新国立劇場演劇研修所(NNTドラマスタジオ)の第3期生修了公演の稽古場にお邪魔しました。⇒『友達』公演詳細 第3期生関連レビュー⇒1、2、3、4、5、6 修了公演のレビュー⇒1期生、2期生
さまざまな劇団や劇場で再演されている、1967年初演の安部公房(⇒Wikipedia)の戯曲『友達』(過去レビュー⇒1、2)を、研修所所長の栗山民也さんが演出されます。
公演は平日3日間の4ステージのみ。残席の少ない回もあるようですので、ご予約はお早めにどうぞ!※初日はA席、B席ともに完売!
■新国立劇場演劇研修所『友達』
02/22-24@新国立劇場小劇場
⇒[演劇情報サイト・ステージウェブ] 栗山民也が語る新国立劇場演劇研修所修了公演『友達』
⇒CoRich舞台芸術!『友達』
≪あらすじ≫ 公式サイトより。
ある男のアパートに、ある晩突然、見知らぬ一家が侵入してきて、そのまま居ついてしまう。拒む男に、一家は他人だらけの都会で生きていくには友達が必要だ、と隣人愛を説く。やがて彼らは男の婚約者やその兄までも巻き込んでいき、とうとう男は逃亡を企てるが・・
≪ここまで≫
稽古開始から1週間ほど経った段階で、通し稽古もできるぐらい順調に進んでいるようです。今日は第2幕の最初から最後までのシーン稽古から始まりました。稽古場には原寸大の装置が組まれており、役者さんは衣裳もしっかりつけています。音楽や効果音も音響オペレーターの方が鳴らしてくれるので、全体の雰囲気がとてもつかみやすいです。
■写真左から:田中麻衣子(演出助手)/栗山民也(演出)/香原俊彦(婚約者の兄)/金成均(父)/辻村優子(祖母)
『友達』は谷崎潤一郎賞を受賞した不条理劇。見知らぬ家族に部屋を占拠された男(竹田桂)は警察や身近な人々に助けを求めますが、不敵な笑みをたたえる謎の一家の巧妙な手口により、どんどん孤立させられ追い込まれていきます。
栗山「(家族が男に与える)攻撃を色んな方法に変えていきたい。あの手この手で男に接近して、彼のマイナス部分を周囲に植え付けていくように。」
栗山「そこは“男がしゃべる必要のないことをしゃべらされている”ように見せたい。フッと探りを入れるように、すばやく(言葉を発して)。色んな情報をバラバラと散らばらせておいて、突然ストンと核心を突くように。」
言葉のスピードの変化はもちろん、語尾のイントネーションを上げるか下げるかだけでも、セリフの意味や人物の印象、つまりその場面で伝わってくる重要なポイントが変わってきます。会話劇の醍醐味ですよね。栗山さんはセリフはもちろん立ち位置や動きについても、細かく指示をしていきます。10分間の場面についてのダメ出しは約30分間。簡潔な言葉で大量のオーダーが出されますので、すべてに対応するのは大変そう。
栗山「手を使うと力が分散して見える。人間が極限状態で説明する時は、手のことなんて忘れるものでしょう。そういう時は手じゃなくて目に出るんだよ。」
栗山「ここのト書きは、いかにも60年代演劇だなぁと思うんだよね。だからト書きに書かれたままを普通にやるのだと物足りない。(どのように動くかを自分で)考えてみて。」
2時間のシーン稽古の後、小劇場に移動しました。大きな幕を使う演出があるので、本番の会場で実際に幕、照明、音響を使って試してみることに。いま上演中の近藤良平さんのダンス公演『トリプルビル』がちょうど休演日だったのです。※稽古の内容はネタバレになりますので書かないでおきます。
栗山「色々やってみる内に、偶然に面白い絵が生まれてくる。だからまだ(今の段階で)決定はしないからね。」
小劇場での稽古は約1時間。このためにスタッフの皆さんが前日から幕、照明、音響などの準備をされたんですね。そして明日のダンス公演のために全部片付けるんですから、なんとも贅沢な現場です。
30分間の昼食休憩の後リハーサル室に戻って来て、歌唱指導の伊藤和美さんによる歌の稽古が始まりました。戯曲『友達』には「友達のブルース」という歌があるのです。戯曲本には楽譜も載っています(歌詞:安部公房 作曲:猪俣猛)。
伊藤「“あたためて”の“あ”と、“あの胸の”の“あ”は、もうちょっと(声の)色を変えてみて。」
伊藤「上手に、納得できるような着地ができるよう、声を切ってください。」
伊藤さんの指導は上手く歌うことだけを目指すものではありません。面白かったのは、突然研修生を1人ずつ選んで、順番に指揮をさせていったこと。いきなり指揮者になっても、声の表現を手であらわすのって難しいんですよね。おろおろする指揮者を見つめる全員が笑顔になり、声に生き生きとした張りが出たような気がました。
伊藤「(言うまでもありませんが)これは指揮の能力を試すものじゃありません。指揮者を中央に置くことで、みんなの心が一つになるんだよね。稽古が始まる前に日替わりで指揮者を選んでやってみて。その日の顔色や体の状態もわかると思うから。」
★休憩中の栗山さんに少しお話を伺うことができました。少々ネタバレしますが、観る前に読んでも問題ないと思います。
―研修所の修了公演は、今回初めて既存の戯曲が選ばれました。研修生のための書き下ろしではないので、主役、端役といった差が出てきますね。
栗山「俳優学校公演の演目選びは難しいよね。年齢がみんな同じぐらいだし、人数も男女比も決まっているから、合う戯曲がなかなかない。でもどうしてもダブルキャストはやりたくないんだな、僕は。どんな役であろうと、俳優は1つの役に打ち込むものだと思うから。」
■写真左から:熊坂理恵(次女)/竹田桂(男)
―この戯曲を一読した時、正直なところ、どう受け止めていいのか迷いました。色んな解釈ができますよね。
栗山「そうだね、1つの強いメッセージを伝えるような作品ではないからね。例えば民主主義への批判があるかもしれない。セリフに出てくる“多数決”に対してとかね。同時に(戯曲が執筆された1960年代以降の)新興宗教団体の登場を予言しているとも言える。」
栗山「家族が男の財布を取る場面の会話からは、安部公房がさまざまな思想で遊んでいるようにも見える。あと、やっぱり医学的だよね。人間の身体で言うと、臓器がそれぞれに機能し合っているような(戯曲だ)。」※安部公房は東大医学部出身。
―修了公演とはいえ、研修生が不条理劇に挑戦するのはハードルとして低くないと思います。今日のお稽古を観ただけの感想ですが、1期生、2期生と比べると3期生は少々淡泊といいますか、大人しい印象を受けました。
栗山「だってまだ稽古が始まって1週間だもの。あと2週間あるんだから、これからですよ!」
大勢のプロに囲まれた、至れり尽くせりの贅沢な環境だと思います。でもその反面、研修生に与えられる課題の多さ、重みも生半可なものではありません。これまでも本番に大いに力を発揮してきた3期生なので、大胆な変貌っぷりを期待して初日を待ちたいと思います。
平成21年度文化庁新進芸術家育成公演等事業 新国立劇場演劇研修所の成果
出演:新国立劇場演劇研修所第3期生(男:竹田桂 婚約者:岸田茜 婚約者の兄:香原俊彦 祖母:辻村優子 父:金成均 母:渡邉樹里 長男:米川貴久 次男:長元洋 三男:宇髙海渡 長女:鈴木良苗 次女:熊坂理恵 末娘:吉田紗和子 管理人:野村真理 警官1:若菜大輔)
【作】安部公房【演出】栗山民也【美術】伊藤雅子【衣裳】前田文子【照明】田中弘子【音楽】後藤浩明【音響】秋山斎裕【歌唱指導】伊藤和美【演出助手】田中麻衣子【舞台監督】米倉幸雄【演出部】大野雅代 鈴木政憲【制作助手】粟津佐智【制作】新国立劇場演劇研修所【研修所長】栗山民也
【発売日】2010/01/18 A席3,000円/B席2,000円/Z席1,500円
http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000316_training.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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