明神慈さんが作・演出されるポかリン記憶舎の新作です。8月に出演者オーディションの告知をしておりました。五反田のアトリエヘリコプターに、横幅が広い木製の抽象舞台が出現。上演時間は約1時間20分。
登場人物の1人ひとりが粒だった存在感で、一定の緊張を保ちながら、ゆるり、ぎゅるりと空気をうねらせます。お芝居が終わった後、誰もいない舞台をじっと見つめながら、彼と彼らの残り香を存分に体にしみこませました。
⇒稽古場ブログには大きな写真がいっぱい。充実しています。
⇒CoRich舞台芸術!『「垂る」-shizuru-」』
≪あらすじ≫
都内某所。乗り物が来るのを待つ人々。和服姿の見知らぬ女性がやってきて、予言したことには・・・。
≪ここまで≫
木の板(すのこのようなデザイン)で出来た装置は、幅の細いスロープがシャープで、木の温かみとの組み合わせがおしゃれ。木々の間からもれる照明のほのかな明るさがきれい。暗さの調節で空気の重さが変わります。
前回と比較すると、一見わかりやすく親しみやすい筋書きがある作品です。会話の中から徐々に伝わってくるのは、登場人物の望みや悩みなど個人々々の私的なエピソード。それぞれの背景も丁寧に作られており、最初は群像劇のような印象もありました。
役者さんの演技は、会話をしていても1人ひとりが完全に独立しているように見える状態で、ちょっと違和感がありました。でも、いま見えているものの裏に別の流れが隠れていたのがわかった時、ぱらぱらとめくれるように疑問が晴れました。
優香役の成田亜佑美さんは、全身で呼吸をするように共演者とコミュニケーションを取って、時には大きく、時には小刻みに心を揺れ動かしているように見えました。私はそういう演技が好きです。ふるふると震え続けている感じ。
ここからネタバレします。
舞台は目黒川の水上バスの乗り場。潤(日下部そう)は恋人の優香(成田亜佑美)と最終便を待っています。若い夫婦(井上幸太郎&中島美紀)や車いすの老人(二瓶鮫一)とその介助者(本多麻紀)らが次々とやってきて、大きな声で携帯電話で話しまくる奇妙な女・舞(町田カナ)が、場の空気をざわつかせます。
和服の老女(桜井昭子)が告げたのは、彼女が見た凄惨な夢のこと。これから来る最終便に乗った者は全員、無差別殺人犯(=東谷英人?)に刺殺されるというのです。彼女の話を信じてその場を去る者もあり、そのまま待つ者もあり。潤と優香は「もし今、自分たち2人が死んだら」と話をふくらませ、少し離れた場所で体を重ねます。(あーもーこれがエロすぎた。「生でヤりたい」なんて露骨なセリフがなぜちゃんと官能的に成立するのかって、明神さんに聞いてください!)
このお芝居の主人公は潤。全ては、水際にやってきた彼が頭の中で想像した出来事だったとも考えられるでしょう。舞台にいる人々がバラバラに浮遊していたのは、このためだったんだと納得しました。
潤は舞の導きによって過去の記憶を思い出します。父が母を刺殺したため、彼は母方の祖父に引き取られて暮らしてきました。水上バス乗り場にかつてあった銭湯の煙突と、実は歩ける車いすの老人が吸ったタバコの煙が、母の遺体を焼いた火葬場を思い起こさせます。
育ての親となった祖父に父のことを全否定され、母不在の家庭で育った彼は、おそらく自分の命を肯定することできないまま生きてきたのだと想像できます。その彼が死を目前にして何を欲したか。彼は「愛する人との間に子供を残したい」と願い、実行したのです。
潤は自分の中にあった孤独の暗闇を見つめ、その奥底にあった生への渇望に気づいたのだと思います。舞台中央に一人で立ち、暗い明かりの中で、ゆっくり、ゆっくりと回転する潤の姿には、ひとつの命があらためて生まれ直すような、再生の意味が含まれていたのではないかと思いました。
ポかリン記憶舎♯16
出演:中島美紀 日下部そう 町田カナ 井上幸太郎 本多麻紀(SPAC) 成田亜佑美 東谷英人 桜井昭子 二瓶鮫一
脚本・演出:明神慈 音楽:木並和彦 舞台美術:杉山至+鴉屋 舞台監督:寅川英司+鴉屋 大友圭一郎 照明:木藤歩 音響:荒木まや 写真:松本典子?AD:松本賭至 衣裳:フラボン 演出助手:小杉美也子 黒木絵美花 橋本和加子 直原薫 由かほる?制作:フラボン 主催:ポかリン記憶舎?
【発売日】2009/10/02 前売3000円 当日3500円 平日マチネ割2500円 和服割2500円 (フラボンのみ取扱い) 学割 500円 ※要学生証 (フラボンのみ取扱い)
http://www.pocarine.org/mt/archives/2009/09/_shizuru.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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