谷賢一さんが作・演出される劇団DULL-COLORED POP(ダル・カラード・ポップ)の第9回目の本公演です。『プルーフ/証明』と『心が目を覚ます瞬間~4.48サイコシスより~』を交互上演し、今回で劇団の活動を休止されるとのこと。
まずは谷さんが翻訳・演出した『プルーフ/証明』を拝見。私にとってデイヴィッド・オーバーン(David Auburn)の戯曲『proof』はこれで5作目(過去レビュー⇒1、2、3、4)。やっぱり面白かったです。上演時間は約2時間25分(途中休憩1回を含む)。
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≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
シカゴのとある寒い冬、天才数学者・ロバート(中田顕史郎)は、彼にとって2度目の世紀の大発見である偉大な「証明」をノートに書き続けていた。それほどの「証明」を、彼は誰にも見せようとしなかったし、誰もそれを見ようともしなかった。なぜなら彼は、気が狂っていたから。
やがてロバートは亡くなり、103冊の無意味なノートと、たった1人で彼の身の回りの世話をしていた次女・キャサリン(清水那保)だけが残された。廃人同然に失意の底に沈んでいたキャサリンだったが、遺稿の整理に訪れた若い数学者・ハル(小栗剛)と、ノートの持ち出しを巡って激しく争う。父の書斎をそのままにしておきたいキャサリンと、埋もれているかもしれない新たな業績を発掘したいハル。そして、キャサリンをニューヨークへ引き取ろうとする姉・クレア(木下祐子)。
やがてキャサリンは、彼女にとって最も重要な1冊のノートを父の書斎から持ち出し、ハルに託す。なぜなら彼女は、……。
≪ここまで≫
装置は木製テーブルとイス数脚だけ。4人の役者の演技だけで見せる直球の会話劇でした。音楽はほぼ場面転換時のみ。転換の暗転はなく、派手な色使いの照明とカジュアルな音楽で、前のめりに芝居を引っ張っていきます。客席中央の通路を頻繁に使うのは、こういった地味な装置の場合は効果的だったと思います(観客の注意を引くので)。
何度も観た作品なので、これまでの上演と比較する視点で観ました。会話のキャッチボールのスピードを上げ、受け答えをリズミカルにすることによって、言葉の意味の裏側にある1対1の人間関係が浮かび上がってきます。お互いに良かれと思ってたくさんの言葉を発しているのに、全く理解し合えず、むしろ相手への不満が爆発し、憎まれ口を投げつけるはめになるのがスリリング。登場人物にとっては深刻な問題なんだけれど、あまりに滑稽なので笑えます。
演出の谷さんご自身が翻訳された日本語だからだと思いますが、セリフがこなれていて、海外戯曲ならではの仰々しさや堅苦しさ、ウソ臭さがありませんでした。携帯電話も出てきたし、今の劇として楽しめました。名作に真正面から真摯な姿勢で取り組み、丁寧に、慎重に演出されているように思います。DULL-COLORED POPはご縁があって旗揚げからほぼ全の作品を拝見していますが、最も完成度の高い作品を観せてくださいました。
役者さんは皆さん見ごたえがありましたが、特にハル役の小栗剛さんが素敵でした。小栗さんはてっきり劇作家(元チェリーブロッサム・ハイスクール)だと思っていたんですが、役者さんとしても非常に魅力的でした。二枚目系も三枚目系もできるタイプなんじゃないかしら。
ここからネタバレします。
最初のシーンで幽霊のロバートが長い間舞台に居続けるのが、これまで私が観たバージョンとの最も大きな違い。キャサリンが話しかける対象(ロバートかハルか)が変わるので、セリフの意味も変わるのがとても面白いです。
ハルとキャサリンのキスシーンは、キスの前にハルがキャサリンの頬に触れる演技があってとても可愛かった。というより、数学について語るキャサリンを見つめるハルの表情、視線に、恋心が生まれたことがはっきり映っていたのが良かったんだと思います。ただ、一夜を過ごした後のキスはもっとちゃんとした方がいいんじゃないかなー。
1幕の終わりの暗転のタイミングが素晴らしかったです(キャサリンが「私が書いたの」と言った瞬間にカットアウト)。終演の暗転も良かったけど、個人的にはキャサリンが最後のセリフを言ってから(言う瞬間)にパっと消える方がいいんじゃないかと思いました。
元気だった時のロバートとキャサリン、ハルの3人のシーンは、今までで観た中で一番笑える箇所が多かったかも。皆さん、その場でのびのびと生きた演技をされていました。
瓶を倒して水がこぼれたり、叩きつけたためにテーブルが傾いたり、照明(?)がショートしたり、色んなハプニングがありました(←照明は台風のせいらしいです)。舞台上の役者さんが、そういう事件を無視しないのがいいですよね。例えばキャサリン役の清水さんが、照明の変化(火花が飛んでました!)に反応して天井を見上げたり。ちゃんと訓練を積んだ役者さんだと信頼できました。
『プルーフ/証明』『心が目を覚ます瞬間~4.48サイコシスより~』交互上演
第9回本公演/活動休止記念作品
出演:清水那保、木下祐子、小栗剛(キコ)、中田顕史郎
原作:デヴィッド・オーバーン 翻訳・演出:谷賢一/舞台監督:塚越健一/舞台監督補:佐野功、小林慧輔、鮫島あゆ/照明:松本大介、朝日一真/音響:長谷川ふな蔵、井出"PON"三知夫(La Sens)/美術協力:土岐研一、宣伝美術:谷賢一(a.k.a.鮫島あゆ)/演出助手:高橋浩利、酒井一途/演出舎弟:永岡一馬/模型製作:小松崎友理/制作:北海芙未子、池田智哉ばeblabo)、鮫島あゆ/協力:enjin-light、和田東史子、石綿大夢、田中知寛
前売:2,500円、当日:3,000円 学割:前売・当日共に500円引き(受付にて学生証提示) リピーター割引:1,000円引あり(受付にて半券提示)
http://www.dcpop.org/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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