渡辺源四郎商店のドラマターグの工藤千夏さんの新作です。“工藤支店”とは、同劇団に所属する工藤由佳子さん、工藤静香さん、そして工藤千夏さんという同じ名字の3人によるユニット名。
2日間4ステージの東京新春公演初日を拝見しました。上演時間は約1時間20分。タイトルの所以について触れられていますので、当日パンフレットをお読みになってからご覧になってもいいと思います。
晴れやかな新春気分が盛り上がる内容ではありませんでしたが(笑)、今の私にはぴったりの内容でした。元気づけられました。
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≪あらすじ≫ CoRich舞台芸術!より
いつか王子様が……ずっと待っていた女の元に、ひとりの男が現れた。彼が話す中東の国と王子は果たして実在するのか……。
≪ここまで≫
銀行勤めの女性(工藤由佳子)が職場で出会った男性(大林洋平)と親しくなりますが、男性の語る内容がどうにも嘘っぽいのです。でも女性はそれを信じてしまいます。ストーリーというか、舞台上で起こる出来事の骨組みはそれだけなのですが、終盤でグっと想像力をかきたてられる展開がありました。
女の孤独な闘いが描かれていると思いました。でも男だって孤独ですものね。人間の孤軍奮闘は死ぬまで続きます。孤独な人間同士、お互い孤独だねぇと無言でうなづき合って、一緒に居られたら幸せだなと、新年早々、腹をくくることができました(笑)。
ここからネタバレします。
黒い木製の机があるだけの舞台。天井から垂れさがる多数の布地が、中東をイメージさせます。レースがいいですね。
「中東にある小さな王国シャリバールの国王妃殿下になってください」という、ひどい嘘にだまされる30歳の女性。あからさまな結婚詐欺です。でも騙されるんですよね~・・・。むしろ女性は騙されたくて騙されているような。同じ被害者の女性(天明留理子)が彼の嘘を2人の目の前であげ連ねて、あげくにお金もだまし取られたと告白しても、まだ信じます。男の方も引き続き平気で嘘を重ねるので・・・あきれます。ここまでくると病的に見えて笑えないほど(笑)。
時折はさまれる女性が男性を見送る場面は、不倫相手との関係を示すものでした(と思う)。不倫相手に「中東の国王と結婚する」と伝えても「おめでとう(そしてさようなら)」と言われる始末。女性は詐欺師のために銀行のお金を横領するという、犯罪までも犯してしまいます。
結局女性は詐欺師に捨てられ、孤独なまま約55年が過ぎます(「2001年の9.11から65年が経ちました」というアナウンスがあるので、そのように想像)。彼は結婚相手を探しに来たのではなく、テロ組織のメンバーで活動資金を集める使命を持っていた、とも想像できます(そのようなニュース音声が流れるので)。でもそれも慰めにすぎないのかもしれません。
女性役の工藤由佳子さんが衣裳も何もかもそのままで老婆となり、冒頭の長セリフを繰り返しました。これが悲しい。牢獄内での回想とも想像できます。最後は男性が「ただいま!」と帰ってきます。それもまた彼女の妄想なんでしょうね。
女性が不倫相手に言われた「君が決めたことでしょう」に尽きるなぁと思いました。結局何でも自分で決めて自分で行動してますものね。
女性が男性に反撃した場面(女性が「スズキさん、私のこと好きなんですよね?」などと言って男性に迫る)が演技対決の意味では一番楽しめました。
≪青森、東京≫ 渡辺源四郎商店工藤支店Vol.2 東京新春公演
出演:工藤由佳子 大林洋平 天明留理子(1/2出演)山藤貴子(1/3日出演)
声の出演:夏目浩光(RAB青森放送)、落合昭彦(えふえむ花巻・FM One) 工藤千夏
脚本・演出:工藤千夏 音響:藤平美保子 舞台監督:浅沼昌弘 舞台美術:工藤昇平 演出助手:三上晴佳 宣伝美術:Griffe inc.(工藤規雄+橋本麻由実) 公演写真:田中流 制作:西後知春、おりゅう 総合プロデューサー:畑澤聖悟 主催:渡辺源四郎商店 共催:青年団リンク・うさぎ庵 企画制作:渡辺源四郎商店工藤支店 提携:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
<終演後に新春トーク>2日14時、18時の回 ゲスト:水下きよし(花組芝居俳優/演出家)/3日18時の回 ゲスト:多田淳之介(演出家/東京デスロック主宰/埼玉県富士見市文化会館キラリ☆ふじみ芸術監督)
【発売日】2010/11/20 一般前売料金3,000円/学生2,000円/高校生以下500円/当日各300円増し 【工藤さん割引】受付で確認後に100円キャッシュバック/【なべげん友の会2010】友の会招待券使用可
http://www.nabegen.com
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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