坂手洋二さん率いる燐光群がイギリスの劇作家デイヴィッド・ヘアーさんの新作を本邦初演。ヘアー作品を上演するのはもう3度目なんですね。
2009年9月にイギリスで初演され、この4月まで上演されていた演目が、早くも日本語版として観られるのは、劇団が作家との信頼関係を築いてこられたからだと思います。ありがとうございます。
開演前にパンフレットの用語集をよく読んでおかれると良いと思います。
⇒CoRich舞台芸術!『ザ・パワー・オブ・イエス』
イギリスの国立劇場から新作執筆依頼を受けて、劇作家のデイヴィッド・ヘアー(John Oglevee)は金融業界の人々にインタビューをしていきます。登場するのは実在の人物ばかりのドキュメンタリー演劇です。
国立劇場が「世界金融危機はなぜ起こったか、いま何が起きているのか。」(公式サイトより)を劇作家に依頼することに、まず感動。
回収見込みのない債権(サブプライム・ローン)を証券にして、小分けにして販売していたことなどの事実を、当事者の生々しい言葉で伝えてくれるので、とてもわかりやすいです。
終わったことは振り返らない、過去に学ばない、反省しない銀行家たち。井上ひさしさんの「いつまでも過去を軽んじていると、やがて私たちは未来から軽んじられることになるだろう」という言葉を、より生々しい実感を持って、受け止めることができました。※現在、新国立劇場で上演中の『東京裁判三部作』のキャッチコピーになっている言葉です。
一部の役者さんのセリフがおぼつかなくて心配になりました。ヘアー役のJohn Ogleveeさんは日本語で話してくださるのですが、早口ですべるように語尾をにごしてしまうと、意味がわからなくなるんですよね(日本語は最後が大事)。もうちょっとゆっくりめに、丁寧に話していただけたらなぁと思いました。
ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。
「いっぱい儲けたんだから、それに見合った額の報酬があってしかるべき」というトレーダーの感覚は、言葉づらの意味だけを受け取るとなるほどねと思えるかもしれません。でも元手は自分の資金じゃないんですよね、そもそも。
「好況の後は不況、不況の後は好況がやってくる。経済は恩恵をもたらしてくれるから、損をするときは我慢をすればいい」という考えに対して、「損害をこうむるのは恩恵を受けた人じゃない、一般市民なんだ」という返答。全くそのとおりですよね。そこの部分を想像しないで、自分とお金だけの関係で片付けちゃえるから、振り返らないのかしら・・・。
いや、銀行家の方々のせいにするのが目的なのではなくて、今の資本主義経済のシステムが、もう頼れるものではないってことなんでしょうね。
≪東京、大阪、愛知≫ "The Power of Yes" by David Hare
出演:藤井びん 鴨川てんし 川中健次郎 猪熊恒和 大西孝洋 田中茂弘 John Oglevee 杉山英之 伊勢谷能宣 西川大輔 鈴木陽介 橋本浩明 中山マリ 南谷朝子 松岡洋子 樋尾麻衣子 安仁屋美峰 渡辺文香 桐畑理佳 横山展子 矢部久美子 根兵さやか
脚本:デイヴィッド・ヘアー 演出:坂手洋二 訳:常田景子 美術:島次郎 照明:竹林功(龍前正夫舞台照明研究所) 音響:島猛(ステージオフィス) 衣裳:宮本宣子 舞台監督:高橋淳一 演出助手:武山尚史 文芸助手:清水弥生・久保志乃ぶ・村松みさき イラスト:沢野ひとし 宣伝意匠:高橋勝也 制作:古元道広 近藤順子
【発売日】2010/03/27 全席指定 一般前売3,600円 ペア6,600円(前売・予約のみ) 当日4,000円 大学・専門学校生3,000円 高校生以下2,000円 (学生券は前売・当日共通料金 劇団予約のみ 受付で要学生証提示)
http://www.alles.or.jp/~rinkogun/index.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
便利な無料メルマガも発行しております。