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2010年11月11日

新国立劇場演劇『やけたトタン屋根の上の猫』11/09-28新国立劇場小劇場

 アメリカの劇作家テネシー・ウィリアムズの1955年ピュリッツァー賞受賞戯曲を、松本祐子さんが演出されます。新国立劇場の「JAPAN MEETS・・・ ─現代劇の系譜をひもとく─」の第2弾です(⇒第1弾レビュー)。

 上演時間は約2時間45分(途中15分の休憩を含む)と長い目ですが、予想していたよりも喜劇的な演出で、サラリと観られました。親しみやすい新訳のおかげでもあると思います。父親役の木場勝己さんと次男役の北村有起哉さんの2人きりの会話の場面が素晴らしかったです。

 ⇒CoRich舞台芸術!『やけたトタン屋根の上の猫

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 舞台はアメリカ南部の大富豪の家。一代で大農場を築き上げた一家の主(ビッグ・ダディ:木場勝己)は、体調を崩して受けた健康診断の結果、癌に侵され余命いくばくもないと判明するが、本人には健康体と知らされていた。
 この家の次男ブリック(北村有起哉)は、愛する友人の死をきっかけに酒びたりの生活を送り、その妻マギー(寺島しのぶ)は、ある事件を境に失いかけている夫の愛を取り戻そうと必死だった。また、長男グーパー(三上市朗)とその妻メイ(広岡由里子)の夫妻は、父の病状を知って、遺産相続を有利に運ぼうとしていた。
 ビッグ・ダディの誕生日パーティーに集まった二組の夫婦、母親(銀粉蝶)ら、一見なごやかな家族の団欒の中から、親子、兄弟、夫婦そして家族たちの「嘘と真実」が白日のもとに曝されて行く・・・・・・。
 ≪ここまで≫

 舞台はきれいなお屋敷の大きな寝室。中央にダブルベッドがあり、上手にバスルーム、奥はバルコニー、下手は廊下です。色使いは明るめで清潔な印象。調度品はパっと見はゴージャスですが、極上とまではいかない、少々庶民風でもある温かいデザイン。役者さんは壁があるように演技をしますが、実際は柱とドアの枠があるだけで、部屋と部屋との間には壁がほぼない状態です。とても風通しが良くて、すっきりした空間。観客に壁の向こうの演技が見えるのがミソです。

 死期が迫る父親の莫大な財産を巡る相続争いを、お家騒動的にコミカルに描きます。でもずっと奥深い、芯にあたる部分、つまり親子や夫婦の本音のぶつかり合いについては、じっくり、どっしりと見せてくれます。
 嘘も方便だけれど、嘘が嘘だとバレていると役に立ちません。でも正直に本当のことを伝えることが、いつも善だとは限りません。父と次男がぐるぐる回り道をした末にとうとう対峙するところは、残酷でスリリングで、2人の俳優の演技対決としても見ごたえがありました。

 “やけたトタン屋根(Hot Tin Roof)”って触るとものすごく熱いんだろうと思うのですが、そのヒリヒリと痛みを感じるような熱さはあまり感じられなかったですね。テネシー・ウィリアムズというと私は『欲望という名の電車』をまず思い浮かべます。あのじめじめとしたうだるような暑さ、やり場のないいらだちなども、この作品についてはあまりなかったかも。舞台美術もスッキリしているし、それは演出意図ではなかったのかもしれませんね。

 寺島しのぶさんの、鮮やかな青色のドレスに銀色のハイヒールというスタイルが美しかったです。寺島さんの第一幕の話しっぷり!饒舌っ!!

 ここからネタバレします。

 フットボール選手だった次男は小さいころからずっと一緒だった親友(男)との仲を、妻によって引き裂かれ、今はアルコール中毒になっています(親友はアルコール中毒で既に死亡)。次男、親友、妻との三角関係について次男が父親に告白したところ、父親は、次男がアル中になったのは、次男が自分自身を許せないからだ、他人のせいにするなと突きつけます。そして次男は仕返しに、父親の本当の病状(末期がん)を父親に伝えてしまうのです。

 相手に話をしようと言っておいて、自分の話ばかりして相手の話を聞こうとしなかったり(その上、怒ってどなり散らしたり)。良かれと思ってやってるようでいて、実は自分の欲望を満たそうとしているだけだったり。
 妻が今こそ妊娠するチャンスなのだと言って、夫(=次男)に無理やりセックスを迫るラストは、滑稽で切ないですね。おそらく彼女は夫に首ったけではあると思います。でも遺産相続が目当てでもあるし・・・やりきれないですね。

2010/2011シーズン JAPAN MEETS・・・ ─現代劇の系譜をひもとく─ Ⅱ "Cat on a Hot Tin Roof"
出演:寺島しのぶ 北村有起哉 銀粉蝶 三上市朗 広岡由里子 市川勇 頼経明子 三木敏彦 木場勝己 子役(交互出演):井上怜/山下翔 川上瑛生/鈴木孝正 中道美柚/藤崎花音 北村海歩/古口貴子 声の出演:松角洋平
作:テネシー・ウィリアムズ 翻訳:常田景子 演出:松本祐子 美術:松井るみ 照明:沢田祐二 音響:高橋巌 衣裳:前田文子 ヘアメイク:川端富生 歌唱指導:伊藤和美 演出助手:城田美樹 舞台監督:加藤高 制作助手:粟津佐智 制作担当:太田衛 芸術監督:宮田慶子
【休演日】11/15,22【発売日】2010/09/12 A:5250円/B:3150円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000323_play.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 02:34 | TrackBack

フェスティバル/トーキョー10『アンドロイド演劇「さようなら」』11/10-11あうるすぽっと・ロビー

 劇作家・演出家の平田オリザさんと、世界最先端のロボット研究者である石黒浩さんが、2008年からロボットを使った演劇を発表されています。
 この度、「演劇を脱ぐ」というテーマにふさわしい演目として、フェスティバル/トーキョー10で急きょ上演が決定したのは、愛知トリエンナーレで世界初演された“アンドロイド演劇”。11/10(水)にプレス向け公演と合わせて、平田さん、石黒さんが登壇する記者会見がありました。

 演劇作品として、20分間で500円の演目なら観て損はないと思います。アンドロイドと人間の2人芝居というスペックに合わせた脚本が示唆に富んだ内容ですし、アンドロイドの実物が動いている状態を生(ライブ)で見ること自体が面白いと思います。出演しているアンドロイド“ジェミノイドF”の製作費は一体1000万円ぐらいだそうですので、お値段のことを言うのはナンですが、一見の価値あり、ではないでしょうか。

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 ★ロボット演劇『働く私』が2010年11/28(日)に日本科学未来館7Fで上演されます。11時、13時、16時の3回公演。入場無料。13日(土)から予約可能。詳細は日本科学未来館公式サイトでどうぞ。

 ⇒CoRich舞台芸術!『アンドロイド演劇「さようなら」

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ジェミノイドF

 ≪あらすじ≫ 
 未来のどこか。アンドロイドと白人女性が日本語で会話する。アンドロイドは日本の歌や詩を読みあげる。
 ≪ここまで≫

 アンドロイドの“ジェミノイドF”は、顔と手がゴムっぽい素材(シリコンだそうです)でできている、きれいな女性の人形でした。パっと見はマネキンというか、ろう人形というか。「人間みたいに見える」「リアルだ」とおっしゃる方もいるそうですが、私には人間には全く見えなかったです。視力が両目とも裸眼で2.0あるせいかもしれませんが(検査したのは数年前)。うーん、それでも「人間に見える」っていうのは大げさな気がします・・・。

 目はパチパチとまばたきし、首がカクカク動いて、胸もそったりします。小刻みにぎこちない動きをしますが、アンドロイド役を演じるので問題ありません。ロボットがロボットの役をやってるのですから、お芝居としては自然です。技術レベルは全然違いますが、大昔に神戸ポートピア・アイランドで見たパビリオンの人形劇を思い出しました。

 アンドロイドが読む詩が、アンドロイドの気持ちを表す言葉に聞こえたのが面白かったです。 

 ここからネタバレします。

 死を前にした若い女性。父親が買い与えてくれたアンドロイドに、「詩を読んでくれ」と頼みます。アンドロイドは今の彼女が欲しているであろう詩を暗唱。女性はフランス語、ドイツ語などでそれに似た詩(や歌?)を返し、2人は詩の内容や人種の違いなどについて会話をします。女性が眠った後、アンドロイドが読むのは谷川俊太郎作「とおく」。まるでアンドロイド自身の気持ちを語っているようで、でも本当は詩を読んでいるだけで、さらには声がアンドロイドではなく誰か他の生身の人間の声で・・・と、色んな層が重なります。
 白人女性がつたない日本語をあえて選んで話している設定には、納得がいかなかったですね。でも日本語、フランス語、ドイツ語と複数の言語が語られるのは、世界が縮まったような感覚が得られて良かったです。出演者のブライアリー・ロングさんはフランス語、ドイツ語、英語が堪能だそうです。

 声はアンドロイドの後方のスピーカーから鳴らしています。今回の上演に関しては、舞台裏で女優さんがオンタイムで、相手役の演技に合わせてしゃべっています。女優さんの演技を録画して、その映像どおりにアンドロイドが動く構造だそうです。遠隔操作が可能なので、必ずしも女優さんが劇場内にいる必要はありません。さらに、女優さんの演技を動画で録画してそれを再現(再生)すれば、その場、その時に女優さんがいなくても、アンドロイド単体で演技はできるそうです。

【写真:左から石黒浩さん、平田オリザさん】
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 平田さんが記者会見で「動くアンドロイドを映像で見るのと、実際に動いているアンドロイドを見るのとは違う。生(ライブ)だから面白い。つまり生身(の人間)じゃなくても、生(ライブ)なら面白い」という意味のことをおっしゃっていました。確かに動いているアンドロイドの実物を観る方が、その映像を観るよりは面白いと思います。でも「生身じゃなくてもいい」というのは腑に落ちませんでした。たとえば同じ台本をアンドロイド版と人間版に分けて上演して、アンドロイド版の方が演技が上手だったとしても、比較対象にはならずに全く異なるジャンルのパフォーマンスとして認識されることになる気がします。『さようなら』を観た時点での個人的な感想ですが。

 今回のお芝居および会見の時には実感できませんでしたが、アンドロイドの肌に触ると、操作している人がそれを感じるそうです。アンドロイドが操り人形と違うところですね。その機能を使った演劇となると、さらに新しい可能性が生まれそうです(今も既に使ってるのかも知れませんが)。
 会見で何度も話題に出たとおり、技術は進歩しますから、アンドロイドの動きが人間により近くなって行くことは間違いないでしょう。石黒さんがおっしゃるには、お金はかかるものの不可能ではないとのこと。アンドロイドと人間の見分けがつかないぐらいになった時に、果たして観客がどう感じるか、ですよね。目の前にいる誰かをなぜ人間だと認識してるのか、人間らしさとは何なのか、アンドロイドが人間の代わりにはなれないのか等、現時点のアンドロイド演劇を観るだけでも、具体的に考えるきっかけになりました。

 平田さんはいつもながら挑発的な発言が冴えてらっしゃいました。
 平田「ロボットに対するダメ出しも俳優に対するダメ出しも全く同じだから、青年団の俳優はショックを受けたようだ。私が本当に俳優をロボット扱いしてるんだと気づいたから。」
 平田「ロボットやジェミノイドが生で人としゃべっているのを観るのは、例えば『スターウォーズ』などの映画を観るのと、全然違う感覚があると思うんです。私たち演劇人は“舞台は生身の人間が演じているから素晴らしい”という幻想を抱いていたんですが、生身の人間が演じているから素晴らしいんじゃなくて、生(なま)だから素晴らしいだけなんです。そうすると観客に選択肢が生まれる。アンドロイドの岸田今日子を観るか、下手な生身の俳優を観るか。」

 石黒さんも非常に面白い方でした。さすがは世界が認める天才ですね。
 石黒「僕は自分自身のコピー(ロボット)も持っているんですが、それを使ってミーティングをしても労務費を払わないっていうんです(会場で笑いが起こる)。それはおかしいだろうと。今しゃべっている僕だって、人間かどうかは調べようがないんですから。おかしいと思うんですよ。」
 平田「どっちがおかしいかは、わかりませんが(笑)。」

 石黒「人間とは何なのかがわからないから、僕たちは研究をしている。これから(この研究が)人間を超えたり、人間に近づいたり、色んな事が起こると思います。それが面白いし大事なこと。よく皆さんは人間のことを完全にわかっているように話をされるんですが、私には若干の違和感がある。例えば心とは何なのかと定義しようにも、できないですよね。それを探しているんです。」

 石黒「科学と芸術の境目なんてないと思ってます。実は芸術が色んなものを生み出して、その生み出し方に理由を見つけたり、設計図にしたり、何らかの方法論にすると技術になる。芸術がなければ技術なんてひとつも生まれてこなかったかもしれないんです。ところが日本は、アメリカやヨーロッパで考え出されたものを一生懸命ていねいに作り直すことは上手なんですけど、新しいものを生み出すところはまだ十分じゃない気がしています。例えばコンピューターや携帯電話、自動車などは海外の真似ですね。でもロボットに関してはそうじゃないようにしたいなと。」

【劇中に引用している詩歌】谷川俊太郎「さようなら」「とおく」/アルチュール・ランボオ「酩酊船」(小林秀雄訳)/若山牧水 短敬二首/カール・ブッセ「山のあなた」(上田敏訳)

出演:アンドロイド「ジェミノイドF」 ブライアリー・ロング(青年団) アンドロイドの動き・声:井上三奈子(青年団)
脚本・演出:平田オリザ テクニカルアドバイザー:石黒浩(大阪大学&ATR知能ロボティクス研究所) 平田オリザ+石黒浩研究室(大阪大学&ATR知能ロボティクス研究所) 舞台監督:中西隆雄 照明:岩城保 舞台美術:杉山至 ロボット側ディレクター:力石武信(大飯:助字石黒浩研究室)、小川浩平(ATR知能ロボティクス研究所) 音響:泉田雄太 衣裳:正金彩 演出助手:渡辺美帆子 音響協力:富士通テン(株) 制作:野村政之 西山葉子
【F/Tスタッフ】プログラム・ディレクター:相馬千秋 制作:宮崎あかり 【F/Tクルー】東狐裕実 中村みなみ
主催:フェスティバル/トーキョー 大阪大字石黒浩研究室、ATR知能ロボティクス研究所、(有)アゴラ企画・青年団
前売・当日ともに 500円
http://www.festival-tokyo.jp/program/android/


※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 01:27 | TrackBack