REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2010年06月17日

【レポート】芸団協2010「ラウンドテーブル『劇場法(仮称)で何が変えられるのか?!』」【3】04/30-05/01芸能花伝舎1-1

 『劇場法(仮称)で何が変えられるのか?!』【3】では、東京芸術劇場副館長の高萩宏さんのお話をまとめました。
  ⇒劇場法(仮称)RT【全体のまとめページ

 高萩さんは野田秀樹さんと劇団夢の遊眠社で長年一緒に劇団活動をされていた方で、昨年「僕と演劇と夢の遊眠社」を上梓されました。

僕と演劇と夢の遊眠社
高萩 宏
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 9519

 ■実演芸術のある生活のメリットを社会に訴えていく
 ■芸術施設を“効率的に運営する”のは語義矛盾ではないか
 ■伝統の文化を次へとつないでいくこと
 ■日本はチケット代が高すぎる
 ■日本は文化のフリー・ライダー(タダ乗り)
 ■芸術に携わる者の説明責任

■実演芸術のある生活のメリットを社会に訴えていく

 私はもともとは劇団に所属しており、そこから民間劇場に移って、今は公共劇場(世田谷パブリックシアターから東京芸術劇場)で働いている。劇団よりも劇場にいる方が、長期的な企画に取組めたり、劇場の持っている可能性を引き出したりと、色んなことがやりやすくなった。でも公共劇場は決して芸術家のものではない。たとえば、建物としての世田谷パブリックシアターは世田谷区のもの。だから、ステークホルダーである、住民はもちろん、自治体の方々、議会の議員さんとも、うまくやっていかなければならない。

 昨年の事業仕分けの議論を見てもわかることだが、実演芸術がどのくらい現代の社会に役立っているのかが、世間にあまり伝わっていないのだろう。
 子供のころからしっかり実演芸術に触れて、その楽しさを知ることができれば、実演芸術の創造性、表現力からコミュニケーション能力を養い、そして社会との関係をしっかり取り戻すことができる。そういったことをちゃんと実施し、劇場が存在する社会的意義を訴えていくことが大事。
 実演芸術に興味のない人たち(日本人の7~8割)に、実演芸術の拠点があっても良い、舞台芸術に少しは税金が使われてもいいんだ、と思ってもらわないといけない。そうじゃないと我々に先はない。


■芸術施設を“効率的に運営する”のは語義矛盾ではないか

 劇場法(仮称)については、世田谷パブリックシアターで働き始めたことから、是非作ってほしいと思っていた。世田谷だけのものでなく、国のものであり、世界のものである感覚が必要。まず「設備が整っている公立文化施設は劇場である」と認めてもらうこと。指定管理者制度の仕様書には「効率的に運営すること」と書かれているが、スポーツ施設や駐車場に効率を求めるのは良いとしても、芸術施設を「効率的に運営する」のは語義矛盾ではないか。だからせめて、単なるアマチュアの発表用の公民館と、技術の責任者・芸術的責任者・経営の責任者がいて専門に舞台芸術作品を作ったり、提供する施設を区別してもらいたい。

 東京芸術劇場は実際のところ、指定管理者制度になったことでスタッフがかなり減ってしまった。貸し館をするだけならなんとか回せるが、自主事業をするとなるととても人手が足りない。でも、定員の枠があって職員をこれ以上増やすことができないので、今は自主事業ごとに新たに委託したりしている。劇場法(仮称)が成立し、助成制度も変われば、劇場でのスタッフの働き方なども改善されると期待している。

 認定を受けた劇場の中で自主事業などの活動には、劇場を設置した自治体からだけでなく、国などからも支援をもらい、民間・個人の寄付を受付け、さまざまな支援を受けつけられるようにする。
 公益法人改革もかなり大きい影響がある。公益法人になれば税制優遇もあるので、寄付金も集めやすい。東京都歴史文化財団は4月1日に公益認定を受けた。


■伝統の文化を次へとつないでいくこと

 舞台芸術について言えば、日本は能、歌舞伎、文楽などの海外が憧れるような遺産を持っている。我々は島国の中でそれだけの文化を培ってきた。経済力だけじゃなく、それらの素晴らしい遺産を持っている民族であり、知恵も価値も可能性もあるんだと発信していくべき。
 また、ただ保存するだけじゃなく、次へとつないでいくこと。情報革命の中にある現状に合わせた舞台作品を作る能力がある、文化力があるんだと見せることで、日本の発言力が増していくのではないか。


■日本はチケット代が高すぎる

 日本はチケット代が高すぎる。それを言っていかなければいけない。売れている公演もあるかもしれないが、チケット代が高すぎることによって、観るのを妨げられている人たちはすごく多い。高いチケットだから宣伝をせねば売れないので、ますます高くなっている。
 ピナ・バウシュを1,000円で観られるドイツと、15,000円も出さないと観られない日本では、絶対に何かが違う(ドイツでは芸術施設でかかる経費の9割が公共の支援で成り立っている)。


■日本は文化のフリー・ライダー(タダ乗り)

 平田オリザさんが言っていたことでもあるが、日本の文化は他の先進国が作った同時代の芸術活動(外国の舞台芸術など)に、タダ乗りしているところがある。自国の伝統の文化の保存、現代を映すような芸術活動にちゃんと税金をつかって作っていない状態は、先進国が現代の先端的芸術分野を支えていることを考えると、フリー・ライダー(タダ乗り)状態といえるのではないか。先進国に追いついて経済大国になった今、そこは埋めていかなきゃならない。

 10年後、20年後、30年後を考えると、将来の日本社会はかなりきわどいところに来ているのではないか。今のまま、公共的にはフリー・ライダーでいると、高額のチケット代に支えられている歌舞伎は、残って行けないかもしれない、という恐怖がすごくある。日本が持っている世界に誇れる文化をどう継続していくのか。そこは、人材育成、興行形態などの制度を変えていくしかない。僕は、この情報化社会の中で実演芸術が生き残っていくためには、まずは劇場が(公立文化施設から)きちんと役割を果たさなければならないと思っている。そのためにも劇場法(仮称)が必要。


■芸術に携わる者の説明責任

 日本の文化芸術を擁護したいと思うなら、舞台芸術関係の人でも、音楽、美術などの他の芸術ジャンルの人とも、文化政策について話が出来なければいけない。もちろん芸術分野以外の世界にも、芸術分野の必要性を説いていくことが必要。ちょうど今、事業仕分けで、古くから残っている色んな団体への助成金を大胆に切り刻んでいる。「今、この分野に税金を使っていいんだ」という話をしないとだめ。

 これから実演芸術を仕事にしていきたいと思っているのなら、是非自分たちのやっていることにどういう社会的・今日的意義があるのかを、言葉にしていく作業をしていただきたい。それから他の分野の人たちと、どんどん話をしていくこと。自分たちの将来を守る言葉を持ってもらえたらと思う。


芸団協ラウンドテーブル「劇場法(仮称)で何が変えられるのか?!」
主催:社団法人日本芸能実演家団体協議会
http://www.geidankyo.or.jp/12kaden/04pro/manage/gekijo_rt100430html.html


※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 2010年06月17日 18:56 | TrackBack (0)