2010年12月11日
【写真レポート】俳優指導者アソシエーション「シリーズ“俳優のすべて”第3回プロジェクト『シーンスタディをとらえ直す』」12/10-23森下スタジオ
Aスタジオ
参加者募集情報を掲載しておりました、俳優指導者アソシエーションによる俳優のためのワークショップ初日を見学させていただきました。正式名称は「シリーズ“俳優のすべて”第3回プロジェクト『シーンスタディをとらえ直す』」です。
今回のテーマはサム・シェパードの戯曲『フール・フォア・ラブ』の場面を創作する、いわゆるシーン・スタディー。12/22(水)は発表会と討論会がセットになった「ワーク・イン・プログレス公開」があります。ご興味のある方はぜひご参加ください。見学料は1000円。申込〆切は前日の12/21(火)。
朝11時から開始。参加者は合計11名で男女の比率は半々ぐらい。演劇の現場から「最近の若い俳優は本(戯曲)が読めていない」という声がいくつか上がっていることが、今回の企画を立ちあげる契機だったとのこと。本当に“最近”なのか、“若い”俳優だけなのか、“本を読める”とは一体どういうことなのかなど、問題提起自体にさまざまな解釈があることも踏まえた上で、“戯曲から場面を立ち上げる”ワークショップを実施することなったそうです。
簡単なオリエンテーションの後、午前の部はムーヴメント教師の鍬田かおるさんのエクササイズでした。参加者の自己紹介はせず(指導者は自己紹介あり)、お互いにニックネームをつけたり憶えたりすることもなく、いきなり体をほぐす時間に。演劇のワークショップでよくあるゲームのようなものをやらなかったんですね。応募者多数で選考があったそうですので、今回の参加者はキャリアがあって意識も高い方が多かったのかもしれません。皆さん、指導者の意図を1度の説明で理解して、スムーズに体を動かしてらっしゃいました。
鍬田さんは俳優という職業がどうあるべきかについて、はっきりとご自身の考えを持っていらっしゃいます。いつお会いしても背筋がピンと伸びていて、凛とした、引き締まった立ち姿から知性が感じられる女性です。ご自身の身体、感情のすみずみまで意識をめぐらせ、常に客観的にコントロールされているご様子。体の使い手としてもプロフェッショナルなのだと思います。参加者が職業俳優であることを前提にした指導は厳密で明快。ご自身の行動がともなっているので、すごい説得力です。
鍬田「いつも本番に近い状態でトレーニングしてください。自分のことを想像しながら、相手のことも考えて欲しい。芝居と一緒です。」
鍬田「行動の意図をはっきりさせること。意図がはっきりしない体から発せられるエネルギーは(当然ながら)はっきりしない。」
鍬田「私たち俳優の仕事はまわりに影響を与えること。だから体はなるべく大きく使いたい。色んな方向に体を活発に使いたい。私たちはいつも(エネルギーを)放出していたい。全方向に注意を行き届かせ、演じたい。体の全てで表現してください。五感をすべて使う。丸ごと使う。」
内容は「空間を歩く」「横1列に複数人が並び、打ち合わせも合図もなく、同じ瞬間に走り出し、同じ距離を走ったら止まる(チームごとの相談時間あり)」、「エアなわとび」、「ペアになって1人が目を閉じて立ち、もう1人が与える刺激に反応する(アクション・リアクション)」など。
「パートナーからの刺激を受け、それに翻弄されるように動いている時、悲しい気持ちになった」とおっしゃった方がいらっしゃいました。役柄を演じる時はまず感情が先にあって、その後に体がついてくると考えがちですが、逆に、体が動くことで新たな感情が生まれることがあるんですよね。重要なことだと思います。
午後は池内美奈子さんのクラスです。池内さんは俳優指導者アソシエーションの代表者で、新国立劇場演劇研修所のヘッドコーチでもあります。いつもながら温かい、柔らかな存在感で空間をほぐしてくださいます。親しみやすい語り口で、なるべく平易でわかりやすい単語を選びつつ、ユーモアも忘れない。でも言葉の芯は太くて重みがあります。池内さんの体と一体となって発せられる言葉に、聞いている側も全身で吸収するように応えたくなります。
いつかやってみたいと思っていた「腰の遊び時間」(⇒過去記事)を、私も参加者の中に混ざってやってみました!床と壁をパートナーにして、自分の腰から肩、そして全身をくまなく気持ちよく、幸せにしていくのです。やってみてわかったのは・・・私の意志(欲望)がいかにひ弱かということ。基本的に逃げ腰であきらめが早く、目的達成できなくてもグニャリと開き直って妥協してしまう。そんながっかりな性質を自覚できました(汗)。不要な羞恥心のせいもあるかも・・・む~自宅でもやってみよ!
エクササイズの後には必ずと言っていいほどフィードバック(振り返り)の時間があります。自分が感じたことを言語化することで認識を確かなものにし、参加者全員と共有するのです。講師からのさらなる助言を引き出し、新たな視点や問題意識が生まれることもあります。ワークショップのいいところですよね。学校教育の現場でもやって欲しいと常々思うのですが、ただやればいいというわけではないのでしょう。池内さんに限らず、俳優指導者の方々の人との接し方は、とても柔軟で穏やかです。分け隔てなく1人ひとりと誠実に向き合い、お互いに自立して尊重し合う関係を、初対面の時からつくってくださいます。俳優指導者という職能の奥深さは、俳優のそれと同様、計り知れません。
最後は課題戯曲『フール・フォア・ラブ』を全編読みました。エクササイズの時の印象とガラリと変わる方が多くて面白いです。それにしても手ごわい脚本だ・・・。このスタート地点からどのようにお芝居が立ち上がっていくのか。ワークインプログレス公開の前にもう一度、シーン・スタディーの稽古を見学する予定です。
日程:2010年12月10日(金)~23日(木・祝)*12日(日)、19日(日)は休み 時間:11時~17時
対象:俳優で全日参加のできる方/20歳~40歳位 経験:2年以上俳優としての実技経験のある人
受講料:30,000円
主催:俳優指導者アソシエーション(本日の出席者:池内美奈子 川南恵 石本興司 鍬田かおる 小森創介 齊藤裕加 藤野節子)
http://asatp.org/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Conclave『ラスコーリニコフとスヴィドリガイロフ~「罪と罰」より~』12/08-19ワーサルシアター
ドストエフスキーの小説「罪と罰」を1時間半強で見せる舞台。企画・演出・出演は俳優の中嶋しゅうさん。新国立劇場演劇研修所の修了生が多数出演しているので観に行きました。
シンプルな空間での俳優の演技対決。表情の奥の奥を覗き込んで集中できました。小さな劇場の客席に有名な俳優さんがいっぱい!中嶋さんの企画ですものね。
⇒CoRich舞台芸術!『ラスコーリニコフとスヴィドリガイロフ~ドストエフスキー「罪と罰」より~』
基本的に何もないブラックボックス。イスやテーブルになる黒くて四角い箱が数個と、ドアやパーテーションになる枠、木などを動かして場面転換します。衣裳は黒で統一。役によって模様と色の違うマフラー(ショール)がポイントです。特に派手な仕掛けがあるわけではなく、とにかく俳優の演技を丁寧に見せていくお芝居でした。
2時間半以上はあるだろうと勝手に覚悟していたのですが、すっきりと短くて少々驚きました。以前にも「罪と罰」を2時間未満にした舞台を観たのですが、どこをカットして、どこを重点的に描くのかで全然違うものになりますね。
タイトルの『ラスコーリニコフとスヴィドリガイロフ』は「罪と罰」に登場する男性の名前です。ラスコーリニコフ(斉藤直樹)は強盗殺人をしてしまう貧乏学生、スヴィドリガイロフ(前田一世)もまた重大な罪を犯してしまうお金持ち。2人を主軸に、特に内面(感情)の変化に焦点を当てていたと思います。
1対1の会話をする時の、役者さんの目の力が強いです。その場で起こる感情に正直に演技をされていると思います。真剣勝負ですね。
メインキャストは皆さん好演。中嶋しゅうさんと北川響さんの警察コンビが微笑ましかったです。テレビや映画でよく見るデコボコでほんわかな感じ。
ただ、これは好みの問題だと思いますが、照明が全体的に暗くて表情が見えづらかったのは残念でした。ろうそくをたくさん使ってらしたので演出意図だと思います。
ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。
貧乏学生のラスコーリニコフは高利貸しの老婆を殺して金を奪い、偶然それを目撃した若い娘リザベータも殺してしまいます。警察に追い込まれてハラハラするエピソードがごっそりカットされていました。斉藤直樹さんは大げさに深刻ぶらない主人公で、彼の行動(罪)を通して色んな事を考えられたのが良かったです。
ラスコーリニコフの妹ドゥーニャ(根岸絵美)は家庭教師をしていた家の主人であるスヴィドリガイロフに見染められますが、スヴィドリガイロフの妻マルファ(根岸絵美)にそれがばれて、ある弁護士と婚約することになります。ドゥーニャとスヴィドリガイロフの駆け引きがぎらぎらしていて、エッチで良かったな~!スヴィドリガイロフがドゥーニャのことをひどく愛している、そのことがセクシー。前田一世さんは観る度にセクシー度が増していきます。
娼婦ソフィー(髙島玲)の歌声がとてもきれい。ソフィーがラスコーリニコフを説得する場面で、「遠くにいる、神様が見ている」というセリフの“神様”という言葉に、打たれました。目には見えないけど確かに存在する大きな何かであること、そしてソフィーがそれを本当に信じていることが、しっかり伝わってきました。こういう言葉を聞くために私はお芝居を観ているんだと思います。
最後にラスコーリニコフが警察に出頭したかどうかは、私には読みとれなかったな~。
開演前の余興として和太鼓、トランペットの演奏、そしてダンスが披露されました。楽器を演奏したお2人は上演中も音楽を演奏されていたと思うのですが、それも見せて欲しかったですね~。生演奏であることが目に見えた方が贅沢気分になれたと思います。空間の都合かもしれません。
出演:斉藤直樹(ラスコーリニコフ)、 野口俊丞(ラズミーヒン) 、前田一世(スヴィドリガイロフ)、北川響(ザメートフ)、中嶋しゅう(ポルフィーリ)、根岸絵美(マルファ/ドゥーニャ)、大沼美和子(プリヘーリャ)、佐伯花恵(アリョーナ/ハナーエフ)、髙島玲(ソフィー)、木村菜穂子(リザベータ)、保可南(ナスターシャ/タモッツァ) 原田みのる(ミノルスキー)※ダンサー、金刺敬太(楽隊/ケイタスキー)、木坂麻美(楽隊/アサミャ)
「罪と罰」原作/フョードル・ドストエフスキー 企画・演出:中嶋しゅう 振付:原田みのる 音楽(生演奏):金刺敬太(和太鼓)、木坂麻美(トランペット)脚本:北川響 舞台監督:村田明(クロスオーバー) 照明:吉川ひろ子(CAT) 衣裳:木村菜穂子 衣裳協力:キャピタル 票券管理:堀内淳 制作:横内里穂 協力:新国立劇場演劇研修所 企画製作:Conclave(コンクラーベ) 制作協力:田中浩補 宣伝美術:冨田中理(Selfimage Produkts) 宣伝写真:引地信彦
【発売日】2010/10/30 全席指定 前売4000円/当日4200円(税込)
http://www.rideout-inc.com/tsumitobatsu.html
http://members.jcom.home.ne.jp/conclave/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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