2009年04月05日
Oi-SCALE『AtoP』04/02-05シアタートラム
林灰二さんが作・演出されるOi-SCALE(オイ・スケール)の新作、シアタートラムでの公演です。タイトルは「エイ・トゥー・ピー」と読むようです。
林さんならではの、都会の夜の暗闇のファンタジーに浸りました。でもストーリー展開には少々馴染みづらかったですね。上演時間は約2時間。
⇒CoRich舞台芸術!『AtoP』
≪あらすじ≫
田舎から東京に出てきたけれど、アトピーになって専門学校には通えなくなり、お姉ちゃんの家にいそうろうしつつ、ひきこもりになったまき子(朝倉えりか)。夜になると自分で自分の体をひっかいてしまうので、寝られない。医者はクスリをくれるばかりで治る気配はなし。バイトを見つけて働こうとするのだけれど・・・。
≪ここまで≫
黒い空間に赤いコーンがぐるりと円を描くように置かれ、その中がアクティングスペース。外側ではセリフを朗読したりします。都会の深夜2時から3時ぐらいの静けさが、ひんやりと伝わってきました。
舞台中央上部には大きなスクリーンがあり、ステージを上から写した動画が中継されます。空に浮かぶ月の視線の先にあるものを写しているように感じました。
主人公が寝てるのか起きてるのかわからない少女なので、中盤までは、色んなエピソードの断片が交差していくファンタジーとして、じんわり、ゆったりと楽しみました。若者の閉ざされた心の奥にある、消え入りそうな願いや怒りが垣間見える瞬間が、とても大切に届けられます。でも後半に入って具体的な本筋が出てくるあたりから、付いて行きづらくなりました。もっと前からヒントを散りばめておいた方が、入っていきやすいんじゃないかしら。
林さんならではの詩的な世界が好きです。勝手なこと言わせていただくと、もっとファンタジー色を強く、コントも多い目で(笑)、上演時間が1時間30分ぐらいだと嬉しいな~。
ここからネタバレします。
うさぎのぬいぐるみ(まき子の架空の友人ユキ)、ドアののぞき穴から見える魚(新聞勧誘員)、満員電車、自動販売機、病室、月。
「医者は薬を出すばかりで治す気がない」というエピソードは、残念ながら身に覚えがあります。まき子が怒ってくれて嬉しかったです。
実のところ、まき子の姉はすでに交通事故で死んでおり、姉の恋人がひき逃げ犯グループに復讐するというのが本筋になっていました。冒頭に登場した、夜中に病院前に集まる男たち(=ひき逃げ犯)の正体がここでわかります。最後はひき逃げ犯のリーダーに、まき子が復讐を果たして終幕(リーダーは新聞勧誘員だったので、まき子は部屋に訪れた彼をナイフで刺す)。
≪トークショー≫
出演:グランジ 林灰二 荒井眞理子 他2名
グランジは男3人組のお笑いグループなんですね。メンバーの1人、遠山大輔さんが出演されています(姉の車に同乗していた若い男役。つまりヒロインが昔好きだった男でもある)。舞台上にはイスがなく、立ったまましゃべりっぱなしの30分間。
お笑い芸人さんって、客席が笑わなかったら、その間(ま)を埋めようとして一生懸命に話してしまうみたいで、かわいそうでした。演劇の観客は笑うためだけに劇場に来てるわけじゃないので、そこまで頑張らなくていいのにな(頑張って欲しくないな)と思いました。お笑い芸人さんなので、仕方ないのかな。
Oi-SCALE+Hi-SPECS公演
出演:福山亜弥 奥瀬繁(幻の劇団見て見て) 遠山大輔(グランジ) 朝倉えりか 久保田芳之(reset-N) 家納ジュンコ(サモ・アリナンズ)ふるたこうこ 緒方健児 小原雄平(電動夏子安置システム) 如月モエ(チェリーブロッサムハイスクール) 荒井眞理子 林竜三 吉成豊 川島佳帆里 佐藤亜衣 中泉裕矢 西畑聡 芝エニシ 嶋則人(マグズサム)斉藤岳夫 林灰二
脚本・演出:林灰二 映像監督:松田大佑(under high) 舞台監督:伊藤龍彦 美術:仁平祐也 照明:原宏昌(ライトスタッフ) 音響:田島誠治、飯田彰子(Sound Gimmick) 小道具:中島香奈子・當間英之 楽曲提供:DEADPHONES(tuba...disk) 演出部:利闘流TKO 佐藤亜衣 宣伝美術(web):清水慎太郎 スチール:河合信幸 衣装協力:島田 翔太 メイク:ミタマイコ 制作部:中野博文 票券:スギヤマヨウ(QuarterNote) 制作:Oi-SCALE 企画製作:松田大佑/Oi-Hi crew Harts
【発売日】2009/03/01 料金:一般3,500円 当日3,700円 世田谷区民3,400円 劇場友の会会員3,300円
http://www.oi-scale.com/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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パラドックス定数『インテレクチュアル・マスターベーション』03/27-04/01シアター711
野木萌葱さんが脚本・演出を手がけるパラドックス定数の新作です。千秋楽に滑り込みました。
新しい劇場シアター711に入ったのは初めて。元映画館だからシートがふかふかで嬉しいですね!※対面座席だったので片側の席だけですが。
明治時代の熱い社会主義者たちのお話。私は史実についての知識がほぼなくて(すみません)、特に日本が舞台だとも思わずに拝見。面白かったです。上演時間は約2時間弱。
⇒CoRich舞台芸術!『インテレクチュアル・マスターベーション』
木製のイス数脚以外にほぼ何もない舞台。上下(かみしも)にある劇場付属の分厚い扉を使っていました。照明の切り替えなどですばやく場面転換し、時間も場所も瞬時に変わります。軽やかでとても良かったです。そういえば音響(音楽)はなかった気がします。言葉がとめどなく飛び出してくるので、他の音はなくて良かったのかも。
衣裳が派手だったので(歴史に忠実ではなかったので)、最初からフィクションの世界に入っていけて良かったです。熱い男たちの丁々発止のセリフのやり取りを、ぎゅっと耳をそばだてて、でも気持ちを楽にして拝見できました。
行き過ぎた資本主義について議論をしているのは彼らだけではなく、平成の今を生きる私たちもなんですよね。史実をもとにした物語ではありますが、むしろ現代の、この不況を生きる自分への問いかけとして受け取りました。
井内勇希さん(大杉栄役)の変貌ぶりが毎回楽しいです。今回はひげ面の暴れん坊。役によって、しなやかに変身してくれる俳優を見ていたいですね。
ここからネタバレします。
人間は押さえつけられたら、それを跳ね除けたくなるものですよね。そして、「自分は報われなくてもいいから、次の世代のために人を殺す」なんてことも思いついて実行してしまいます。テロリズム。
幸徳秋水の演説シーン(事実か架空かは知りませんが)での、軍隊についての発言に納得でした。以下、脚本より引用します。
秋水「軍隊が自国の民を最後まで守り抜いた例はない。民に刃を向ける時、軍隊は最も得意な表情を見せる。」
客入れ、客出しの音楽がTHE BLUE HEARTSでした。私が10代の頃のパンクというとブルーハーツだったので、うまい具合にハマりました。
パラドックス定数第18項
出演:植村宏司(内山愚童役)、十枝大介(山川均役)、西原誠吾(木下尚江役)、井内勇希(大杉栄役)、今里真(幸徳秋水役)、山ノ井史(荒畑寒村役)、小野ゆたか(堺利彦役)
脚本・演出:野木萌葱 照明:伊藤泰行 舞台監督:金安凌平 衣裳:渡辺まり 写真:渡辺竜太 販促:副島千尋 制作補:たけいけいこ 制作統括:赤沼かがみ(G-up) 企画製作:パラドックス定数研究所
web先行予約 2600円(銀行振り込みのみ・おまけつき) 一般前売り 2800円 当日券 3000円 平日マチネ(3/31 15時の回) 受付、当日共2500円(web先行は2300円)
http://www.pdx-c.com/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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