REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2010年05月06日

【稽古場レポート】チェルフィッチュ『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』04/06急な坂スタジオ

hcf_Toshiki_OKADA.JPG
岡田利規さん

 岡田利規さん(⇒プロフィール ⇒ブログ)が作・演出されるチェルフィッチュの新作『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』の稽古場に伺いました(過去の主なレビュー⇒)。

 チェルフィッチュの先鋭的で独自性の高い演劇作品は、海外でも大いに注目されており、『ホットペッパー・・・』はドイツのHAU劇場との共同制作で2009年10月にベルリンで初演されました。今年5月の東京公演で日本初上演を迎え、その後はブリュッセルをはじめ国内外10都市ツアーに出発します。

 岡田さんの稽古場に伺ったのはこれが2度目(⇒1度目)。前回同様、同じ場面を何度も繰り返す厳しい現場でした。でも1度目と圧倒的に違ったのは、稽古を見ながら、私が何度も涙がにじむほど爆笑してしまったこと!(笑) 

 膨大な現代口語のセリフで紡がれるチェルフィッチュならではのお芝居ですが、前作とは打って変わって、とぼけた妙味がたまらないクールなダンス作品になっていました。おしゃれの街、原宿で観るのにぴったりの演目だと思います。

hcf_flyer.JPG
チラシ

■チェルフィッチュ『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』
 ⇒公演公式ページ
 期間:2010年5/7(金)~19(水)
 会場:ラフォーレミュージアム原宿(⇒詳細
 今後のツアー先⇒ブリュッセル、リスボン、ハノーバー、ウィーン、バルセロナ、チューリッヒ、ハンブルグ、リュブリアナ、パリ、京都
 チケット販売⇒プリコグWEBショップ
 ⇒岡田利規インタビュー by 佐々木敦(2010年)
 ⇒CoRich舞台芸術!『ホットペッパー…

 『ホットペッパー・・・』はタイトルどおり、「ホットペッパー」「クーラー」「お別れの挨拶」の3つの短編をつなげて1つに構成された作品です。「ホットペッパー」と「クーラー」は過去に日本で上演されたバージョンを改訂・拡張したもので(過去レビュー⇒)、「お別れの挨拶」は日本初登場。今回は「ホットペッパー」と「お別れの挨拶」の稽古を拝見しました。

 「ホットペッパー」に登場するのは、オフィスで働く若い派遣社員たち。「退職するエリカさんの送別会の料理は何がいいか」「送別会の幹事は本来、正社員の仕事ではないか」等、ともすれば愚痴やわがままにしか聞こえない個人的な主張を、3人それぞれが一方的につらつらと繰り返します。
 それだけでも滑稽なのですが、そこでずっと流れているのがジョン・ケージ(⇒Wikipedia)の楽曲なのです。前衛的なピアノの調べと語られる内容のギャップ、そしてとぼけた身体表現との三つ巴のアンバランスさが、とんでもなく可笑しくて楽しい!

 【写真↓左から横尾文恵さん、武田力さん】
hotpepper_rehearsal2.JPG

 踊り(伝統芸能、バレエ、ダンスなど)の“振付”というと、あらかじめ決められた動きを体得して、本番も稽古どおりに踊ることをイメージします。でもこの作品の身体表現については固定された動きが非常に少なく、岡田さんは「動きは毎回違ってもいい。自分の中でアレンジしてカスタマイズしてもいい。」と強調されていました。

 岡田「演技をしながら音楽も聴いていて下さい。大事なのは音をキュー(きっかけ)としてではなく、音楽としてとらえていること。音とからみ続けること。もっと曲と懇ろ(ねんごろ)になって。」
 岡田「音楽と足がじゃれて戯れているのがいい。進むために歩くのじゃつまらない。段取りに律儀なのはもったいない。そこを超えて欲しい。」

 【写真↓伊東沙保さん】
Hotpepper.JPG

 「お別れの挨拶」はゴージャスなジャズのBGMにのって、1人の女優さんがしゃべりっぱなし、動きっぱなしの数十分間! 女の子らしい妄想をめいっぱい盛り込んだユーモラスな“挨拶”は、話題をあちこちにとっ散らかしながら、秘めた恋や渇いた人間関係もじわりと浮かびあがらせます。狙いを定めた切なさにグっと来ました。
 そして今回拝見した俳優全員に当てはまることですが、セリフをしゃべりながら音楽を聴いて踊ってと、同時に複数のことを行う技術には目を見張ります。

 【写真↓南波圭さん】
fairwell_speech.JPG

 約4時間の稽古で痛切に感じたのは、チェルフィッチュの作品に出演する俳優には、強い自立性と柔軟な即興性が求められるということ。1人で40分以上立ったまま語り、動き続けた俳優もいましたので、体力はもちろん精神的な強さも必要です。岡田さんはある俳優に「前に進もうとしてるのがいい。先取りしてるのもいい。攻めてるのが良かった。」とも発言されていました。つまり主体的に作品を引っ張っていく、気力体力ともに充実した俳優でなければ務まらないんですね。

 岡田「最初から最後まで通った筋が欲しい。そしてその軸をキープして。ペースを自分で握っていて。」
 岡田「コンセプトの提示だけだとつまらない。それ以上のものになった時、それはパフォーマンスになり得る。」

 地道でストイックな稽古の蓄積から、密度の高い“パフォーマンス”が生み出されていました。音楽と俳優とのコラボレーションだけでも満腹だったのに、本番ではそこに照明が加わると思うとぞくぞくします!そして、そんな舞台と観客とのコミュニケーションが空間に満ちれば、未知の体験ができるのではないでしょうか。

 【舞台写真】2009年10月@Hebbel Am Ufer/HAU劇場(ベルリン) (c)Dieter Hartwig
hotpepper_stage.JPG

chelfitsch " Hot Pepper, Air Conditioner, and the Farewell Speech "
≪モデナでプレビュー、ベルリンで初演。東京、ブリュッセル、リスボン、ハノーバー、ウィーン、バルセロナ、チューリッヒ、ハンブルグ、リュブリアナ、パリ、京都≫
出演:山縣太一、安藤真理、伊東沙保、南波圭、武田力、横尾文恵
脚本・演出:岡田利規 共同制作:HAU劇場
【休演日】5月13日【発売日】2010/03/20 前売3500円/学生3000円/当日4000円(日時指定、入場整理番号付き自由席)
http://chelfitsch.net/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 2010年05月06日 22:20 | TrackBack (0)