今月のメルマガ等でお薦めしておりました、二兎社『かたりの椅子』の東京・世田谷公演初日を拝見。上演時間は約2時間40分(途中15分の休憩を含む)。
客席で元気な笑いが絶えないお芝居でした。でも私はほとんど笑えなかったです・・・だって、ホラーだったから!コミカルな演技で面白おかしく笑える(はずの)場面がいっぱいあり、そこで笑うことに全く疑問は感じないのですが、とにかく私は笑えませんでした・・・ずっと顔がひきつっていたのかも(汗)。
そういえば『歌わせたい男たち』で私は多いに笑わせていただいたのですが、私の友人は「全く笑えなかった」と言っていたのを思い出しました。当事者意識を強く喚起されたからかもしれません。
⇒「官僚主義 笑いで風刺」(朝日新聞)
⇒「官僚主義撃つ、背筋凍る喜劇」(毎日新聞)
⇒「永井愛インタビュー」(まつもと市民・芸術館)
⇒fringe blog「新国立劇場演劇部門の芸術監督人事について」
⇒CoRich舞台芸術!『かたりの椅子』
≪あらすじ≫ CoRich舞台芸術!より
物語は東京郊外のある町で開催予定の地域おこしイベントをめぐって展開。主催する文化財団と、アートディレクターとの対立が深まっていくなか、なんとか両者の調整を図ろうとする事業プロデューサーは、思わぬ深みにはまっていく……。
≪ここまで≫
舞台奥に、四角い窓が並んだ大きな壁がそそり立っています。壁は無地なのでのっぺらぼうな印象。窓の奥にある小さな部屋には登場人物が1人ずつ入っていて、窓から顔を出します。他にはイスが数客出るぐらいのシンプルな抽象美術です。照明の変化や役者さんが歩くだけで、瞬時に色んな場面に転換します。
永井さんのインタビューや新聞記事にある通り、官僚と市民との対立、そしてその顛末(?)を描いた戯曲でした。天下りの理事長(銀粉蝶)と都庁から出向してきた部下(大沢健)が、市役所の職員・沼瀬(でんでん)に命令を出して、外部から来たプロデューサー・りんこ(竹下景子)と地元アーティスト・入川(山口馬木也)らの企画をボツにしようと、さまざまに画策します。
役者さんは大げさ目の演技をされていました。まるで仮面劇のような戯画的な味わいで、演じる役柄の着ぐるみを着ているようにも感じました。だから人間ではなく、人形や怪物に見えやすかったんだと思います(私には)。
沼瀬を演じたでんでんさんが本物の妖怪に見えて、すごく気持ち悪くて恐ろしかった・・・!アニメ『もののけ姫』でタタリ神にたたられたアシタカの右腕に、黒くて巨大なミミズみたいなものが取りつきますよね(⇒画像)。あのぐにょぐにょ動く、超~気持ち悪くて、しかも命を奪うほどの呪いの力を持ったものに、見えたんです!(竹下さんにまとわりつくでんでんさんが)。やっぱり本格ホラーです。
ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。
人間が妖怪になった時、いや妖怪じゃなくても、動物になった瞬間を、私は見たことがあります。もしくは、その人がその人自身ではなくなっている時、というのかしら。おそらく最初から、銀粉蝶さんや大沢健さんが化け物に見えていたから、私は笑えなかったのかもしれません。
自分の本音よりも周囲の人や環境に合わせた行動をして、その内に自分が何を望んでいるのかがわからなくなるような感覚です。自分が自覚しない限り、そこからは脱出できないんですよね。先日観たばかりのペンギンプルペイルパイルズ『謝罪の罪』と重なりました。
買収する時に“美味しい食べ物”はつきもの。イタリア料理にワイン、半分に分けたモンブランで、市民(花王おさむ、松浦佐知子)は簡単に理事長の手に落ちます。映画『ポチの告白』でも寿司、すき焼きなど高級料理がどんどん出てきていました。
りんこは理事長らに「それでも人生は続くんです(だから余計なことはしないで、自分が得をする手段をとりなさい。このままだと職を失いますよ)。」と、まるで思いやりの言葉をかけられるようにして脅されます。その対比としてアーティストの入川のセリフがあります。「それでも自分への裏切りは続くんです(自分の本当の気持ちを封印して長いものに巻かれれ、嘘をついて行動をしたことは生涯消えない)。」
入川の「加害者はいつも被害者」というセリフにも納得。「自分はそんなつもりじゃなかったんだけど、仕方なく」「自分は嫌なんだけど、あの人に頼まれて無理やり」という枕詞で、自分を行為の外側に逃すんですよね。そして起こる出来事のすべての部外者であり続けるという。そうやって自分の人生から自分がはがれていき、妖怪になるんじゃないでしょうか。
壁の中に並んだ、味のある木製の椅子たちは、『語りの椅子』にも『騙りの椅子』にもなるんですよね。それを決めるのは私次第、ということだと思います。理事長側に行くのか、入川側に行くのか、りんこが岐路に立ったところで終幕しました。
『ニュルンベルク裁判』の最後の場面でも、壁の中に入っていた多くのイスに照明が当たったのを思い出しました。椅子って凄い。
≪埼玉、新潟、福島、神奈川、長野、東京(亀戸)、大阪、滋賀、東京(世田谷)≫
二兎社公演35
【出演】六枝りんこ:竹下景子 入川クニヒト:山口馬木也 雨田久里(あまだくり):銀粉蝶 目高陽倫:大沢健 北条美月:内田慈 田中栄太:吉田ウーロン太 戸井ひずる:松浦佐知子 沼瀬圭作:でんでん 九ケ谷章吾:花王おさむ
作・演出=永井愛 美術=大田創 照明=中川隆一 音響=市来邦比古 衣裳=竹原典子 音楽=近藤達郎 ヘアメイク=清水美穂 舞台監督=泣谷壽久 演出助手=鈴木修 大道具=C-COM 小道具=高津装飾美術株式会社 照明操作=吉田裕美/横田幸子/安田正彦/林美保 音響操作=徳久礼子ステージオフィス 舞台監督助手=竹内章子/加瀬貴広/尾花真/今村智宏 衣裳助手=矢作多真美 衣裳製作=砂田悠香理 コサージュ製作=鈴木真育 プロンプター=日沖和嘉子 運送=マイド 宣伝美術=マッチアンドカンパニー 宣伝写真=ノニータ 舞台写真=林渓泉 ウェブデザイン=泰明俊 学芸=松井憲太郎 票券=松本恵美子 票券助手=坂田厚子 制作助手=松村安奈 制作=本郷みつ子/安藤ゆか 製作=二兎社 後援=財団法人せたがや文化財団 (世田谷公演)
ポストトークあり(4/3出演:堤幸彦×永井愛、4/7出演:竹下景子×永井愛)
1階席5,500円/2階席5,000円/3階席4,000円 友の会会員割引 1階席5,300円 世田谷区民割引 1階席5,400円 ※未就学児童はご入場いただけません。※上演時間は、約2時間40分(1幕:70分/休憩15分/2幕75分)予定。
http://www.nitosha.net/
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2010/04/post_178.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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