2008年に初演され大好評だった『音楽劇 ガラスの仮面』(⇒記者会見)の続編『音楽劇 ガラスの仮面~二人のヘレン~』の稽古場に伺いました。初めての蜷川幸雄さんの現場は、刺激的で勉強になって、そして・・・ものすごく楽しかった!あっという間の約5時間でした。
「ガラスの仮面」は美内すずえさんの歴史的大ヒット漫画。北島マヤと姫川亜弓という対照的な2人の女優が、ライバルとして互いに刺激し、ぶつかり合い成長していく物語です。
舞台化第2弾でメインに取り上げるエピソードは舞台『奇跡の人』(漫画では“炎のエチュード”編)。公演公式サイトのINTRODUCTIONとSTORYを読んでおけば、前作を観ていなくても大丈夫!友人、恋人、ご家族と一緒にぜひ劇場で演劇の醍醐味を体験してください♪
●彩の国さいたま芸術劇場『音楽劇 ガラスの仮面~二人のヘレン~』
08/11-27彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
※チケットは発売中です。S席6,000円、A席4,000円
⇒公演公式サイト ⇒公演公式ツイッター
⇒げきぴあ「蜷川演出版『ガラスの仮面』稽古場より」
⇒CoRich舞台芸術!『音楽劇 ガラスの仮面~二人のヘレン』
『音楽劇 ガラスの仮面~二人のヘレン~』は8月11日(水)の初日に向け、6月にのべ1週間ほどの単発の稽古をおこない、7月5日からプレ稽古開始、そして7月14日から本稽古が始まりました。私が伺ったのは7月27日です。
稽古開始時刻(13時)の15分前に到着すると、稽古場では大勢の出演者がダンスでウォームアップ中。演出の蜷川さんはじめ大勢のスタッフもすでに揃っていました。出演者は11~12時ぐらいには集合し、毎日バー・レッスンやダンスをされているとのこと。
【写真:稽古開始前にダンスでウォームアップ】(C)宮川舞子
稽古場に来ていた関係者は演出部、制作を含めて30人のスタッフに、38人の出演者。そして2日前に公演終了した『ファウストの悲劇』の出演者も多数見学にいらしていたので、およそ100人弱(!)もの演劇関係者が1つのスタジオに集っていたことになります。
この日のメインは目が見えない、耳が聞こえない、言葉を話せない三重苦の少女ヘレンと、ヘレンの家庭教師アニー・サリバン先生が食事をする場面でした。
演技開始や転換きっかけの指示を出すのは演出補の井上尊晶さん。井上さんは稽古の進行役をしながら、様々な演出的判断もされていました。蜷川さんの右腕的存在として、あ・うんの呼吸で共同作業をされているご様子。それに合わせる演出部の方々の動きは、安定感があって静かで、無駄が限りなく省かれるように見えました。
ヘレンを演じるのは北島マヤ役の大和田美帆さんと、姫川亜弓役の奥村佳恵さん。1役を2人の女優が競い合うのが『二人のヘレン』の目玉のひとつです。まず大和田さんのヘレンが登場しました。サリバン先生を演じるのはマヤの親友・青木麗役の月川悠貴さん。
椅子に座り、テーブルについて食事をするようサリバン先生が指導するのですが、ヘレンはいやがって暴れます。大和田さんはとっても元気で明るくて、弾む声に軽やかなリズムを感じさせる女優さん。この場面では、何より身体能力の高さに目を見張りました。静止する時はピタッと瞬時に止まり、すべる、ぶつかる、転ぶ、寝転がるといった大きな動きにバネがあります。反射神経が鋭い!そして目に宿る気迫が凄い!ここではマヤでありながらヘレンも演じますので、役柄の素早い切り替えも鮮やかでした。
【写真左から(敬称略):大和田美帆、新納慎也】(C)宮川舞子
場面が終わった後、蜷川さんが大和田さんの席まで歩いていって助言をされました。
蜷川「狂気のパターンがもっと欲しいんだ。世界に拒絶されていることが、どんなことかわかってんのか、バカ!だって目が見えないし耳が聴こえないんだぞ?世界に受け入れられていないことへの(ヘレンの)苛立ち、怒りが足りない。俺はあの程度(の演技)じゃ許さない。これが(『ガラスの仮面』じゃなくて)『奇跡の人』だったら公演中止だ。」
大和田さんは真剣な面持ちで蜷川さんの言葉を聞き、「はい」とはっきりとした低い声で返事をされました。
字面だけだと「蜷川幸雄のダメ出しって噂どおり厳しいんだな~」「出演者は忍耐強くないとつとまらないね!」などと受け取られるかもしれません。たしかに厳しいし忍耐も必要だと思います。でも蜷川さんの言葉はただの罵声ではありませんでした。繰り出される言葉がとても面白くて、そして愛情が全身からあふれ出ているのがわかるので、もっともっと聞いていたくなるんです。単語の意味はきついはずなのに、胸に届くのは「がんばれ!」「応援してるぞ!」「一緒にやっていこう!」という本気の激励。私ったらすっかり魅せられて、「あぁ私も蜷川さんにバカ!って言われたい!!」と思っちゃうほどでした(笑)。
次は奥村佳恵さんのヘレンです。サリバン先生を演じるのは姫川亜弓の母・歌子役の香寿たつきさん。奥村さんはスラリと背が高く、バレエで鍛えた抜群のスタイルにクールな顔だちの美女です。でもヘレンになると長い黒髪を振り乱し、なんとも表現しがたいうめき声をあげて暴れます。言うまでもなく大和田さんのヘレンとは全く違いました。背筋がまっすぐに伸びた涼やかな立ち姿が、思わぬ方向へ曲がって崩れていくので、怒り、悲しみが際立つのです。でもどんなに“汚れ役”を演じても品が悪くならないので、サラブレッドで才色兼備の女優・姫川亜弓役にぴったりなんですね。
【写真左から(敬称略):香寿たつき、奥村佳恵】
“二人のヘレン”はまさにこの稽古場に居ました。蜷川さんは大和田さんと奥村さんを同時に、平等に叱咤し、発破をかけ、激励します。2人はヘレンという大役を競い合う、マヤと亜弓そのものでした。またこの場面は“『奇跡の人』の稽古場”であるため、2人を見守るスタッフも役者さんが演じています。つまり『音楽劇 ガラスの仮面~二人のヘレン~』は、この稽古場そのものなのです。
蜷川「俳優は駒じゃない。人間なんだから、それぞれの人生があるんだから、自分に見えている、その光景を舞台に持ち込めばいい。観客に本物のバックステージを見せて、『芝居ってこうなんだ』とわかってもらえ!演劇は舞台と観客とのコミュニケーションなんだから。」
奥村さんの場面が終わった時、蜷川さんがあっと驚く提案をされました。ある重要な場面が追加されたのです。脚本の流れを大幅に変える判断でしたので、稽古場全体にピタリと息が止まったかのような静寂と緊張が走りました。でもそれはほんの一瞬。全員が素早く、静かにその準備を取りかかり始め、空気は一変しました。70人もの人間が別々の行動をしながら、同時に1つの目標に向かってまい進している・・・私は背筋がぞくぞくして興奮しました。何か新しいことが起こって、今までのことをひっくり返すような違う世界が、見えるかもしれない。そのことには蜷川さんも気づいていました。
蜷川「おーい!いい流れがある内にやるぞ!早く!!」
お芝居が生ものであるのと同様、稽古場も生もの。いつ何が起こるか、生まれるかわかりません。この時に追加された場面で、大和田さんと奥村さんの2人のヘレンは、蜷川さんから「今のは甲乙つけがたい。」という褒め言葉を見事に引き出しました。
稽古は事前に伺っていた予定よりも1時間以上オーバーして、17時15分に終了。場面の追加があったからかもしれません。稽古場の片付けが進む中、5分ほどお時間をいただき、蜷川さんにお話を伺いました。
⇒稽古場レポート②に続く。
出演:大和田美帆 奥村佳恵 ・ 細田よしひこ 新納慎也 原康義 月川悠貴 岡田正 黒木マリナ 立石凉子 香寿たつき ・ 夏木マリ
花山佳子 妹尾正文 飯田邦博 難波真奈美 新川將人 井面猛志 篠原正志 佐野あい 福田潔 澤魁士 沓沢周一郎 町田正明 多岐川装子 池島優 遠藤瑠美子 森野温子 宮田幸輝 川畑一志 江間みずき 西村篤 周本えりか 隼太 土井睦月子 露敏 深谷美歩 齋藤美穂 横山大地
原作:美内すずえ 脚本:青木豪 演出:蜷川幸雄 音楽:寺嶋民哉 美術:中越司 照明:室伏生大 衣裳:宮本宣子 音響:井上正弘 音楽監督:池上知嘉子 振付:広崎うらん ヘアメイク:佐藤裕子 歌唱指導:泉忠道 演出補:石丸さち子 井上尊晶 演出助手:藤田俊太郎 舞台監督:白石英輔 宣伝美術:阿部剛(Seagull) 写真:大原狩行 宮川舞子 主催・企画・製作:日本テレビ・財団法人埼玉県芸術文化振興財団 協力:白泉社 後援:さいたま市教育委員会 株式会社FM NACK5
一般:S席6,000円、A席4,000円 メンバーズ:S席5,400円、A席3,600円
http://www.saf.or.jp/arthall/event/event_detail/2010/p0811.html
http://www.saf.or.jp/arthall/event/event_detail/2010/glass/index.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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