ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが作・演出される劇団ナイロン100℃の第35回公演です。またもや新作。初日に拝見しました。上演時間は約3時間30分(途中15分の休憩、カーテンコール3回を含む)。
灰色の廃墟にとどろく笑い!笑い!笑い!!これまでもケラさんにはいっぱい笑わせていただきましたけど、ナイロン100℃の公演でこんなに笑ったのはすごく久しぶりです(思い出せる限りでは『TECHNO BABY』以来かも。笑いの種類はずいぶん違う気がしますが)。大倉孝二さん反則!最高!
一般6,800円ですが、学生割引券4,200 円(チケットぴあのみ取扱い)もあります。「椅子は補助椅子ですが、観やすい!」とのこと。
⇒ケラさんのツイッター
⇒7月5日のケラさんのツイート
⇒CoRich舞台芸術!『2番目、或いは3番目』
≪あらすじ≫
荒れ果てた廃墟にたどり着いた一行。「この町は私たちの町よりももっとひどい。困っている人たちを助けましょう」。でも崩れかけた家屋から出てきたのは、笑いを絶やさない元気な住人たちだった。
≪ここまで≫
まず客席の方までせまる装置(客席の天井まで続きます)と衣裳が豪華で、満たされた心地。全体的に暗い雰囲気ですが、開幕してすぐにブっと吹き出し笑い(笑)。
不条理で残酷な状況にある登場人物らが、次々によどみなく笑いを生み出していくのは、別役実さんの作品のよう。笑いに笑いがかぶさって物語がかき消され、流れ去って記憶に留まらなくなってしまうのは、岩松了さんの作品に似た感触でした。
ケラさんは「デヴィッド・リンチと小津安二郎と別役実を足したような作品をつくりたい」(⇒こちらより)とおっしゃっていたようですね。たしかにデヴィッド・リンチっぽかった!“小津安二郎”色は私には読みとれず。そういえば家族(?)や姉妹の場面も多かったですね。
小出恵介さん、谷村美月さんという人気スターを客演に呼ばれていますが、あくまでも劇団公演のゲスト(主役ではない)であったのが良かったです。
ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。
オープニングの映像(上田大樹)は今回もまた、期待を上回る凄いものでした。美術と一体化してるだけでなく、作品の重要な要素(昔あったアーケードが骨だけになった屋根に映される)も含んでいました。最後に老人夫婦(大倉孝二&長田奈麻)だけが残る場面では建物などの枠が映像でカラフルに色付けされて、時代も場所も定まらないどこかの町の話なのだと思えました。つまり私が暮らす東京にも当てはまります。
来訪者たちの1人であるジュゼッペ(小出恵介)は、パっと見は優しそうな好青年ですが、実は残虐な殺人鬼。“悪い小出恵介”は超魅力的でしたが、最後は復讐されてあっけなく死んでしまいました。私は彼が何らかの鍵を握る人物なのだろうと勝手に想像していたので、きっと残酷で悲惨な結末に導いてくれるのだろうと期待(?)しており、ちょっと肩すかし。いつもながらの勝手な思い込みでした(笑)。
※(刺されて)うなだれるジュゼッペを見たのはダーラ(峯村リエ)だけなので、もしかしたらあの場面は幻だったのかも、とも解釈できますよね。
全身赤色の服を着ているのは国の役人たち。住人に無理難題を押し付け、さらりと嘘をついて命も奪おうとします。人々は反抗するものの結局は従わざるを得ない状態に。最後は来訪者たちも住人たちも、「毒ガス散布地域に指定されたので…」みたいな理由で突然立ち退きを強いられます。げらげら笑って楽観的に旅立ちますが、実は全員が難民になってしまったんですよね。十分に残酷で悲惨です。
『2番目、或いは3番目』が表しているのは「次に国が救済してくれるのは私の町です」「いいえ、次はうちの町だよ」と、順番を待つ人たちのことなんですね。でも実際のところは「次はあなたですよ」と言われたまま全く助けは来ません。顔の前に人参をぶらさげられた馬のように、決して叶わない希望を信じて待つ人々・・・。
映像で舞台美術がカラフルに染められるラストシーンでは、ムースコ(みのすけ)が描いた絵本をダーラ(峯村リエ)の娘が愛読していたことや、双子の姉妹(犬山イヌコと松永玲子)が1人の画家を取り合っていたことなど、人間らしい温かい思い出がよみがえりました。どんなに悲惨な状況にあっても私たちは詩を味わって感動したり、誰かに恋したり、ギャグに大笑いしたりするんですよね。逆もまた然り。どうにか幸せを見つけてがんばって生きていても、誰か・何かがその幸せを突然奪うことが、いつだって起こり得るんですよね。気づかない内にすべて失っているのかもしれません。
拍手が鳴りやまず3度目のカーテンコール。いきなりみのすけさんが小出さんに挨拶を振りました。「ウソでしょ?」と言いながらも、小出さんはしっかりきれいに締めの言葉を言われました。「初日にお越しくださってありがとうございました。これから1ヵ月続く公演です。もう一度観に来てもらっても嬉しいです。今日はありがとうございました」という感じ。さすがですね。
≪東京、大阪、愛知、広島、福岡、新潟、福島≫ NYLON100℃ 35th SESSION『2番目、或いは3番目』
出演:〈来訪者たち〉ダーラ:峯村リエ フラスカ:緒川たまき コッツオール(会長):マギー ヤートン:三宅弘城 ジョゼッペ:小出恵介 〈町の人々〉姉妹・姉:犬山イヌコ 姉妹・妹:松永玲子 老人:大倉孝二 老人の妻:長田奈麻 ムースコ(老人の長男):みのすけ ハンナ(老人の長女):村岡希美 カーヤ(ムースコの娘):谷村美月 〈隣町の子供たち〉トピーアス:伊与顕二 ヌヌーチエ:白石遥 トットラータ:斉木茉奈 〈政府の男〉ヴァインツ:喜安浩平 〈ハンナの見合い相手〉ポーター:藤田秀世
脚本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ 音楽:朝比奈尚行 美術:BOKETA 照明:関口裕二(balance,inc.DESIGN) 音響:水越佳-(モックサウンド) 映像:上田大樹 大鹿奈穂(&FICTION!) 衣裳:前田文子 ヘアメイク:武井優子 演出助手:相田剛志 舞台監督:宇佐美雅人(バックステージ) 演出部:松井啓悟 元風呂早苗 野部友視 照明操作:瀬戸あずさ 音響操作:照山未奈子 大道貝:櫻井敏郎(C-COM舞台装置) 唐崎修(smile stage) 音楽助手:鈴木光介 映像助手:横山翼 小林妙子 衣裳進行:畑久美子 衣裳助手:佐野友余 ステージング:長田奈麻 殺陣指導:明樂哲典 劇中アナウンス:吉増裕士 記録スチール:引地信彦 大道具製作:C-COM舞台装置 テルミック 美術工房拓人 小道具:池上三喜(高津映画装飾) 小道員製作:土屋工房(土屋武史) 松崎久美子 電飾:イルミカ東京・ 音楽協力:studio sonorus 演奏:松本健一 映像協力:インターナショナルクリエイティブ 衣裳協力:東京衣裳(森田恵美子 吉野真理子 滝沢亮子) 履物協力:神田屋 運搬:マイド プロデューサー:高橋典子 制作:仲谷正資 北里美緒子 太齋志保 佐々木悠 永田聖子 制作協力:児玉ひろみ 嶋口春香 広報宣伝:米田律子 製作:北牧裕幸 企画・製作:シリーウォーク キュープ
【休演日】7/24 8/1,8,15【発売日】2010/04/24 6,800円(全席指定・税込) 学生割引券 4,200 円(前売のみ/税込/チケットぴあのみ取扱い)
【学生割引券について】リーズナブルな価格で多くの学生の皆様に作品をご覧いただきたく、学生割引券をご用意致しました。※学生割引券は当日指定席引換券です。当日劇場受付にて開演30分前より指定席券とお引換えします。お引換えの際は学生証をご提示ください。2名様以上の場合、席が離れる可能性があります。また、ご覧になりにくいお席になる場合もあります。尚、枚数には限りがあります。ご了承ください。※学生割引券はチケットぴあのみのお取扱いになります。
http://sillywalk.com/nylon/
http://www.cubeinc.co.jp/stage/info/nylon35.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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