青山円形劇場カウンシルの第3弾(⇒第1弾、第2弾)。ピチチ5の福原充則さんが大槻ケンヂさんの楽曲「サボテンとバントライン」を舞台化されました。主演は要潤さんです。上演時間は約2時間。
ピチチ5常連の役者さんとイケメン人気俳優が同じ舞台で演技をしていることの妙(笑)。ピチチ5らしいブサメンたちの痛い笑いはいつも通り。でもこれまでの福原さんの作品の中でも、シリアス度は高い目だったように思います。最初はどうなることかと心配になりましたが、最後はやっぱり福原節にヤられて感動。
⇒CoRich舞台芸術!『サボテンとバントライン』
≪あらすじ≫
藤森(要潤)はレンタルビデオ店で10年以上アルバイトをしている30歳。高校時代は映画研究部で映画を作っていた。タイトルは「サボテンとバントライン」。
≪ここまで≫
30歳のアルバイター藤森のうだつの上がらない現在と、彼の高校時代の、これまた冴えない青春を描きます。
仲間はずれにされ、いじめられて、すっかりひねくれ、ねじけてしまった高校生男子らの、繊細なんだか傲慢なんだかわからない精神状態を、これでもかと言わんばかりにカッコ悪く表現(笑)。優しさや楽しさを素直に受け入れられず、むやみに反発したり逆恨みをしたりしてしまうのが、滑稽すぎて可愛らしいです。でもそれが可愛いなんて言ってられない方向へ・・・。
ある衝撃的な、悲しい事件を境に藤森の人生は変わる、というか、決定づけられるのですが、その事件以降が私にはとても面白かったです。藤森が高校時代の友人らに再会するクライマックス(そこでもまた事件が起こります)で泣けてきてしまった。
転校してきて新たに映画研究部に入部した、得体の知れぬ悪意に満ちたいじめられっ子・深川役を演じるのは今野浩喜さん。お笑い芸人さんなんですね。セリフの言い方も演技も、私の期待するものではなかったです。役についての解釈が違うんでしょうね。残念。野間口徹さんだったら・・・なんて勝手に想像しちゃいました。
ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。
藤森が書いた映画台本「サボテンとバントライン」は、ブルカニロという“荒野のガンマン”風な男が主人公。彼は何でもかんでも爆破してしまう荒くれ者です。世の中すべてに対する怒りを胸に秘めている深川は、そんな脚本を書いた藤森を同志だと思い、映画研究部に入ります。
深川はヒロインを演じる同級生女子・増名(田中理恵)の勧誘にも成功し、藤森らの映画製作を手伝います。予想外にうまくいった、幸せな、まさに青春そのものの撮影期間でしたが、最後の爆破シーンで、深川が撮影済みのすべてのフィルムを焼いてしまいました。深川は最初からそのつもりだったのです。落胆した部員らは殴り合いの大げんか。そして映画研究部はその場で解散。藤森は偶然とおりかかった移動レンタルビデオ屋(三土幸敏)に拾われます。
12年後。駅前にTSUTAYAが出店したせいで、藤森が高校以来ずっと勤めていたレンタルビデオ店が倒産。藤森がそのTSUTAYAのアルバイトの面接に行ったら、すでに元雇い主の店長(三土幸敏)が平成生まれの先輩アルバイター(碓井清喜)の下で働いていました。藤森も一緒に働くようになった時、増名(高校時代の同級生女子)が親会社の上司として来店。藤森はショックを受け、店長とともに自爆テロを敢行しようと決意。でも爆破を実行したのは店長だけで、藤森は逃げ出しました。
手作り爆弾を持った藤森が1人になって次に向かったのは、映画監督になった深川の長編第一作が上映される映画館。舞台挨拶で壇上に居る深川と藤森が再会します。客席にはサラリーマンになって家庭も持っている元映画研究部の仲間たちの姿も。藤森はとうとう復讐を実行しようとしたわけですが、深川と話す内にまた決心が揺らぎます。
深川のセリフがとても良かった。覚えている限りですがこんな感じ↓でした。
深川「高校の時は世界のすべてが嫌いで、全部をぶっ潰してやろうと思っていた。でもそれは俺たちが狭い世界にいて、何も見えてなかったからだ。実際の世界は美しい。すべてが素晴らしい。でも俺は1つだけどうしても許せないものがあるんだ。それは俺。俺自身。」
深川「自分の作ったこの映画はクソで、しかも君の『サボテンとバントライン』のパクリなんだ。」
そして深川は、すでに映写室に爆弾を仕掛けていることも告白します。深川は藤森に逃げろと言いますが、藤森は逃げず、おそらく深川とともに映画館にとどまり・・・爆発音。
つらい気持ちを声に出せずに、我慢の限界に来てるのに助けを呼べずに、爆発してしまう人たちをそばで見守っていく内に、今の日本社会で一般的に通用している価値観(というかシステム?)と、現実とのズレがとても大きくなっているように感じました。爆破を実行した男たちがイカしたヒール(悪役)にも見えたけれど、それでスカっとして終わりというわけにはいかない、複雑な後味がありました。
演出や装置について備忘録程度に。お芝居の最初の方で紙吹雪を大々的に使っちゃうところが好き!(笑) ラストシーンでは飛び出す絵本のように舞台床が開いて、サボテンが現れました。幕切れの深川の「カット!」というセリフは文句なしにかっこ良かった。
大槻ケンヂ作詞「サボテンとバントライン」より
出演:要潤 今野浩喜(キングオブコメディ) 田中理恵 富岡晃一郎 小野健太郎(Studio Life) 植田裕一(蜜) 高松泰治(ゴキブリコンビナート) 碓井清喜 三浦竜一 三土幸敏 吉見匡雄
脚本・演出:福原充則(ピチチ5) 舞台美術:加藤ちか 舞台監督:谷澤拓已 照明:関口裕二(balance,inc.DESIGN) 音響:高塩顕 衣裳:福田千亜紀 ヘアメイク:鈴木佐知 演出部:上嶋倫子・渡邊亜沙子 特殊小道具:笹野茂之 劇中敬作曲:西山宏幸 照明オペレーター:菅橋友紀(balance,inc.DESIGN) 衣裳部:秋山友海 演出助手:相田剛志 宣伝写真:野村誠一 宣伝美術:オカヤイヅミ 宣伝協力:リリオ 制作:永井有子 票券:サンライズプロモーション東京 制作協力:伊藤宏実・秋山武彦・風間ひとみ(ネルケプランニング) プロデューサー:恒吉竹成(ノックス) エグゼクティブプロデューサー:志茂聰明(青山円形劇場) 松田誠(ネルケプランニング) 主催:こどもの城青山円形劇場/ネルケプランニング
¥5,000(税込/前売・当日共/全席指定) ※未就学児童入場不可
http://www.ne.jp/asahi/de/do/sab.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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