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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2010年05月11日

イキウメ『プランクトンの踊り場』05/08-23赤坂RED/THEATER

 前川知大さん率いる劇団イキウメの新作です。前川さんは今や紀伊国屋演劇賞や読売演劇大賞の常連の、若手最注目の劇作家・演出家です。大手プロデュース公演でも活躍される一方で、劇団公演も精力的に行われており、今回も東京、大阪のツアーがあります。

 今回もごく普通の日常と隣り合わせの、ちょっと怖いSF世界を楽しむことができました。常連客の期待を裏切らない、安定感のある劇団ですよね。チラシや当日パンフレットでも劇団のカラーが定まってきているように思います。客席は通路席も出て盛況でした。上演時間は約2時間弱。

 【舞台写真↓左から伊勢佳世、岩本幸子 撮影:田中亜紀】
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 ⇒前川知大『プランクトンの踊り場』インタビュー
 ⇒CoRich舞台芸術!『プランクトンの踊り場

 ≪あらすじ≫
 要(伊勢佳世)は滋(浜田信也)との離婚を決心し、ぐうたらな兄(安井順平)が一人で暮らす実家に帰ってきた。
 同じ町の商店街で飲食店をオープンしようとしていた島(窪田道聡)は、店で次々とおかしなことが起こり困り果てている。
 要が出て行ってからもいつもと変わらず東京で働く滋の携帯に、おかしな電話がかかってきた。「あなたは本当に東滋(あずま・しげる)さんですか?」
 ≪ここまで≫

 一見、白い箱にドアが数個ついただけの抽象的な美術。でも扉の仕掛けと照明、音響で動的に場面転換し、さまざまに表情を変えながら複雑な設定をわかりやすく伝えてくれます。いつもながら見事だなと思いました。

 ただ、今回は役者さんの演技が全体的に平板な気がして、説明を聞くばかりの状態に少し退屈することも。でも「自分がもう一人いる!?」という非常にフィクション性の高いストーリーに無理なく入り込めるのは、イキウメならではだなと思います。

 要たちが問題解決のために取った大胆な行動から“取り返しのつかない状況”になり、ぐいぐいと引き込まれました。「一体どうやってこれを“片付ける”のかしら??」と、少し不安になるぐらい(笑)。そして訪れた結末は、私には全く予想がつかなかった種類のものでした。

 お話が終わって暗転し、音楽が流れる客席の闇の中で、家の近くの沿道に生えている大きな木や、通っていた小学校の近くにあったほこらなどを思い出しました。いつもの日常の奥行が広く、深くなったように感じました。

 【舞台写真↓左から安井順平、伊勢佳世 撮影:田中亜紀】
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ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 舞台奥の大きな壁が回転扉になっており、ぐるりと回って空間を斜めに区切ります。効果音と照明の変化で鮮やかに、美しく場面転換。ほれぼれします。

 島の友人で料理人の藤枝(緒方健児)は、もう1人の自分(=ドッペルゲンガー)とばったり出会って、ショックで入院中。要は自分を追ってきた滋の他に、東京で働いている滋がいると知り混乱します。
 実は、島の飲食店が入っているビルが建つ“土地”に不思議な力があり、そこでは人間が望んだものが物体となって出てきてしまうのです。島は誰もいないトイレの中に藤枝がいると信じ込んだ。要は滋に追いかけてきて欲しかったあまりに、島の後ろ姿に滋を想像してしまったんですね。

 要のそばにいる滋は要との記憶しか持ち合わせておらず、東京にいる滋は要との記憶だけが抜け落ちており、ドッペルゲンガー(同一人物)というより2人合わせて1人であるというのがミソでした。
 2人に割れた滋はそれぞれに同じ時間を違う場所で生きており、2人を出会わせて合体させるにしても、その時期の2人の別々の記憶が1つの体の中で重複してしまうことで、精神に異常をきたす可能性があります(藤枝のように)。そこで要の兄が考え出したアイデアが非常に斬新でした(笑)。3人目の滋を生み出して、2人目の滋が生まれてから今までの記憶を、その中に入れてしまおう、1人目との重複記憶をなくそうということだったのです。最初はその意味がわからなくて置いていかれそうになりました(笑)。

 1人目と2人目の滋の合体はできたものの、新しい3人目の(ほんの数カ月の記憶しかない)滋が実体として残ってしまいます。兄はそれを「CD-ROMのようなデータにすぎない」と言い殺そうとしますが、要は「データではなく記憶だ」と反論します。
 要「データと記憶は違う。記憶なら忘れることができるんだから。」
 3人目の滋を抱きしめて「滋(本人)のことをすっかり忘れられたら、この人は消えるだろう」と言う要。情報の入れ物のように扱われていた滋が個性を持った人間に見えてきて、難しいパズルを解くように冷静に見つめていた舞台が、体温を帯びてむずむずとうごめくように感じました。知的なSF世界から一気に人間ドラマへと変貌して驚きました。

 要の実家の家政婦を演じた加茂杏子さんと、シュークリームの実験に付き合わされた学生を演じた大窪人衛さんの、独特のトボけた雰囲気に癒やされました。これまでのイキウメにはなかったキャラクターのような気がします。

≪東京、大阪≫ ※舞台写真は劇団よりご提供いただきました。
出演:浜田信也、盛隆二、岩本幸子、伊勢佳世、森下創、窪田道聡、緒方健児、安井順平、大窪人衛、加茂杏子
脚本・演出:前川知大 美術:土岐研一 照明:松本大介(enjin-light) 音楽:安東克人(SoundGimmick) 音響:鏑木知宏 衣裳:今村あずさ(SING KEN KEN) 演出助手:石内エイコ 舞台監督:棚瀬巧 谷澤拓巳(至福団) 制作:中島隆裕 吉田直美 演出部:渡邉亜沙子 照明操作:吉村愛子 ヘアメイク:前原大祐 衣裳部:山本満穂 橋本加奈子 大道具制作:C-COM舞台装置 小道具:高津装飾美術(株) 運搬:(株)マイド 宣伝美術:図工ファイブ 宣伝写真:TALBOT. 宣伝写真ヘアメイク:高橋真弓(PRELL) 舞台写真:田中亜紀 稽古場助成:財団法人セゾン文化財団 助成:文化芸術振興費補助金 主催:イキウメ/エッチビイ株式会社
【発売日】2010/03/20 前売り3,800円 当日 4,000円(全席指定・税込み)
http://www.ikiume.jp/plankton.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2010年05月11日 23:59 | TrackBack (0)