ペンギンプルペイルパイルズの倉持裕さんが近松門左衛門の『女殺油地獄』を翻案・演出されます。主演は森山未來さんとともさかりえさん。森山さんはストレート・プレイでの主演は初めてなんですね。
キャッチコピーどおり「なぜ男は女を殺さなくてはならなかったか?」が描かれます。自分で自分を追い詰め不幸になっていく人々の姿がとことん哀しいです。そうでありながらトボけた笑いもいっぱい。具象美術を動的に使う演出が素晴らしい!「S席8000円の演劇を観せてもらった!」という充実感を得られました。上演時間は約2時間15分(休憩なし)。
⇒CoRich舞台芸術!『ネジと紙幣』
≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。改行を変更。
常に何かにいらつき、家業を手伝わずに遊んでばかりいる行人(森山未來)。家族にも愛想を尽かされているが、幼馴染で姉のような存在の桃子(ともさかりえ)だけは行人を見捨てることなく、面倒がおこる度に叱ったりなだめたりしてくれる。桃子は傍目には幸せな主婦そのものだが、実は夫(小林高鹿)と子供との関係に悩み、なにか満たされない気持ちを抱えていた。
花火大会の夜。行人は入れあげているキャバ嬢(江口のりこ)が、自分以外の男・赤地(長谷川朝晴)と花火を見に来ると知るや激怒し、男を蹴散らしてやろうと襲撃の計画をたてる。軽い威嚇のつもりが、悶着の末、誤って半殺しにしてしまう。
奇跡的に怪我から回復した赤地は、件の暴力沙汰をきれいさっぱり忘れてしまったように、行人に儲け話を持ちかけてくる。不穏な空気を感じつつも、これまでとは次元の違う悪事に引き寄せられていく行人・・・。
なぜ行人は、桃子を殺さなくてはならなかったのか?
≪ここまで≫
コミュニケーション能力と問題解決能力の無さが、さく裂!!不用意な言葉がそのまま暴力と入れ替わり、心が代替え可能なお金(紙幣)へと変換されていきます。そして「今しかない」と思い込むことがさらに不幸に拍車をかけて行きます。「あぁ、もう、バカバカ!行人!!」「お母さん、黙って!」「お兄ちゃん、そういう言い方はダメだってば!!」などと心の中で叫びまくってました(苦笑)。
原作どおりの悲劇でありながら、演劇ならではの仕掛けも面白く、とっつきやすい笑いもふんだんに盛り込んだ娯楽作になっています。倉持さんが作り上げた会話劇を贅沢に味わえたことが、私にとっては何よりの収穫でした。
私の席はQ列だったんですが、横に照明だか音響だかのブースがあるんですね。オペレーションをするための照明(手元明かりなど)がずっと点いた状態だったので、お芝居に集中しづらかったです。銀河劇場には何度も通ってますが、私がこの列に座ったのは初めてだったのかも。苦情は出てないのかしら・・・。できれば座りたくない列です。
ここからネタバレします。
工場の上手にある居間がスライドして出てきたり、装置を反転させてお向かい同士の町工場を表すのが見事です。あえて転換の仕掛けを見せることで、観客に柔軟な想像力を喚起していると思います。行人が桃子を刺し殺してしまうところで、洗濯物が血に染まるのが凄い。桃子の死体が舞台中央面にずっとあるのも良かったです。
行人が勘当されることになる家族会議(?)のシーンは、本当に帰りたくなるほど観ていてつらかったです(演出家の思うツボですね)。でもその後の桃子と夫のシーンで折れかけた気持ちが復活。お互いをおもんぱかりながらも自分の望みを通そうとして、夫婦はすれ違い続けます。選んだ言葉が次々と誤解を生み、その誤解をもとにして出た次の言葉と行動が、また2人を遠ざけます。倉持さんの書かれた会話劇の緻密さ、奥の深さが凝縮されたシーンだったように思いました。
≪東京、宮城、富山、愛知、大阪≫
森山未來 ともさかりえ 田口浩正 根岸季衣 長谷川朝晴 江口のりこ 細見大輔 野間口徹 満島ひかり 小林高鹿 近藤智行 吉川純広
作・演出:倉持裕 舞台美術:島次郎 音楽:粟津裕介(locolo code) 照明:吉枝康幸 音響:中島正人 衣裳:宮本まさ江 ヘアメイク:宮内宏明 アクション:諸鍛冶裕太 演出助手:長町多寿 舞台監督:足立充章
S席8,000円 A席6,000円【休演日】9月22日【発売日】2009/06/06
http://www.neji.ne.jp/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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