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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2010年10月10日

SPAC『令嬢ジュリー』10/02-03, 10/09-10静岡芸術劇場

 静岡舞台芸術センターでは「SPAC秋のシーズン2010」の真っ最中。昨日、フランスの演出家フレデリック・フィスバックさん演出の『令嬢ジュリー』を観てきました。幕開けから「舞台美術が凄い」という噂はあって、実際、もの凄かった(笑)。あれは劇場の中に建てられた家ですね。上演時間は2時間。

 一般向けの公演は土日ですが、平日公演には静岡の高校生が招待されています。これを高校生が観るなんて・・・それも凄い。
 公的なサポートがなければ一般4,000円なんて考えられない、贅沢な作品です。ペアなら1人3500円!(大学生・専門学校生は2000円、高校生以下は1000円) 東京在住の私には静岡までの旅費がかかりますが、十分以上に満足させていただきました。

 ⇒舞台写真 ※CGじゃないです!
 ⇒CoRich舞台芸術!『令嬢ジュリー

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 夏至祭の前夜。令嬢ジュリー(たきいみき)は台所にいる召使いジャン(阿部一徳)のもとを訪れる。ジャンには同じく召使いのクリスティン(布施安寿香)という許嫁がいたが、ジュリーはお嬢様としての特権を行使して、ジャンに自分を楽しませるように強要する。二人はダンスを踊ったり、お酒を飲んだり、しばし愉快な時間を過ごすのだったが、昔から憧れていたと口説くジャンにのせられたジュリーは、情事におよんで・・・。
 ≪ここまで≫

 『令嬢ジュリー』はスウェーデンの劇作家ストリンドベリの有名古典戯曲(1888年)ですが、現代的な装置、衣裳、音楽、そして演技によってすっかり現代のお話になっていました。もともとは3人芝居ですが、多数のコロスがいることによって「ジュリーとジャンとクリスティンの話」から、「どこにでもいる誰か(つまり私)の話」になっていました。
 真っ白な壁に光が反射するので舞台全体は白く明るいですが、間接照明だからなのか、役者さんの顔がはっきり、くっきりとは見えません。それもこの物語の普遍性を伝わりやすくしていると思います。

 羽目を外したバカ騒ぎに乗じて、一夜の恋に身を任せた身分違いの男女。あるルールにのっとった演技合戦(色仕掛け、恋の駆け引き)から、本音のぶつかり合いへと2人の関係は進展してしまいます。でも喧々諤々の生々しいケンカとしては描かれません。感情の高まりもぶつかり合いも、相手のある行動に対する反応として、さりげなく、突然に表出します。目に見えているのは一枚の絵画のような、音が鳴っていても静けさが感じられるほどの美しい風景ですが、感情のうねりが常に空気を揺り動かしています。

 コロスが多数出演しますが、基本的には3人芝居、それも2人っきりの会話のシーンが多いです。凝縮された空気が長時間持続しますので、観客全員がそれに付いていけるかどうかというと、難しいと思います。白状しますが、私も途中で少々疲れてしまいました。でも最後の場面は、2人っきりの長い長いシーンなのですが、ものすごく官能的で引きこまれっぱなしでした。そしてハっと驚く幕切れ。照明が落ちるタイミング、暗闇の深さがまた格別です。

 ジュリー役のたきいみきさんの、いつもながらの美貌にうっとり。見かけが美しいだけでなく、身体、声、感情のコントロールが巧みなのが素晴らしいです。
 ジャン役の阿部一徳さんは、衣裳の変化(といってもほぼ1種類の衣裳を脱いだり着たりするだけ)で性格を豹変させます。存在の重みと安定感にほれぼれします。最初のシーンの色っぽさときたら、もう!!

 ここからネタバレします。

 楽しいパーティーが狂気の沙汰へと変わることはよくあります。ジュリーとジャンの情事も一瞬の気の迷いから生まれたのかもしれません。でもそれこそ人間らしさであり、出来事そのものの美しさは否定できません。徐々に距離を縮めていく2人にわくわく、どきどきしました。そして関係が予想していなかった段階に進むと、2人はお互いの育ちや考え方のあまりの違いに翻弄されます。会話の主従関係が瞬時に入れ替わるのがスリリング。

 ジュリーの父親である伯爵が不在の間、ジュリーは邸宅の女主人でした。でも伯爵が帰ってくればその天下も終わり。ジャンも、ジュリーと2人で逃亡しようと計画したものの、伯爵帰宅と聞いただけで気持ちが縮こまってしまいます。自分を縛るルールから逃れようとしたものの、そのルールに飼いならされていることを自覚するのです。身分制度や宗教(国教)などがほぼないとされる現代日本にも当てはまります。

 ジュリーは折れそうなほど細くて、高さのあるハイヒールを履いています。ヒールは女性の象徴ですよね。女ならではの武装のファッションでもあり、肉体的な弱さと、プライドや強がりも表していると思います。それを男ものの大きなブーツに履き替え、やがてブーツも脱いで素足になるジュリー。最後にはありのままの自分で勝負するしかないんですよね、人生。
 ジャンは艶やかな黒いスーツで色気と知性を前面に出していましたが、1枚、また1枚と脱ぐ(着る)うちに体の中の野性がにおい立ちます。衣裳ひとつで紳士にも獣にもなれるんですから、洗練された演出および演技に息を飲みます。俳優は立ち姿で決まるものだなと思いました。

一般公演:10月2日(土)16時30分開演、3日(日)14時開演、9日(土)16時30分開演、10日(日)14時開演
出演:たきいみき 阿部一徳 布施安寿香
コロス:青島美和、秋山淑恵、上山翼、串田仁美、佐藤友紀、杉浦南美子、蛸島慎司、仲村暢人、成田颯太、宮下泰幸、村上厚二、八幡みゆき、米川貴久、ブノア・レジヨ、大内米治、若宮羊市
演出:フレデリック・フィスバック 脚本:アウグスト・ストリンドベリ 訳:毛利三彌 美術:ローラン・P・ペルジェ 演出助手:ブノア・レジヨ 通訳:石川裕美 演出協力:芳野まい 舞台監督:村松厚志 装置製作:彦坂玲子 舞台:山田貴大、佐藤洋輔 衣裳製作:駒井友美子 照明:吉本有輝子 照明操作:川島幸子 音響:青木亮介 制作:高林利衣、仲村悠希
チケット:4,000円/ペアチケット(2枚)7,000円/大学生・専門学校生2,000円/高校生以下1,000円
http://www.spac.or.jp/10_autumn/julie
http://www.spac.or.jp/10_autumn/index.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2010年10月10日 11:26 | TrackBack (0)