アイサツは尾倉ケントさんが作・演出(出演も)される個人ユニットです。私は初見。タイトル通り、シェイクスピアの有名な戯曲数作をコラージュした作品でした。上演時間は約1時間40分。
尾倉さんは2006年からポツドールの演出助手をされており、ポツドール公演その他に出演されているのを何度か拝見していましたが、まだ24歳とお若いんですね。
⇒CoRich舞台芸術!『ロミオとハムレットの夢物語』
普段着に近い衣裳の若い役者さんたちが、「ロミオとジュリエット」「ハムレット」「真夏の夜の夢」「冬物語」の断片を上演していきます。若者らしい現代口語でシュール&コミカルに見せたり、客席に向かって長いセリフをしっかり語ったり。ちょっとしたメタ構造になるのも面白いです。
戯曲に共通する設定を利用して別々の物語をつなげていくのは、強引だったり既視感があったりして、途中で少々退屈に感じる瞬間もありました。でも、ちゃんと戯曲の肝になる部分を引用されていましたし、登場人物の役割や性格などもしっかり読み取られているように思いました。最後に驚かせてくれたのも良かったです。
“三顧の礼シリーズ”と銘打った古典を題材に創作する企画なんですね。1度目はチェーホフ、2度目(今回)はシェイクスピア。3度目は12月に同じ劇場にて「源氏物語」にチャレンジされるようです。
ここからネタバレします。
下手手前にずっとニンテンドーDSで遊んでいる青年がいます。上手奥には開演前の前説をしていた尾倉ケントさんが、音響オペレーターとして座っています。舞台中央でシェイクスピア戯曲が演じられていく中で、下手の現代口語演劇の世界と上手の現実世界から、時々ちょっかいが入ります。
ゲーム青年はシェイクスピアの劇世界に惹かれながらも、なるべく干渉しないように、傍観者の立場をつら抜こうとするのですが、登場人物(ロミオでありパックである男)と仲良くなったり、音響オペの尾倉さんからも話しかけられたりして、とうとう荒野に捨てられた赤ん坊を救ってしまいます(「冬物語」より)。そして赤ん坊ととても楽しい時を過ごします(一緒にDSをやる等)。
大筋は原作に忠実でしたが、最後は登場人物全員がバタバタと死んでしまうアンハッピー・エンドに作り変えられていました。フォーティンブラスがなぜか野球のバッターになっており、デッドボールを受けて倒れてしまうのに爆笑。
ゲーム青年はせっかく仲良くなった登場人物らが、あっけなく死体となって転がっているのを目の前にして、ショックを隠せません。やがて彼は劇を演じていた人たちの仲間に入りたいと言い出し、自分から部屋を出て動き始めます(ここでは野球の素振りを始める)。引きこもりだった若者が、他者および外の世界と関わっていこうと決心し、自分の力で歩き始めたように見えました。
蛇足ですが。開演前に流れていた「さらば恋人」(歌:堺正章)がいやに胸にしみてしまって。自分が年を取ったのは自覚してるつもりですが、なぜこんなにいいな~とか思っちゃうんだろう(汗)。思わずいろいろ検索⇒YouTube。
三顧の礼シリーズ その二※参戦作品「ロミオとジュリエット」「ハムレット」「真夏の夜の夢」「冬物語」
出演:鈴木幸一郎、野口卓磨、緑川陽介、宮崎圭史、宮崎晋太朗(新川崎芸術センター)、善積元、今井理恵、鈴木美穂、山本美緒、マッチョファイター 尾倉ケント
原作:シェイクスピア 脚本・演出:尾倉ケント 舞台監督:土居歩 美術:木下早紀 衣装:飯田裕幸 チラシイラスト:みかんp supervisor:吉村愛子(fantasista?ish.) 制作:安田裕美
前売2000円 当日2300円※受付開始は開演40分前、開場は開演時間の30分前を予定。※「泣いて馬謖を切る割引(早期割引)」…1800円。※「桃園の誓い割引割引(三名割引)」…3名様4500円。
http://aisatu.jp/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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