岡田利規さん(⇒ツイッター)率いるチェルフィッチュの新作初日を拝見。海外ツアーの予定もあるので世界初演ですね。前作『フリータイム』以来、新作は約2年振り。上演時間は約1時間40分。
白くて四角い、何もない空間に、俳優が、居る。彼らは体を、動かす。そして言葉を、伝える。いわゆるストレート・プレイではないです。でも物語があって、俳優がセリフをしゃべる、まぎれもない演劇でした。
観ている自分の想像力が際限なく広がって、架空の世界が鮮やかに生み出され、過去の思い出も引っぱり出されてきて・・・とにかく刺激的!じっと座わりながら興奮しました。
⇒「劇団チェルフィッチュ 作風一変、「勝ち組」描く」(朝日新聞)
⇒CoRich舞台芸術!『わたしたちは無傷な別人であるのか?』
≪あらすじ・作品解説≫ 公式サイトより部分引用。
二〇〇九年八月三十日日曜日や、その前日の土曜日の夜が、この新しい作品の舞台です。(岡田利規)
≪ここまで≫
出演者は今風のカラフルな普段着姿(カジュアル・ルックというのかな)の若者ばかり。これまでチェルフィッチュの特徴とされてきた“若者特有のだらだらとしたしゃべり言葉”はなく、「~~です」「~~ではありません」など、短めのセンテンスで意味がわかりやすいセリフが語られます。そしてセリフとセリフの間の時間がたっぷり取られているので、その無言の間に、耳に届いた情報から想像が広がります。絵本を読み進める感覚にとても似ていました。
例えば「海がみえる道端」という言葉だけで、私の場合はアニメ映画「耳をすませば」の風景が広がったり(聖蹟桜ヶ丘から海が見えるのか知らないが)、岡田さんの小説「わたしの場所の複数」(大江健三郎賞受賞小説「わたしたちに許された特別な時間の終わり」に収録)を思い出したり。次々と景色がつけ足されて、何もないはずの空間が私の想像力でうるさいほどに色付けされていきました。
ストーリーは取り立てて奇抜なものではない(特に何も起こらない)のですが、俳優の声が鋭く届くので、短い文章が体にぐぐっと刺さって、舞台で起こる出来事がとても生々しいです。ワイン、チーズ、公園、ブランコといった単語から、匂いや風も感じ取れました。というより、いやおうなしに自分の脳が想像するのです。
俳優の動きはというと、歩いている場面でも歩きません。食べている場面でも食べません。だから余計に自分の中で想像がふくらむんだと思います。状況や意味から独立して自由に動く体は、俳優を人間ではないようにも見せます。
3人の俳優が居る場面が、戦争状態に見えることもありました。手が漫画「ONE PIECE」のルフィーのようにぐーーっと伸びて相手を抱きしめたり、「龍と虎とウルトラ怪獣が闘ってる!」という荒唐無稽な場面に見えることもありました。ホントです(笑)。
凄い体験でした。強烈に面白かったです。欲を言えば、もうちょっと上演時間が短かったら助かったなと思います。ものすごく疲れたので(笑)。
ここからネタバレします。
横浜にできる高層タワーレジデンスの1室を買った若い夫婦(矢沢誠と佐々木幸子)。妻が家(引っ越す前の家)にいると見知らぬ“不幸せな人”(山縣太一)が訪ねてくる。『目的地』で想像の中に妻の愛人が出てきた場面を思い出しました。
「自分たちは幸せだけど、周囲には不幸せな人がいる」ことが悲しくて泣く妻。夫もそれに理解を示します。そしてソファでセックスする2人。それを見て「(安心できる家で)セックスをする人は幸せです」と語る不幸せな人。このセックスシーンがものすごくエロティックでした。『タトゥー』で妹がレイプされる場面も凄かったし、岡田さんはなんてエッチで残酷なんだ!と再確認。夫婦の家に遊びに行く女(安藤真理)が公園で見かけた風景(ミニスカートでブランコをする少女たちを、パンを食べながらじっと見つめる男)もショッキングで官能的。
真っ赤な照明に包まれ、眠りにつく夫婦。「この夫婦は私(=観客)ではない、とは言い切れない」。はっきりと観客に向けて発せられたメッセージにぎくりとします。
朝になると照明は白々と夫婦を照らします。朝食のパンを買いに行くついでに選挙の投票に行く2人の横には、うつぶせで地面にずっと横たわったままの不幸せな人(山縣太一)の姿が。彼はおそらくホームレスでしょう。住所不定だから選挙にも行けない。無論、「この男は私(=観客)ではない」とも言い切れないのです。
男を照らしながらゆっくり、じんわり暗転して終幕。絵本のファンタジーから突然生々しい、厳しい現実が胸にぎゅるりと入り込んで、体が冷えました。夢から突き放されて、「芝居を観終わった」という私の生活の現実に帰るまでに、しばらく時間がかかりました。
セリフは決まっているけれど、誰が話すのかは決まっていない即興の場面があるようです(つまり俳優たちはその場面の全てのセリフを覚えている)。なんてスリリングな(笑)。独特の緊張感が漂っていたように思います。
≪横浜STスポット、横浜美術館レクチャーホール、海外≫
※本公演は2011年1月にオープンする神奈川芸術劇場の開設準備の一環として行うものです。神奈川芸術劇場は、演劇・ミュージカル・ダンスなど質の高い舞台芸術作品を創造・発信し、文化芸術の広域拠点施設として県内の文化施設等と連携していきます。
出演:山縣太一 松村翔子 安藤真理 青柳いづみ 武田力 矢沢誠 佐々木幸子
脚本・演出:岡田利規 舞台監督:鈴木康郎、弘光哲也 音響:牛川紀政、青谷保之(横浜美術館公演音響操作) 照明:大平智己 制作:プリコグ(中村茜、奥野将徳、山崎奈玲子、中島友紀子、黄木多美子) インターンスタッフ:高松太一郎、兵藤茉衣 ボランティアスタッフ:李和宣、谷川明、豊田勇樹、野村ゆめ、古原綾乃、星リヒナ 主催:チェルフィッチュ 神奈川芸術劇場 共同制作:財団法人神奈川芸術文化財団 Theatre de Dramatique National de creation Contemporaine(フランス/パリ)/Festivald'Automne(フランス/パリ)/Noorderzon Performing Arts Festjval Groningen(グローニングン/オランダ) 会場協力:STスポット 特別協力:急な坂スタジオ 制作:precog 東京芸術見本市2o10参加公滴曹笥
【休演日】2月18日(木)、2月25日(木)【発売日】2009/12/19(日時指定 入場整理番号付自由席)前売3000円 当日3500円 学生2500円
http://chelfitsch.net/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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