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2010年12月28日

さいたまネクスト・シアター『美しきものの伝説』12/16-26彩の国さいたま芸術劇場インサイド・シアター(大ホール内)

 蜷川幸雄さんが芸術監督をつとめる彩の国さいたま芸術劇場には、2つの俳優集団があります。平均年齢71歳(2010年時点)のさいたまゴールド・シアターと、若い俳優の育成を目的としたさいたまネクスト・シアター(⇒旗揚げ公演のレビュー)です。

 客席は三方囲みの自由席。私は中央ではなく舞台の下手側の席でしたが、ストレスは皆無でした。上演時間は約3時間15分(途中15分の休憩を含む)。登場人物紹介や用語解説など、公演公式サイトが充実しています。

 『美しきものの伝説』を観るのはたぶん3度目で、今回が一番面白かったです。オープニングで感涙、エンディングで鳥肌。
 初日を観たのに公演中にレビューが間に合いませんでした・・・。終演後すぐに簡単な感想をツイッターに書いたりしていますので、ご興味あればフォローしていただけると嬉しいです。

 ⇒CoRich舞台芸術!『美しきものの伝説

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 明治43年、大逆事件が起こり、社会主義運動は「冬の時代」に入り、大正の幕が開く。
 いつか行動を起こそうと、大逆事件の残党・四分六<堺利彦>(飯田邦博)は、クロポトキン<大杉栄>(松田慎也)、暖村<荒畑寒村>(小久保寿人)とともに売文社を創設。そこへ女優志望の伊藤野枝(深谷美歩)が『青鞜』編集長モナリザ<平塚らいてう>(江間みずき)に会うために訪れる。
 演劇界では、ルパシカ<小山内薫>(横田栄司)、早稲田<沢田正二郎>(鈴木彰紀)、新聞記者サロメ<神近市子>(土井睦月子)らが先生<島村抱月>(原康義)と日夜議論を重ねていた。先生率いる芸術座が松井須磨子(周本えりか)主演の『復活』で大成功を収めるが、「娯楽劇と芸術劇の二元論」に自由劇場のルパシカは「自然の演技こそ真実」と真っ向から対立する。
 またフリーラブを提唱するクロポトキンはサロメと恋愛関係に。一方、野枝は夫の幽然坊<辻潤>(堀源起)との子を身ごもりながらクロポトキンと生きる決意をする。それぞれに自らの理想のために奔走し、また人間的な自由な恋愛を謳歌する彼らだが、やがて厳しい現実が目の前に現れる――。
 ≪ここまで≫

 芸術性を強く追求すると観客はそっぽを向くし、観客にこびた娯楽を作るのは本意ではない。芸術と娯楽の間で七転八倒してきた、そして今も同じことを繰り返している私達が、そこにいました。芸術家が警察権力と闘う姿も描かれます。東京都青少年健全育成条例改正案が可決されたばかりでもあり、まさに今の私たちのことであると思わざるを得ませんでした。

 対話劇、劇中劇、そして観客に話しかける独白など、演劇ならでは構造をふんだんに持つ戯曲です。独白で、何度も不思議な錯覚を味わいました。若い役者さんが物語の登場人物、つまり実在した歴代上の人物として存在し、死者の生の声を届けてくれたように感じたのです。何度となく背筋がぞくっとして、涙が流れました。数年前に観た『溺れる男』を思い出しました。

 美術および演出、そしてキャスティングが素晴らしくって!!これはネタバレになるので後ほど。
 
 ネクストシアターの役者さんの中で強く印象に残ったのは野枝役の深谷美歩さん、先生(原康義)に物申す学生役の川口覚さん、三味線を演奏する演歌師役の佐々木美奈さん。 ※三味線を演奏されてたのは浅場万矢さんだそうです。失礼しました(2010/12/30訂正)。
 原康義さんの独白は見事でした。内容もよく理解できましたし、先生(=島村抱月)の性格にも魅力を感じました。ユーモラスな面も見せてくださって、独白場面で顔がほころびました。

 ここからネタバレします。

 大ホールの舞台上に三方囲みの客席が設置され、舞台は黒い床のみで何もありません。いつも客席がある方が舞台奥になります。舞台奥の黒い幕が開くと、大きな四角い箱を1人1個ずつ前へと押し進めながら、大勢の人々が歩いて登場。箱は透明で枠だけが黒色。中には蛍光灯が仕込まれていて、等身大の人間の人形が1体、足をたたんで丸まった形で、横たわって入っている・・・?と思ったのですが、じーっと見てみると、人形ではなく本物の人間でした。さいたまゴールドシアターの老俳優の方々だったんです!生死が一体となったあの世とこの世の境目の世界(?)がドドーン!と向かってきて、ここで早くも涙ボロボロ。

 舞台上にほぼ均等な間隔で多くの箱が並び、中に入っていた俳優が外に出てきます(箱には蓋がありません)。最後に中央の箱から着物姿の若い女性が立ち上がりました。この物語の主要人物の野枝(深谷美歩)でした。大正時代の実在の人物が、今によみがえりました。物語が始まる前に(開場時間から歌と生演奏はありましたが)すっかり観客も劇中の人となりました。蜷川さん、凄い。

 机やイスなどの家具類が次々と運び込まれ、場面転換時にもどんどん入れ替えられますが、透明の箱はほぼ最初に出てきた時のまま、舞台上に置かれ続けます。着物も小道具もリアルなのに20個ぐらいの透明の箱がずっとあって、使われるんです。アグレッシブな演出!!

 最後の場面。閉じていた舞台奥の幕が再び上がると、長く長く広がった舞台にも透明の箱がずらりと並んでいます。中には花が咲いています。延々と続く墓標でもあり、これから生まれる命のゆりかごのようでもありました。

 ゴールドシアターの高齢の方々、ゲストのベテラン俳優の方々がネクスト・シアターの若者と一緒にいて、年齢や人生経験の違いがそのまま舞台に表されたことも、作品の大きな特徴になったと思います。たとえば普段の生活でも世代間交流が少なくなってきていますよね(核家族化とか)。色んな世代の人がいるというだけでも、場のパワーが増していたように思います。ゴールドシアターの方々の存在の大きいこと!心身に刻まれた経験が体から放射されていました。

 若い俳優はベテランの方々と仕事をして成長されたのではないでしょうか。ベテランの方々も大勢の若手から刺激を受けて、普段よりも熱く、フレッシュな演技をされていたように思います。

さいたまネクスト・シアター第2回公演
出演:さいたまネクスト・シアター(浅場万矢 浦野真介 江間みずき 大橋一輝 川口覚 熊澤さえか 小久保寿人 佐々木美奈 周本えりか 鈴木彰紀 手打隆盛 土井睦月子 中村朕紗友 西村篤 隼太 深谷美歩 堀源起 松田慎也 茂手木桜子 本山里夢 横山大地 露敏 出演志願:鋤柄聖一)
ゲスト:原康義 横田栄司 飯田邦博 
さいたまゴールド・シアター(大串三和子 小渕光世 葛西弘 加藤素子 上村正子 小林允子 小林博 佐藤禮子 重本惠津子 田内一子 高橋清 滝澤多江 谷川美枝 田村律子 寺村耀子 遠山陽一 西尾嘉十 林田惠子 宮田道代 渡邉杏奴) 
脚本:宮川研 演出:蜷川幸雄 演出補:井上尊晶 音楽:朝比奈尚行 美術:中西紀恵 照明:岩品武顕 音響:高橋克司 ヘアメイク:佐藤裕子 所作指導:藤間貴雅 演出助手:大河内直子、藤田俊太郎 舞台監督:山田潤一 主催・企画・製作:財団法人埼玉県芸術文化振興財団
【休演日】12/20【発売日】2010/10/16【一般】3,800円【メンバーズ】3,500円
http://www.saf.or.jp/arthall/event/event_detail/2010/p1216.html
http://www.saf.or.jp/arthall/event/event_detail/2010/densetsu/index.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2010年12月28日 20:29 | TrackBack (0)