お能の作品をもとに現代劇を創作するシリーズの第5弾です(過去レビュー⇒1、2、3)。企画・監修は世田谷パブリックシアター芸術監督の野村萬斎さん。川村毅さんが脚本を書き下ろし、倉持裕さんが演出されます。キャストも舞台フリーク的には豪華ですね。
カラッとしてそうでいて、実は濃い幽玄の世界でした。短編3本立てで、上演時間は約2時間15分(途中休憩1回を含む)。
⇒CoRich舞台芸術!『現代能楽集Ⅴ「春独丸」「俊寛さん」「愛の鼓動」』
交差する直線がシャープで幾何学的な印象の抽象舞台。でも舞台奥の壁には白い雲がもくもく。その中にくっきりとした四角い窓のような穴が空いています。ルネ・マグリットの絵画を思い浮かべました。
装置や大道具、小道具を使ったトリッキーな演出でドキっとさせて、目を喜ばせてくれて、観客の想像力を喚起してくれます。観てるだけで楽しくなっちゃうような振付を積極的に取り入れて、深刻さと可笑しさをバランスよく混ぜたり。倉持さんのエンターティナー精神に嬉しくなります。“何もない舞台”で目に見えない何かを感じさてくれる若手劇団が増えていますが、こうやって具象の面白さでもって、抽象の広がりを与えてくれる演出家もいるんですよね。
ただ、期待していたほどには作品世界に没入できませんでした。平日マチネは観客の年齢層が予想よりもずっと高く、「これ笑うところだよね?」と私が思う場面でものすごく反応が薄かったり、途中休憩が終わって2幕が始まるところで、私語が多かったり。自称観劇ヲタクなのに読みが甘かったなぁと思います。夜に観たら印象が違ったんじゃないかな~。
テレビ(?)の撮影日だったのも不運でした。最後の静かな場面で、カメラマンのイヤホンに向けて指示をしている声が思いっきり聴こえてしまい、どうしても興ざめ・・・。ソワレで改善されていることを祈ります。最近、録画関係の不運に見舞われてるな・・・。
ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。
■「春独丸」
小料理屋の女(久世星佳)は知人から預かった赤子を育てようとするが、赤子が自分を責めるような目をするので、その両目をつぶして逃げる。全盲の子(岡本健一)は成長し、やがて人気占い師となり政治家へと出世した。再会した女と子は・・・。
女は「捨てた子供に一生つきまとわれる」と恐れていましたが、実際は女の方から息子につきまとっていました。息子は女を母と呼びますが、女は最終的に否定。最後の最後までどこまでが本当なのか、どこからが夢なのかわからないようになっています。群舞や身体表現がとても面白くて、母子の残酷で悲しい因縁の物語を、軽快に見せてくださいました。動的な照明も良かった。
衣裳のデザインも派手で良かったです。久世星佳さんはスカート部分をひっくり返して頭巾のようにかぶったり。内側のスカートは新聞広告の模様でしたよね。
岡本健一さんは次々と着替えて変身。人気占い師のギターの弾き語りには笑わせていただきました。芸達者であることを見せびらかすわけでなく、道化になれるのがいいなと思います。
■「俊寛さん」
罪を犯して島流しになった男たち(小須田康人/玉置孝匡/粕谷吉洋)。そこに来訪者が。「恩赦が出た。今から名前を呼ぶ者を釈放する」と言う。
狂言の動きも取り入れたコミカルな一編。前の回で残った桜吹雪を上手に使っていました。
冤罪で島流しになったと言う男(小須田)だけが、恩赦を受けることができず、島に残ります。でも最後には「本当は冤罪じゃない」と告白。これもまた、どこまで本当なのかわからないのが良いです。
≪休憩≫
■「愛の鼓動」
死刑囚がいる拘置所。刑務官(ベンガル)は若い女性の囚人(西田尚美)にモネの「睡蓮」が掲載されている画集を差し入れする。彼は事故に遭って何年も眠ったままの娘の看病もしていて・・・。
女性の囚人は、実は刑務官の娘なのではないかと想像させておいて、ぎりぎりまで迷わせられます。憎いわ~っ!
3人の刑務官(ベンガル/岡本健一/小須田康人)がバーで飲むシーンが面白かったです。カウンターからスルリと瓶とグラスが出てくるのが気持ちいい。
女の死刑が執行されて半年後、刑務官は飛び降り自殺。ちょうどその時、入院中のベッドで寝たきりだった娘(西田尚美)が数十年振りに目覚めます。刑務官は『「睡蓮」には世界の真実が描かれている』と言っていました。死刑囚と刑務官は水底へ。ずっと水底にいた娘が花になって水面に上がったのかなと想像。
モネの「睡蓮」がまさか舞台に現れるとは!ぽっこりと水に浮かんでくる蓮の花の仕掛けはどうなってるのかしら。
能「弱法師(よろぼし)」「俊寛」「綾の鼓」より
出演:岡本健一/久世星佳/ベンガル/西田尚美/小須田康人/玉置孝匡/粕谷吉洋/麻生絵里子/高尾祥子
企画・監修:野村萬斎 作:川村毅 演出:倉持裕 美術:堀尾幸男 照明:杉本公亮 音響:尾崎弘征 衣装:半田悦子 振付:小野寺修二 ヘアメイク:宮内宏明 演出助手:山田美紀 舞台監督:小笠原幹夫 ブロダクションマネージャー:勝康隆 制作進行:相見真紀 制作:大下玲美 宣伝美術:相澤千晶 宣伝写真:阪野貴也 宣伝スタイリスト:高木阿友子 宣伝ヘアメイク:山□淳 企画制作:世田谷パブリックシアター 後援:世田谷区[主催] 財団法人せたがや文化財団
一般5,500円 高校生以下2,750円(世田谷パブリックシアターチケットセンターのみ取扱い、年齢確認できるものを要提示) U24 2,750円(世田谷パブリックシアターチケットセンターにて要事前登録、登録時年齢確認できるもの 要提示、オンラインのみ取扱い、枚数限定) 友の会会員割引 5,000円 世田谷区民割引 5,300円 ※プレビュー公演も同一料金。各種割引もご利用いただけます。
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2010/11/post_190.html
http://www.setagaya-ac.or.jp/gendainogakusyu5/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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