プロデューサー曰く“劇場が空いている隙間を狙った”パルコ劇場のリーディング企画です。これが3度目ということですが、私は初めて伺いました。
『スプーンフェイス・スタインバーグ』は英国の劇作家リー・ホールさんが、ラジオドラマのために書かれた1人語り用の脚本で、英国ではよく知られた作品だそうです。とても感動しました。上演時間は約1時間20分。
⇒CoRich舞台芸術!『スプーンフェイス・スタインバーグ』
≪あらすじ≫ 公式サイトより。
マリア・カラスの歌声とともに少女は死について考える…
人が歌とかオペラとかつくった時、大切だったのは人がどう死ぬかってことだった…。
癌に犯され、死んでゆく7歳の少女スプーンフェイスが、マリア・カラスの歌うオペラのアリアとともに「死んでゆく自分」について考え、その死と向かいあってゆく異色のモノローグドラマ。
≪ここまで≫
タイトルはそのまま少女の名前です。苗字がスタインバーグで名前がスプーンフェイス。Wikipediaによるとキャサリン・ハンターさんが42歳の時に演じたことがあるんですね。
7歳の少女が“かわいそうな”自分の人生を振り返り、死を目前にして、悲劇の美しさ、命の輝き、生きる意味を語ります。イスに座って台本を読む朗読ならではのスタイルで、言葉と心をしっかり伝えてくださいました。戯曲に誠実に接し、演劇の力と観客の想像力を信じた演出だったと思います。
ここからネタバレします。
スプーンフェイスは自閉症なので、この戯曲で語られる内容は彼女の心の中にあったものであり、彼女の実人生では言葉にはならなかったことなんですよね。その構造がとても面白いです。
入院したスプーンフェイスの担当医はユダヤ人で、彼(彼女?)の母が幼い頃にナチスの強制収容所にいたことを話します。医者の母は、彼女の母(=医者の祖母)が殴られて射殺されるのをじっと立って見ていなければなりませんでした。スプーンフェイスは収容所にいた子供たちに思いをはせます。彼らはそうやって両親が虐殺される場所で、鬼ごっこをして遊んだし、ガス室の壁に詩やきれいな蝶の絵を描いたのだ。彼らは人間だったんだと。
オペラ歌手の歌う悲しみのアリアは美しい。悲しいことは美しい。
人間がすることの全ては祈り。起きることも寝ることも食べることも。
世界にあるもの全てには光がある。それは火花。全ての人間の奥の奥には火花がある。他者や自然や物の中にある火花を見つければいい。それと自分の中の火花とが出会うことが、生きることの意味。
生まれる前が無だとすると、死んだ後も無。私たちは無を決して知ることはできない。だとしたら無と無の間にある生だけが確かなこと。無とは、私もあなたも自然も車も、全部が一緒になること。だから“生きている時”しか、ない。生きてることは、それだけで素晴らしいこと。
麻生さんが立ち上がって、客席の方を向いてセリフを言う場面ではこらえきれずボロボロ泣いてしまいました。最後にスプーンフェイスがいなくなった(死んだ後の)時間を設けていたのも良かったです。
≪トーク・セッション≫ メモ程度です。
出演:長塚圭史、毛利美咲(パルコ劇場プロデューサー)
長塚「いろんな方法を試したが、どんどんそぎ落としてシンプルな演出になった。観客それぞれが想像力を働かせるのは素晴らしいことだと思う。本格的な舞台演出になると、舞台の方から客席に刺激を与える方向性もあるかもしれない。」
長塚「この作品をひとつのアリアだととらえた。1人の少女が自分の生涯を語る事で、生きることの素晴らしさ、その意味を探る。」
曲目やそれが流れるきっかけは、脚本に明確な指示があるとのこと。
"Spoonface Steinberg" by Lee Hall
パルコ劇場ドラマリーディング ディレクターズチョイス Vol.3
出演:麻生久美子
脚本:リー・ホール 翻訳:常田景子 演出:長塚圭史 美術:小池れい 照明:高見和義(CAT) 音響:加藤温 衣裳:伊賀大介 ヘアメイク:HAMA 舞台監督:久保浩一 プロデューサー:毛利美咲 製作:山崎浩一 企画製作:株式会社パルコ
【発売日】2010/04/11 全席指定4,000円
http://www.parco-play.com/web/page/information/director03/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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