はじめて高校演劇の審査員をさせていただきました。朝9時から夜7時過ぎまでの長丁場。出場していた高校生と顧問先生の1ステージにかける熱い気持ちが、広い会場に静かに満ちているように感じて、身が引き締まりました。下記は上演記録と、関東大会出場が決まった2校の作品についての感想です。
最優秀賞を受賞した甲府昭和高校『冒険授業』が12月にアトリエ春風舎で上演されます!
●高校演劇サミット2010 ⇒公式サイト
2010年12月17日(金)~19日(日)@アトリエ春風舎
参加校:都立飛鳥高校『デイドリーム』作:若林美穂(生徒創作)
山梨県立甲府昭和高校『冒険授業』作:中村勉(顧問創作)
都立世田谷総合『せたそーのあゆみ』作:柴幸男(既成) 潤色:岡崎恵介
※『せたそーのあゆみ』は2009年の『あゆみ めぐろパーシモンREMIX』がもとになっています。
ここからネタバレします。
【1】甲府第一高校『夏休みの風景 2011』★優秀賞二席
作:はやおとうじ(既成)
【2】山梨高校『同級生』
作:石原哲也(既成)
~~~昼休み ~~~
【3】甲府南高校『はたらけ喫茶』★優秀賞一席
出演:渡辺優仁 青柳心 伊藤愛 鎌矢良平 後藤遥果 大木英俊
作:甲府南高校演劇部(生徒創作) スタッフ:内藤嵯紀 齋藤大樹 上西哲平 粕川周平 弦間春華
〈作品紹介〉東京都某所の喫茶店。そこに昼夜を問わず通い続けるのは、二ート♂(27歳)、二ート♀(23歳)フリーター♂(20歳)。遊んでばかりのグダグダ楽しい毎日の中に、時折垣間見える彼らの苦悩。彼らは何を思って働かないのか。そして彼らは、無事に社会に出ることはでさるのだろうか―!?
ツンデレなウェイトレス(青柳心)におびえながら、今日もだらだらだべり続けるニートたちだったが、1人、また1人と正社員(鎌矢良平)になったり専門職(伊藤愛)に就いたり、まっとうな人生を歩み始める。1人のこった27歳の新島(渡辺優仁)は・・・。
ナンセンス・ギャグが冴えていて驚きました。モンティー・パイソンみたい!選曲センスも素晴らしい。例えばただのダジャレなのに、BGMの妙と演技および動きの演出が面白かったので、爆笑できました(例:「ホットドッグって熱い犬、そんなの食べられない」というセリフにピアノ曲を流す等)。
太郎の「男女」の歌に合わせて踊ったり、特に必要ではないのに会話中にジャンプしたり、激しい身体表現を急に繰り出す見せ場がとっても魅力的。神(?)役の男性(大木英俊)がひとことも発しないのも面白かったです。
作・演出・出演されている生徒の方々自身が、本気で面白いと思うものを選んで、練り上げて上演しているから、嘘のない、爆発力のある、そして今に通じる笑いが生まれるのだろうと思います。
起承転結の「転」に当たる部分であろう、新島がウェイトレスの言葉に心動かされて教師になる決意をする場面。演技も脚本も少々説得力に欠けたように感じました。でも暗闇にサスが当たる新島の独白は正統派演劇的で良かったです。
【4】白根高校『南アルプスの少女:演劇部辞めます編』
作:河野豊仁(顧問創作)
【5】甲府昭和高校『冒険授業』★最優秀賞
出演:村社忠之 平山美奈子 中沢綾 吉岡風人 龍澤史菜 長谷部里穂 矢崎翔太 小林真伊 濱口綾乃 池谷遥 志村みゆき 滝本愛海 込山愛美
作:中村勉(顧問創作) 演出:濱口綾乃 演出補:池谷遥 舞台監督:濱口綾乃 美術:滝本愛海 村社忠之 長谷部里穂 照明:小林真伊 平山美奈子 音響:込山愛美 吉岡風人 衣裳:濱口綾乃 龍澤史菜 小道具:池谷遥 音響オペ:込山愛美 照明オペ:小林真伊
〈作品紹介〉冒険授業! これは冒険についての授業であり、授業の中で冒険をするお話です。というより授業は冒険なんです。さあ出かけましょう冒険の旅へ!何万キロも何万年も遠くへ!
柴幸男さんの『わが星』や『あゆみ』などの影響を大きく受けたであろう脚本・演出でしたね。でも単純な模倣ではなく、高校生が上演するオリジナルの演劇作品として完成度の高いものになっていました。
幕開け。高校生(とおぼしき)男女が床に寝転がっています。死んでるようだし眠っているようでもあります。スローモーション、ストップモーションの動きで立ちあがる、歩くなどを繰り返すのはコンテンポラリー・ダンスのよう。稽古の行きとどいた群舞は、時間を止める、凝縮する、引きのばすなどの演劇的効果を生み出していました。
一人ずつ違う学校の制服を着ることで、特定のクラス内ではなく、世界中の高校生が舞台にいることを表現。世界を1つの空間に凝縮し、生死を暗示して時間も可視化したのです。オープニングでいきなりコレですから、期待値が異様に上がりました。
布団をボールに見たてたドッジボール、見えない縄の縄跳びなど、演劇ならではの演出で楽しませてくれます。セリフを短く区切り、例えば1つの単語を色んな言い方で発語することで、発音や声色次第で意味が変わるという言葉の可能性を見せていました。
やがて登校拒否をしているのであろう1人の女子生徒に焦点が絞られます。彼女は巨大なエンドウマメのような抱き枕を擬人化して友達と呼び、自分の殻の中に閉じこもっているのです。彼女の夢の中の学校に、実体の世界から生徒と先生が飛びこんできます。学校の現実と誰かの夢とが交錯するのは面白いですが、個人的には、せっかく宇宙の果てのまた向こうの抽象世界まで広がりそうな舞台が、1人の人間の頭の中にシュルルルル~・・・としぼんでしまったように感じて落胆しました。人間の中の宇宙を感じとれれば良かったんでしょうが、そうはなりませんでした。作品の中に没頭していたせいで、私はすっかり感情移入しちゃってたんですね(笑)。
高校の授業を描写する際に「分ければわかる」と言って、文章を細かい文節に分けたりしていました。的外れかもしれないですが、「分ければわかる」だけでなく「わかれば変わる」まで具体的に表しても良かったんじゃないかと思いました。どの時代も変化こそが人間が欲してやまないものであり、変化が奇跡を起こすきっかけになったり、それ自体が奇跡だったりしますよね。授業で起こす奇跡を演劇的に見せることができれば、タイトルの『冒険授業』がよりしっくり合うだろうと思います。
【6】岐南高校『あの電話』
作:宇田川豪犬(既成)
【表彰】
・山梨県高等学校演劇連盟最優秀賞:甲府昭和高校 ★関東大会出場★
・山梨県高等学校演劇連盟優秀賞一席:甲府南高校 ★関東大会出場★
・山梨県高等学校演劇連盟優秀賞二席:甲府第一高校
・山梨県高等学校演劇連盟優秀賞(上演順):山梨高校、白根高校、岐南高校
・創作脚本賞:『冒険授業』中村勉、『はたらけ喫茶』甲府南高校演劇部
・舞台美術賞:甲府第一高校
・バックヤード賞:甲府第一高校
【つぶやき】
劇作家の篠原久美子さんと一緒に審査できたのがとても幸運でした。2人とも新宿駅から甲府に参りましたので、日帰りの行き帰りの電車の中でじっくりお話しできました。篠原さんと私は演劇へのかかわり方も好みも違いますが、根本の部分で共感しているところがありました。例えば、演劇とは人と人との間に存在するものだということ。そして高校生および顧問の先生のがんばりを評価することを前提にしつつも、やはり上演作品そのものが評価対象だと考えること、などです。
※甲府昭和高校と甲府南高校のクレジットは、第31回山梨県高等学校芸術文化祭総合パンフレットおよび、当日いただいたその他の資料より。
平成22年度第31回山梨県高等学校芸術文化祭演劇部門発表会・兼・第32回山梨県高等学校演劇大会
審査員:篠原久美子(劇作家) 高野しのぶ(劇評) 山口高信(三島南高校顧問)
主催:山梨県高等学校文化連盟 山梨県高等学校文化連盟演劇専門部
高校演劇山梨県大会結果 http://blogs.yahoo.co.jp/kokubo14st/archive/2010/11/14
高校演劇 大会結果 速報ブログ「2010山梨県 県大会結果」
http://blog.goo.ne.jp/keito-28/e/801c5efc198b2778b971b9516f88f63b
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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