早船聡さんが作・演出されるサスペンデッズと、俳優集団ハイリンドとの合同公演です。どちらの劇団も大好きなので嬉しい!しかも早船さんの書き下ろし&演出です。
チラシのあらすじにあるように、1944年の東京と1945年のオレゴン、2010年の日本が舞台の物語です。戦争が題材ですがとってもコミカルで、笑いつつ、しみじみと感じ入りつつの充実の観劇でした。上演時間は約1時間40分。
サスペンデッズは「CoRich舞台芸術まつり!2009春」準グランプリ受賞劇団です。副賞としてCoRich舞台芸術!TOPページにバナーが掲載されています。
⇒wonderland初日レビュー(2010/10/15午後加筆)
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≪あらすじ≫
祖母が入院する病室の前にいる孫(多根周作)。祖母が書きあげたという彼女の自分史を手にする。そこには1944年、終戦間際の日本のごく普通の家庭の記録が書かれていた。
≪ここまで≫
和紙を思わせるブラインドが舞台奥をぐるりと丸く囲む抽象舞台。役者さんが1人で数役演じ、戦時下に生きる平凡な人々の生活を生き生きとコミカルに描きます。六十数年前の日米間の戦争だけでなく、今、身近にある日常の戦争をリアルに感じさせ、私たちがそれに対して何ができるのかを考えさせてくれました。
役者さんは感情と身体の動きが一致する、いわゆる心理的リアリズムにのっとった確実な演技で魅せてくれます。両劇団とも所属する役者さんの技術が高いので、演出の狙いどおりに場面の意図を伝えてくれたように思いました。けっこうベタな笑いが多いんですが、誘いに乗っかって存分に楽しませていただきました。
劇場が、というか、舞台が狭すぎるなぁと思いました。いい脚本だし役者さんも達者だし、あの小さな空間だともう、感情も世界観も、あふれかえって飛び出ちゃってる印象。役者さんにとっても演出の早船さんにとっても、ちょっと小さ過ぎなのではないかと。間近で観られるのは贅沢といえば贅沢なんですが。これまで両劇団の公演をよく観てきた一観客としては、規模の意味でもの足りなさを感じました。広い目の劇場でまた上演してくれないかなー!
ここからネタバレします。
多根周作さん演じる派遣会社社長の和彦は父母に早くに先立たれ、祖母に育てられました。結婚して女児をもうけましたが妻(はざまみゆき)と離婚。10歳になる娘は妻と暮らしており、自分は若い恋人と2人で生活しています(どうやら離婚の原因は彼の浮気かも?)。取引先の会社が2社同時に不渡りを出し、急に経営状況が悪化。祖母が入院する病院にまで借金取り(伊藤総)が押し掛けてきました。元妻の実家は裕福で、彼女はボランティアで海外のある紛争地域にこどものための図書館をつくる活動をしています。現地に行く際に娘も連れて行くという元妻の考えに、和彦は猛反対。2人の間にある溝がいかに深いかが、さりげない会話からひしひしと伝わってきます。これが2010年のお話。
最初のこのシーンがすっごく面白くて、にやにやしながら見ていました。多根さんがはざまさんにつっかかっていくタイミングが絶妙。借金苦を背負う姿のリアリティーったら!借金取り役の伊藤総さんのいやらしさもとても良かったです。
1944年の東京では、和彦の祖母の若い頃を多根さんが演じます。父と兄(佐野陽一と伊藤総)は戦死。下宿していた書生(伊原農)も南方で戦死。母(枝元萌)は戦後すぐに病死。弟(佐藤銀平)は東京大空襲で、キリスト教信者だった親友(はざまみゆき)とその家族も神戸の空襲で亡くなります。祖母は戦争で何もかもを失った方だったんですね。
1945年のオレゴンだと、多根さんはキリスト教の教会の宣教師を演じます。身重の妻(はざまみゆき)と教会に来ていた子供たちを連れてピクニックに行ったところ、和彦の祖母が作っていた風船爆弾の爆発に遭ってしまいます。宣教師は他の場所に車を止めに行っていたので無事でしたが、妻も子供たちも全員が死亡。彼もまた、爆弾で何もかもを失います。
考えてみたら和彦も、妻子と別れ、祖母が死に、会社をたたみ、きっと恋人にも去られるでしょうから、全てを失うのでしょうね。多根さんは時代を越えて「全てを失う人」3役を演じました。はざまさんは多根さんとペアになる親友や妻役で、信念を持ってそれに奉仕する純粋な人を演じています。その2人が2010年の最後の場面で、お互いの考え方がかけ離れていて、ずっと平行線だとしても、「それでも話をしよう」と約束します。祖母の書いた自分史を読んだ和彦が、「想像すること」をやってみたからなんですよね。それで歩み寄れた。
風船爆弾のことは耳にしたことがありましたが、全くと言っていいほど実態については知りませんでした。9000個も作ったなんて。和紙で。
佐野陽一さんの鶏役は凄い破壊力だったな~(笑)。素晴らしかったです。母親役の枝元萌さんの、夫と長男の戦死の報を受けた時の、感情を体の奥に押し込めた演技がとても良かった。はざまみゆきさんのもんぺを履いた清貧のキリスト教信者の少女役は、凛とした背筋に清純さが光って見えるようでした。佐藤銀平さんはいじめられっ子の末っ子役が可愛らしかったです。伊原農さんは入院中の失業者役も、肝臓病の書生役も、色気づいたアメリカ人の青年役も、人懐っこさというか、適度な色気があっていいなと思いました。
出演:伊藤総/佐藤銀平/佐野陽一(以上サスペンデッズ), 伊原農/枝元萌/多根周作/はざまみゆき(以上ハイリンド)
脚本・演出:早船聡(サスペンデッズ) 舞台監督:井関景太・深沢亜美(るうと工房) 舞台美術:向井登子 照明:石島奈津子(東京舞台照明) 音響:平井隆史(末広寿司) 衣裳:大野典子 映像:タケウチヤスコ(朝焼けダイブ) 舞台説明:梅田泉 宣伝美術:西山昭彦 アートワーク:木村タカヒロ スチール:夏生かれん 撮影ヘアメイク:田沢麻利子 Webデザイン:薮地健司・夏子) ビデオ撮影:滝沢浩司 企画・製作:サスペンデッズ+ハイリンド 制作:上田郁子(オフィス・ムベ)・石川はるか 制作協力:山本亜希 協賛:イースターエッグ
【発売日】2010/09/17 前売/当日 3500円(全席指定) ハイリンド賛助会員 2500円 学生割引(高校生以下) 2500円(当日精算のみ)
☆先行割引チケット販売→9月11日~16日 9月11 日より16 日まで、メール申込による先行割引チケットを販売致します。この期間中にチケットをお買い求め頂くと、一般料金が500 円引きの3,000 円になります!下記のアドレスへお名前、ご連絡先、ご希望日時、枚数を明記の上お申し込み下さい。
http://www.hylind.net/play20101014.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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