャストが出ている主なシーンを希望者が演じていきます。自分からやりたい役に手を挙げる積極性が素晴らしい!河童になってしまったヒメノ、委員長のカイ、いじめられっこのミナミはやはり大人気です。
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 演技の後に畑澤さんとの個人面接(役の希望などを聞く)を経て、スタッフによる配役会議の後にキャストが発表されました。午後のほんの数時間でここまで進むなんて・・・恐ろしいほどの猛スピードです。
 希望の役になれなかったり、予想外にセリフの多い役に抜擢されたり、中学生たちはそれぞれに喜びや戸惑いを感じていた様子でしたが、さっそく脚本12ページ分の宿題が出ました。夜はセリフ覚えに没頭するしかなかったことでしょう。

 2日目は本番用にイスを並べて、幕開けの群読シーンの特訓から始まりました。
 畑澤「この群読で言っていることは、実は君たちの昨日のスピーチと同じ内容です。無限の彼方の全世界に向けて、魂の叫びを届けてください。あなたたちがそれを言っているだけでグッとくるから。」
 畑澤「これは団体戦。このシーンが一番難しいんです。だから細かくやるからね。」
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 畑澤さんは笑い話をまじえて、大いに子供たちを褒めながら、同時に彼らを傷つけないように慎重に話していきます。
 畑澤「皆さん姿勢がいいですね。」「君は面白いな~(笑)!」
 畑澤「言いたくないことは言わなくていいから。」「これが出来なくても落ち込む必要は全然ないです。」「プロンプターはセリフの間違いを指摘したり、セリフが出てこなくなった時にヒントをくれる人。決して人格否定するわけじゃないからね。」

 お手伝いの高校生・大学生の中には、高校演劇日本一になった『河童』の出演者がいます。中学生はDVDで観ていた先輩たちの実物に会って、少々興奮気味(笑)。自分がこれから演じる役を演じていた先輩が、マンツーマンで直接指導してくれます。
 去年の『修学旅行』と同様に、中学生の発表公演と並行して大人が出演する『河童』も上演されますから、自分を指導してくれている先輩が出演する『河童』を観て、次の自分の公演に備えることができるんですね。

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「河童」ポスター

 出会ったばかりの人たちと協力し、話し合いで問題解決しながら最後に発表会を体験するという形式は、他の演劇のワークショップと同じです。でもこの企画は、自分を指導してくれる大人が、自分たちと同じ作品に出演するのを観られます。大人がつきっきりで支えてくれて、さらに同じ土俵で勝負してくれるんですから、子供にとってこんなに嬉しいことはないでしょう。そして発表会が1回だけではなく3回もあるのです。一発勝負ではなく複数回チャレンジできる環境は、子供たちの将来に少なくない影響を与える気がします。

 私はマチネの中学生版とソワレの大人版を、それぞれ3回続けて観劇します。アトリエ・グリーンパークにべったり密着して、このワークショップおよび発表公演で何が起こるのかを確かめたいと思います。

参加資格:アトリエ・グリーンパークでの稽古と本番に参加できる中学生 参加費用:無料
【脚本・演出】畑澤聖悟 【記録】工藤千夏 【プロンプター】太田媛乃 ほか
http://xbb.jp/wgs/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年08月19日 12:50 | TrackBack (0)